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【感想】すずめの戸締まり *11/21追記

新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」を観てきました。正直、そこまで期待しないで観に行ったのですが、思っていたより良かったです。

本稿は【感想】として、観るなかで感じた良かった点と気になった点を簡単にまとめたいと思います。あとで投稿する予定の【考察】では、作中に登場する「ミミズ」と地震について、村上春樹の小説「かえるくん、東京を救う」との関連を述べたいと思います。

なお、本稿はネタバレがありますので、まだ観ていない方はご注意ください。

良かった点

⒈映像が美しい

新海作品であればもはや言及する必要もないほどですが、映像がとても綺麗でした。今回は都会よりも田舎の風景がメインでしたが、リアル感がありながら鮮やかな色づかいはとても魅力的です。特に新海監督が重要な場面で多用する虹色のグラデーションについても、幻想的な効果を十分に発揮していました。

⒉主題歌が良い

主題歌の「すずめ feat.十明」(RADWINPS)のメロディーが美しく、作品とよくマッチしていました。女の子が主人公ということもあり、ボーカルに女性を起用したのは正解だったと思います。

⒊普通の人々が魅力的

主人公に関わる周辺の人たちがとても生き生きと描かれています。実家の旅館を手伝う高校生の海部千果、二児の母ながらママとしてスナックを切り盛りしている二ノ宮ルミ、主人公の叔母で保護者の岩戸環に想いを寄せる不器用な同僚の岡部稔、ホストっぽい見た目ながら教員を目指している大学生の芹澤朋也など、ごく普通にいそうなサブキャラでも主人公に劣らない魅力をもっています。個人的には芹澤がとても好きです。

⒋声優が上手で役にはまっている

それぞれのキャラと声優さんがうまくマッチしていたと思います。アニメによっては、声に違和感を覚えてしまい内容に集中できないことがありますが、本作ではそういうことはありませんでした。感情表現もとても豊かだったと思います。

⒌被災地の描写が丁寧(11/21追記)

他の方の感想を見ていて、被災地の描写について触れるのを忘れていることに気づいたので追記します。

既に多くの方が言われているように、東北の被災地の描写が丁寧です。

筆者は実際、2019年の夏に福島県いわき市から岩手県釜石市までの海岸線を車で走ったことがあります。震災から8年が経っていましたが、被災地が現在どうなっているのか自分の目で見ておきたかったのです。被災した当初に比べれば復興はかなり進んでいたのでしょうが、それでも手がつけられずに植物が生い茂っている廃墟など、災害の爪痕は色濃く残っていました。

南三陸あたりの海岸
壁のような護岸設備。海は見えず、もう人が住んでいない場所にも建てられていた

もう3年前になるので、現在の状況はまた変わっているのでしょうが、実際に目にしたものが比較的忠実に再現されていることによって、当時の記憶が鮮やかに蘇ってきました。

また、それに関連して触れておくと、東北に向かう道中で被災地を見たときの芹澤のセリフと、それに対する鈴芽の反応がとても印象的でした。

芹澤「この場所ってこんなに綺麗だったんだ」

鈴芽「この場所が、綺麗?」

実際に筆者も、被災地を見るなかで災害の痛ましさを肌で感じつつも、傷ついた土地を植物が静かに癒しているような光景に、ある種の美しさのようなものも感じてしまいました(被災された方には申し訳ありません)。この芹澤のセリフと鈴芽の反応には、部外者である自身の視点と当事者である被災者の視点との乖離を指摘されたようで、ハッとさせられました。

気になった点

⒈説明が足りない

作中では様々な超常的な事件が起きますが、なぜそうなったのか、その結果どうなるのか、といったことの説明が全体的に足りません。

例えば、東の要石であった「サダイジン」がなぜ抜けたのかについては、物語の進行上、非常に重要な要素であるにも関わらず、説明はほぼありません。最初は「ミミズ」を呼び出すため「ダイジン」が意図的に抜いたというような感じで描写されますが、後にダイジンの仕業ではないと判明します。勝手に抜けたと言えばそれまでですが、大切な封印がそんなにヤワでいいのでしょうか。

