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【M&A】3年間のウクライナ駐在を振り返って

私はこれから、ウクライナでの任期を終えて日本に帰ります。

2019年1月16日に着任したので、ピッタリ3年間ウクライナにいたことになります。また買収前の2年間があるので、「本M&A案件に関与した期間」という意味では丸5年間になります。

「ウクライナのめちゃくちゃドメスティックな資材問屋を買収し、400人の会社に一人で単身乗り込む」という、相応に激しいプロジェクトでしたが、3年連続最高益更新・売上/従業員数十%増(*)、コンプラ違反ゼロ、という結果を残して帰ります(※こんな感じで書けないこともあります。ご容赦ください)。

今回はこの5年間をつらつらと振り返りながら、何故そういった結果を残せたのかを自分なりに振り返ってみます。読者の方の何かしらの参考になれば幸いですが、今回は文字数気にせずに書きますので、その点はご容赦くださいませ。

「ピン!!」ときた社長面談

私は主要メンバーとして買収したブラジル案件に2016年末まで4年間携わっており、2017年に本案件に呼ばれました。当時は所謂「基本合意書締結前」、つまりDue Diligence(以下、DD)を始めるための基本条件について売主と合意したところでした。

ウクライナという国は農業界では世界トップクラスの国ですので、そこをターゲットにすること自体には何の違和感もありません。が、その時点では正直「見た事も無い会社の案件」でしたので、取り敢えず粛々と社内作業をしていました。

「取り進め可」の社内承認を得たのち、晴れて案件主担当となり、早速現地へ。DDの起用候補先との面談も行いながら、ついに売主との面談。売主は3人おり、その内の一人が現社長。

その社長とお話して十数分後、私は確信していました。

この社長さんとなら絶対に成功出来る。

今から考えれば根拠は説明出来ますが、当時は完全に直感です。類似の事業をブラジルで死ぬ気で4年間やった直後だったので、恐らくアンテナがビンビンに立っていたのだと思います。

根拠を全部話すと完全にノウハウの流出になってしまうので言えませんが笑、「お互いが補完関係にある」ことが感じられたからでしょう。

多くの買収案件では、ついつい買い手が独りよがりになります。「買ってやる」的な。品定め的な。勿論、M&Aは性質上基本的に「負け」から始まるものですし、多額のCashを消費するので、慎重になることは正しいです。

しかし、慎重=粗探しになってはいけません。そのマインドでは失敗する確率が下がるどころか、成功する確率が下がります

買収価格をJustifyするには、買収後の成長が不可欠だからです。横這いでは失敗です。成長するためには何が必要か?簡単です。

「その会社の強みが遺憾無く発揮され、弱みがパートナーによって補完される」

これが出来れば良いのですが、実はDD段階から「粗探しDD」のようにやり方を間違えているケースが少なくありません。

私は社長との面談でこの点を確信したからこそ、それから5年間、今日まで走りきってこれました。買収後の3年間は「私の直感を証明するための戦いの期間」だったのかも知れません。(詳細は“欠点があるからこそ、君とやれる”参照)

PMIって会社をガラッと変えること?

この5−10年でPMI(Post Merger Integration)という単語が大分有名になりました。まあ平たく言えば「結婚するまでより、結婚した後の方が大事よね。特に結婚直後の擦り合せってめちゃ大事よね」ということです。

多くの日本企業が「買収しっ放し」で買収後の成長を実現出来ずに減損を繰り返し、「買収してひと段落、じゃなくてそれがスタートラインじゃね?」と気付いたということですね。

良くPMI関連記事で「最初の100日で変えられる部分はガンガン変えていく。人も整理していく」というようなものを見ますが、一部の赤字企業の買収→ターンアラウンド案件を除き、賛成出来ません。

買収される側というのは、本当に大いなる「恐れ」を抱いています。そこへの配慮無くして、その後長きに亘る「従業員の心からの支援」を得られるとは到底思えません。

「M&Aはどれだけの人の人生に影響を与えてしまうのか、考えよう」でも述べましたが、M&Aは多くの人生を好転させることも出来れば、暗転させることも出来ます。ですので、やること・変えることは研ぎ澄まし、それらに集中して変化を加えていくべきだと信じます

では、どうやったら研ぎ澄ませるのでしょうか。

PMIで見るべきポイントはDDで分かってるはず

「買収前」と「買収後」の人事を切り離して考える向きが依然としてあります。大企業の「ローテーション」の観点からすると、3年とか5年は長いのでしょう。

しかし、DDの目的は「強みと弱みを炙り出すこと」です。それらが交渉材料にもなりますし、シナジーの検討材料にもなります。そこで炙り出された弱み達は、そっくりそのまま「PMIで取り組むべきアイテム」になります。

なので、論理的な帰結として「DD・交渉・PMIは全て同じ人間がやる」ことがPMI成功の重要な必要条件です。

私はブラジルとウクライナでまさにこれを行い、PMI初日からロケットスタートを決めることが出来ましたし、あっちこっちに手を出さなくて済んだので不要なコンフリクトを避ける事が出来ました。(詳細は”一気通貫に担当、一択”参照)

全てを知ろうとしない。そしてシャッターを下ろす。

私の肩書きはFinancial Controller。まあ、CFO補佐みたいなもんです。それと同時に、PMI Management Officerという称号もありました。これはPMI期間中だけ存在する「PMI責任者」ということですね。

PMI Officerとしてはかなり横断的に動けますが、社長ではありません。ここで良く勘違いする人がいます。

親会社から派遣された派遣員、特にPMI責任者は、その会社のことを全て分かっていて当然

そんなわけないんですよ。それじゃ社長が二人になってしまう。上でも述べた通り、DDで炙り出された問題点(若しくは一気に伸ばせる強み)に集中してPMIを行う。勿論周辺情報も必要ですのでそこは理解を深めますが、都度都度フォーカスするポイントは絞らないといけません。

