スケッチのこと
長島・さざなみハウスでの福江元太さんとのライブ「Draw The Sound」 が終わり、ありがたいことに引き続き僕のドローイング展が開催中だ。学生時代から続けているスケッチ/ドローイングだけど、今回のように(デザインと切り離し)単体で“作品”として扱うのは初めての試みである。
22歳のとき大阪芸術大学大学院の芸術研究科に進んだ。領域は環境・建築。
スケッチとの出会いは、指導教官だった建築家・狩野忠正先生によるものだ。先生は何事にも厳しい人で、不真面目な僕はよく叱られた。何度も泣いたし、何度も逃げ出した。当時僕は22-25歳だったから恥ずかしい話だけど。
先生と出会ってそう経たないある日、「水のスケッチ」を描くことがあった。僕はそれまで通りに水を見て、水面の波なみ模様を描いて提出すると「違う」と突っぱねられた。次の週は丁寧にしっかり観察して描いたけど受け取ってもらえない。その次は水の事を本で調べて、これでもかときちんと描いたがそれも駄目だった。先生は禅の老師のようで、答えを教えてはくれない人だった。先生と僕のそんなやり取りが数ヶ月続いたが、どうにもこうにも先生の言わんとする「水の描き方」がわからなくて、僕は完全に追い詰められて、家族と昔よく旅行した琵琶湖の湖水浴場に向かった。
まだ少し肌寒い夏前だった思う。着くなり砂浜から湖に飛び込んで、水中から水面を眺めた、そしてその夜は砂浜に寝そべり脚を水に浸けたまま、波音を聞きながら野宿した。水と溶け合うような夜だった。夜の波の音、冷んやりした水温は今でもはっきりと覚えている。その日、水の中で描いたボロボロで真っ黒で泥まみれのスケッチをその週のゼミで先生に見せた。先生はスケッチを見て、事の次第を聞いて「そうだ」と仰って、「水を描く」課題は終わった。
スケッチの本質は、紙に写し取った姿形にあるのではなく、その対象物を観察したときの体験そのものにある。
僕のスケッチやドローイングは何が描いてあるか訳がわからないし、線はかすれているし、汚れているし、いわゆる上手い絵じゃない。だけどその時その場所の記憶はしっかり画用紙に定着させてある。
だからそれでいいと思っている。
《 長島アンサンブル"Draw The Sound" 樋口真規ドローイング展 》
【日時】
2020年6月25日(木)〜7月11日(土)
営業日は水・木・金・土・日 8時〜16時
【会場】さざなみハウス
岡山県瀬戸内市邑久町虫明6539