また、そのサダイジンについても能力や行動原理が不明です。登場時に叔母の環を操って鈴芽に酷いことを言わせているようなシーンがありますが、本当にサダイジンがやらせているのか、やらせているとすればなぜなのかについて、詳しい説明は一切ありません。

この他にも説明不足な部分は多くありますが、全体的に勢いで誤魔化しているという印象は否めないでしょう。

⒉設定の詰めが甘い

前述の勢いで誤魔化しているというところに通じますが、詰めの甘い設定が目立ちます。

例えば、主人公の鈴芽が最初に要石であったダイジンを抜いてしまいますが、そのとき要石はこちら側の世界=浮世にありました。しかし、その後に草太が要石になってしまった場面では、要石はあちら側の世界=常世にあり、浮世からは干渉できないことになっています。もし要石が浮世から干渉できないものであるなら、なぜ最初に鈴芽は要石を抜くことができたのでしょうか。

この点について、仮に要石を浮世と常世の境界にあるものとするならば、浮世と常世のどちらからでもアクセスできると考えられるかもしれません。しかし、それでも最初に要石を抜いたときのあっけなさと、要石となった草太を抜くときの過酷さを比べると、そのギャップには違和感を覚えてしまいます。

また、細かいですが、草太が「閉じ師」だけでは食べていけないので教師との二足の草鞋でやっていくという話についても、かなりチグハグな印象を受けます。「閉じ師でいくらかは収入が発生するなら、そのスポンサーは誰?」とか「教師になって全国を回れるの? リモートワークできるフリーランスの方が良くない?」とか、変なところで引っかかってしまいました。

⒊キャラの掘り下げが足りない

良かった点で挙げた「人々が魅力的」ということと矛盾するようですが、一部のキャラの掘り下げが足りないように感じました。

特に主人公の鈴芽に関しては、言葉数が多く表情自体は豊かなものの、セリフの奥行きが欠けており、リアルな人間性を感じることが難しかったです。

例えば、前半のミミズを封じるシーンで、草太から「死ぬのが怖くないのか?」と問われて「怖くない」と答えていますが、なぜそのように思っているのか分からず、またそもそも本当にそのように思っているのか疑問にすら感じてしまいました。おそらく震災で母を亡くしたことによる絶望感や自暴自棄の感情が根底にあるのでしょうが、「明るい普通の少女」という描写が強く、真に迫るような心の「影」が感じ取れませんでした。

また、準主人公の草太に関しては、登場時はミステリアスな大人のように描写されているものの、椅子に変身してからの言動があまりにも普通すぎて、最初の印象が悪い意味で崩れていってしまいます。要石になってしまう場面でも、一旦は重要な役目を静かに引き受けているようでありながら、鈴芽への恋心(?)から反発するシーンは、先祖代々の役目を放棄して駄々をこねている子どものようにも見えてしまいました(「黙って役目を引き受けろよ」と思って観ていたわけではありませんが)。

教師になりたい理由など、もう少し内面を掘り下げることができていれば、もっと違和感なく観ることができたのではないかと思います。

まとめ

以上、大雑把に感想をまとめてみました。良かった点より気になった点が多くなってしまいましたが、それでも基本的には良い映画だったと思います。

特に東日本大震災を取り上げるのは、制作側としてはかなりの挑戦だったのではないかと思うので、そこに踏み込んでいったことには素直に賛辞を送りたいと思います。

ただ一方で、雑に見える描写や勢いだけで乗り切っているような部分が多かったことも事実なので、そういった点は非常に惜しかったです。

最後までお読みいただきありがとうございました。【考察】についてもできるだけ早めに投稿したいと思いますので、よければそちらもご覧ください。

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