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100年続くレストランを目指して vol.3

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ柴田秀之が日々考えていることを綴っているnoteです。2020年10月「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」からスタートし、「クレリエールの料理」を経て、連載第3弾は「クレリエールを今から100年続くレストランにする」をテーマに食材や生産者さんとクレリエールのお話をしていきたいと思います。
★過去の連載は文末にリンクがございます。ご一読いただけたら嬉しいです。

Vol.3 「ごきげんファーム」の荒間鶏(後編)

厨房でトライアンドエラーを重ねる中で、僕の頭に浮かんだ料理がありました。フランスの三つ星シェフ、ジョルジュ・ブラン氏の「ブレス鶏のエフィロシェ」です。
ブレス鶏は、フレンチ好きな方にはお馴染みだと思いますが、独特な風味と豊かな肉質が魅力的な高級食材です。フランスで飼育されている食用鶏の中で唯一AOC(原産地統制名称)に認定されていて、ブレス地方産であることはもちろん飼育管理方法や備えているべき特徴も厳しく定められています。ムッシュブランのレストラン「ジュルジュ・ブラン」もブレス地方のヴォナという人口3000人ほどの小さな村にあって、看板料理のクリーム煮を始めブレス鶏を使った数々の名物料理があります。
栄養豊富な餌を食べて平飼いでのびのび育った荒間鶏のしっかりした旨みは、ブレス鶏に通じるものがあるんじゃないか?僕の頭の中で何かが繋がりました。

ちなみに、僕自身は「ジョルジュ・ブラン」に行ったことはありません。フランス料理の師匠であるレストランモナリザの河野透シェフが修業されていたため、河野シェフを通してムッシュブランの料理の数々に触れ、学ぶことができたのです。そういえば、このnoteでも河野シェフとムッシュブランのお料理から発想を得て作ったお料理を紹介したことがありましたね。(ご興味のある方はコチラでご覧ください。)

さて、肝心の「ブレス鶏のエフィロシェ」は、簡単に言うとブレス鶏を細かくほぐしてマヨネーズで和え、セルクルで抜いて甲殻類のソースを添えたお料理です。「エフィロシェ」というのは「細かく割いた」という意味の料理用語です。
そして試行錯誤の末、「荒間鶏のエフィロシェ」はこのようなお料理になりました。

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1.荒間鶏の胸肉を鶏肉からとった出汁と共に真空パックして低温調理する。
2.パックの中の液体を濾して煮詰め、マデラ酒と生クリームなどを加えてソースに仕上げる
3.1の胸肉が冷めたら皮を取り除き、筋繊維に沿って細かく裂く(1本1本裂くイメージ)
4.3の胸肉に2のソースを絡める
5.セルクルにポワローヴィネグレットと4の胸肉を詰めて成形し、カリっと揚げた細切りジャガイモ、スライスした黒トリュフを乗せる
6.荒間鶏のモモ肉でとった出汁、ベルモット酒、エストラゴンヴィネガー、クルミオイルで作ったソースを5の周りに注ぐ

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召し上がる際は、トップの黒トリュフから底のボワローまでザックリとスプーンでとって、ソースと一緒にお口に運んでいただきます。そうすることで様々な食感と共に鶏の旨みが口中に広がり、荒間鶏の魅力をたっぷり味わえます。

「荒間鶏のエフィロシェ」はラ クレリエールの前菜の1品として登場し、たくさんのお客様から好評をいただきました。ごきげんファームを運営するNPO法人の代表の伊藤さんと荒間さんも、早々に食べに来てくださいました。そうして嬉しいことに、ごきげんファームの皆さんの中で老鶏が「美味しいもの」に変わっていったのです。この変化は僕の中でものすごく大きな意味がありました。

縁あって知り合った生産者さんや食材業者さんと話す時、僕は必ず「困っていることはないか」を聞きます。このnoteでも何度か言っていますが、僕はフランス料理の技法=美味しくすることができる技法だと信じているからです。フランス料理人の僕が社会に役立つことが出来るとしたら、フランス料理の力を使うしかない。そして社会にはフランス料理の力で解決できる問題がいろいろあるんじゃないかといつも考えています。

今回、「ブレス鶏のエフィロシェ」をベースに料理を考えていた時、フランス修業時代に店でお出汁をとった後の鶏肉を細かく裂いてマヨネーズで和えてサラダに入れて食べていたことを思い出しました。そしてふと、「ブレス鶏のエフィロシェ」もムッシュブランがお出汁をとった後の鶏肉を美味しく食べる方法はないかと考えたのがきっかけで誕生したんじゃないか?と思ったのです。もしかしたらブレスと言う土地柄、地域の課題として老鶏問題もあって、その解決に考えたのでは?!と想像は膨らみ、荒間鶏へのチャレンジがますます楽しく感じられました。

「荒間鶏のエフィロシェ」はレストランのお料理ですが、ゆくゆくは荒間鶏が家庭の食材になって欲しいと考えています。1軒のレストランが使える量なんてたかが知れていますし、数店に広がったところでまだまだ少なく、下手をすると1シーズン使っただけで終わってしまう可能性もあります。しかし一般的な食材として日々の暮らしの中で消費されるようになれば、消費量も継続性もグッと上がります。そうなれば、捨てられていた鶏が“価値のある商品”になるでしょう。先ほどの“ごきげんファームの皆さんの中で老鶏が「美味しいもの」に変わった”というのは、“価値ある商品”への発想の転換の第一歩なのです。実際、ごきげんファームさんは食肉処理場を作ることも考え始められたと聞きました。

僕は自分のレストランを100年続くレストランにしたいと考えています。そのためには自分の店だけでなく、食材を提供してくださる方々にも100年続いていただく必要がある。その中でフランス料理人として出来ることがあると思っていますし、出来る力をもっともっと身に着けていきたいと思っています。
今回の連載のタイトル「100年続くレストランを目指して」は、そんな思いを込めてつけました。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

★過去の連載はコチラからご覧ください。

最初の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ

 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

2つ目の連載「料理集」はコチラからどうぞ

 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第六皿~第十皿)」

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