一方、親会社からは「Aはどうした」「Bって何」「レポートによるとCが減っているが?」「Dを先にやれ」・・・・・集中を妨げる多様な質問と依頼が来ます。

現場のことは現場が一番分かっています。あっちこっち行くと、効率が落ちるだけでなく現場の雰囲気が悪くなります。ということで、私はこうしました。

本社からの質問と指示を全てシャットダウン

これをやったことでPMIで成果が出やすくなり、その成果を報告して、初めて理解して貰えました。質問に答え続けても、PMIで成果が出なかったら意味がありません。

もしこれを読んでいる方が本社側の方であれば、どうか現場に任せてあげてください。もし現場側の方であれば、自信を持ってシャッターを下ろしてください。
(詳細は”可愛い子には権限と責任を渡そう”をご覧下さい)

自分に意思決定権の無いことには責任を取らない

「権限」と「責任」は表裏一体です。決めた人間が、その結果に対して賞賛を受ける権利と責任を取る責務を得ます。

にも関わらず、社長でもない派遣員が、自身の関係ない分野で出た損失について本社から怒られているケースが存在します。というか、殆ど。なぜか謝る。

私は、為替や借入、PMIでの問題解決漏れ等々、私の職掌範囲内のことで損が発生したときには潔く失敗を認め、すぐに対応します。ですが、私に関係の無いところでの損失での諌めに対しては断固反論します

謝ってはいけないのです。何故なら、その責任を取るべき人が別にいるから。関係ない人間が謝ると、本当の当事者の意識が下がり、対応は遅くなるわ、同じことがまた起きるわで良いことは全くありません。

こういうことを言うと「当事者意識が低い」とか言われますが、逆です。「当事者意識が高く、他の社員の当事者意識も尊重している」のです。派遣員と事業会社社員は一心同体。どちらかがどちらかを庇うような関係では、PMIも何も上手くはいきません。

派遣員・事業会社関係なく、事業会社社員全員が自分事として買収後事業に携わるように全力で配慮すること

これは、特に大企業による買収で留意すべき点だと思います。

上手く回り始めたら、待つ・見る

PMIが一段落すると、手を付けたところが上手く回るようになります。そうするとどうなるか、暇になるんですね。PMI責任者が。

PMI中に何かを推進している時は猛烈に忙しいですし、それが楽しい。しかし、PMIの一つ一つのプロジェクトの目的は

自分が手を出さなくても回るような仕組みを作る

ことであり、派遣員が忙しい状態は不健全です。なので、一つのプロジェクトが落ち着く=派遣員の関与が無くなる=派遣員の手が空く、ことになります。

そうすると、派遣員はやりたいことはまだ沢山あるので、さっさと次に行こうとします。でも事業会社側からすれば、その案件について「これから自分たちで全てやる」という新しいステージに入ったばかりです。

ここでまた新しいプロジェクトを始めてしまっては、集中力が散漫になり、導入が完了した仕組みに対する習熟度が上がりません。

ここで大切なことは「待つ」こと。この3年間で私に身に着いた一番のスキルかもしれません。質問を待つ。自発的なUpdateを待つ。仕事したくならないように、業務時間中にWifiを切って本を読んでいたこともあります笑

そしてそれがしっかりと血肉になったと思ったら、また新しいことを提案する。

自分の時間軸だけで物事を考えないようにするというのは、どうしても焦りが生じがちな一人派遣員が特に大事にするべきことだと思いました。

やっぱりVulnerability

先日のnoteで触れた「Vulnerability=自分の弱さを曝け出す」、という点ですが、派遣員にも非常に重要な観点だと思っています。

人によっては「舐められないように強気の態度で行け」と派遣員にアドバイスをする人がいますが、私は強く反対の立場を取ります。

人と人のコミュニケーションを大きく阻害するもの、それは「恐れ」です。「行ったこともない国の、知らない会社から人が来た」。これだけで十分な恐れを生みます。そこで強気の姿勢なんて取ったらどうなるでしょうか。瑣末なことは言いに来てくれず、「絶対に必要なこと」しか教えてくれません。

「全てを知ろうとしない」と言いましたが、自力を使わずに知れるならそりゃ知った方がいいです。

出来る限り敷居を下げ、何か教えてもらったり助けてくれたら、全力で感謝をする。その繰り返しが周囲に心理的安全性を醸成し、好循環を生みます。

私がこの3年間でそれだけは出来ていた自信があり、これがほぼ全員言葉の通じない会社である程度パフォームし続けられた最大の要因じゃないかなと振り返って思います。

まとめ・おわりに

まとめると、
(1) お互いの強みと弱みが上手く噛み合う会社を選ぶ(流儀⑦)
(2) DDとPMIは繋がっていて、PMIでは限られたアイテムに集中(流儀①・⑥)
(3) 余計なことをしない。外野からのボールは無視(流儀⑧)
(4) 権限と責任の範囲はちゃんと意識。なあなあにしない。
(5) 一歩進んだら、止まる。焦らない。 
(6) 恐れずにさらけ出す(Vulnerability)
となり、なんか過去に書いたことの総集編みたいになってしまいました。

私は当面M&Aからは距離を置くことになりそうですが、次の領域での経験と掛け算出来ることがありそうで、今から楽しみです。

もしこちらのnoteをご覧になって、私個人にご興味を持っていただいた方がおられましたら、いつでもTwitter経由ご連絡くださいませ。
では、また来週お会いしましょう。

細田

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