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第四十四話 金と薬とそれに群がる人

なんだかんだと姉の家に1週間ほどいた私は薬もだいぶ抜けていて、ちょっとした禁断症状に陥っていた。姉の「今は何やってんの?」という問いに「売人やってる」と答えると、「そんなことやってないで東京でも出てきて仕事したら?そうすれば私も助かるし…仕事も紹介するよ?」「私もやってたから分かるけど自分がダメになっちゃうよ」と姉は言葉を続けた。『お前が言えたことか』、と思いつつも、『確かに経験したから分かることもあるのかもな?』と思ったりもした。

アパートにつくと見慣れた奴らが思い思いに好きな事をして遊んでいた。薬をやってる奴、酒を飲んでる奴、女とイチャイチャしている奴と色々いた。皆、私と仲良くやっていれば薬がタダでやれて女にも不自由しなくて、遊びの金もかからない。いつからか私が全部出すのが当たり前になっていたからだ。結局はその程度の付き合いの奴も数えきれないくらい大勢いた。私と一緒にいたいのではなく、薬と金を持っている私と一緒にいたかったのだ。

わたしの彼女のりっちゃんという女の子がいた。りっちゃんはシンナーが大好きでシンナーを吸いながら楽しそうにみんなと話をしていた。私の顔を見るなり「おかえり」と言って飛びついてきた。彼女の中では女は自分一人というのが当たり前と思っていた。売人はとにかくモテる。モテるというより金回りが良かったり、付き合えば薬がタダで出来るという打算的な考えで近づいてくる女がほとんどなのだが。私にもそういう女がたくさんいた。私は薬や若い世代にはできないような遊びを提供して、女は身体を差し出す。当時はそれも自分のステータスの一つであったわけだが今考えるとなんてくだらない事をしていたのかと自分に呆れてくる。

りっちゃんはその中では、薬や金とは関係なく私の事を好きでいてくれる存在だった。(多分そうだったと思う)私が在学中に駅でナンパしてそれからの付き合いになる。シンナーで釣った子だったので当然シンナーが大好きな子なのだが、素の状態でもとても可愛くていい子だった。私が当時住んでいたアパートがある市内に住んでおり、近くの高校に通っている私の一つ上の女の子だった。普段から異常なやきもち焼きで客だろうが女友達だろうが、私に近寄ってくる女には、全てに敵対心を持っていた。私が他の女と遊んでいると聞きつければ、その場に乗り込んでくるような子だった。

りっちゃんの家は両親と、離婚して実家に帰って来ていた姉の4人暮らし。両親はあまりうるさい事を言う訳でもなく、私が家に遊びに行っても、そのまま泊まってしまても、学校にさえ行ってくれればいいという自由な家庭環境だった。りっちゃんはとにかくSEXが好きだった。自称私が初めてといっていたが、それも疑わしく思えるくらい私の身体を求めてきた。私も女は好きなほうだったので大歓迎ではあったのだが、草を吸っているときには性欲があまりわいてこない。りっちゃんはシンナー専門でラリっていると余計に性欲が高まってしまうのだ。仕方がないのでりっちゃんと一緒にいる時はチャーリーを食うようにしていたのだが、毎回という訳にもいかない。私自身はチャーリーも好きだが、草の決まっている感覚が一番合っていたからだ。

人がたくさんいる場面でも、常に私の横に陣取り私の下半身を触っているという、本当に面白い子であった。それから私にもいろいろあるが、その後もりっちゃんとは3年ほど付き合う事になる。当時はあまり聞く言葉ではなかったが、りっちゃんはSEX依存症だったのではないかと今になって思う。当時に比べて今では様々な事に病名が付けられる時代になっているが、私個人の意見としては、一長一短なのだろうと思う。診断名が出されればそれを鵜吞みにし、病気なんだから仕方がないとか、病気だという事にショックを受け日常生活に支障をきたしてしまう人も多くいるだろうし、診断名が出されなければ、自分の症状が普通なのだと思ったまま犯罪行為に走ったり、周囲の人に迷惑をかける行為をする人も出てきてしまうのだろう。とにかく今は何をするにも生きずらい世の中になったなと思うこの頃である。

今回は何でもないただの日常の彼女とのエピソードでした。次回も日常のエピソードの中から何かをピックアップして書きたいと思います。

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次回に続く

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