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第十七話 かわいい恋愛①

中学生活の一年目はあっという間に過ぎていった。毎日毎日柔道の練習。朝練、放課後の練習、家に帰っても柔道のビデオを観たり本を読んだり、筋トレしたりの生活が全てだった。一年生のうちに初段になるという目標はかなわなかったが、毎日少しずつ強くなっている実感はあった。

私の通っていた中学の柔道部には女子部もあった。人数もそこそこいて、男子と同じく県内では強豪校の一つだった。入学当初は背も小さく、痩せ型だった私(45㎏くらい)は、よく女子部の方の練習相手もやらされていた。

私の中学の練習プログラムは、準備運動(柔道独特の物)、打ち込み、投げ込み、乱取り、寝技、筋トレ、ストレッチ、といったものだった。

自分はもっと強くなりたいのに、女子の相手をさせられることには、少し納得のいかない部分もあったが、組み合ったときに少しだけ胸に触れる感触が、思春期だった私をとてつもなく興奮させた。

女子部の中には、同じクラスのくみちゃんという子がいた。背が小さくて、少しポッチャリしていて、顔も含めてお世辞にも可愛いとは言えない容姿の子だったが、明るくて愛嬌があって、実は少し気になっていた。くみちゃんも、同じクラスという事もあってか、私にはよく話しかけて来たり、技を掛けるコツ等を聞いて来たりしていた。

中学生活もそろそろ一年が過ぎようかという、2月14日、練習を終えて同じ方角の部員たちと家まで歩き出す。くみちゃんたち数人が、私たちの後を少し距離をとってついてくる。つよしが「お前にチョコレート渡そうとしてんじゃねーの」と私をからかう。しょうちゃんが「あんなブスからもらってもしょうがねーよ」と言う。コジマ君が「お前あのブスのこと好きなんじゃねーの」と続ける。私は恥ずかしくなって、「あんなブス全然興味ねーよ」と言った。

くみちゃんと一緒にいた、横幅が私の倍はありそうなまゆみちゃんが、「ちょっといーい」とわたしを呼び止めた。「なんだよ!」私は面倒そうな声を出して言った。「ちょっと来てよ!」リーダー的存在の巨漢のまゆみちゃんが、さらに私に言う。渋々くみちゃんたちのもとに行き、「なに?」と言うと、くみちゃんが恥ずかしそうに、「これっ」っと言って私に綺麗にラッピングされたチョコレートを差し出した。少し離れたところでは、つよしたちが、「もてるねー」「付き合っちゃえばー」「お似合いだよー」と囃し立てる。

本当はくみちゃんが私に好意を持ってくれていたことが、嬉しくてしかたなかったのだが、何故そう言ってしまったのか、「そんなのいらねーよ」と言って、小走りでつよしたちの元へ戻った。チラッと後ろを振り返ると、くみちゃんは泣いていた。まゆみちゃんは大声で「ふざけんなよっ!かわいそうじゃん!」と叫んでいた。私は動揺しているのを悟られないように、家へ向かって歩き出した。

今回は思春期の中学時代のエピソードでした。共感していただける方も多いのではないでしょうか。次回はくみちゃんとのその後の話です。

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