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100年続くレストランを目指して vol.4

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ柴田秀之が日々考えていることを綴っているnoteです。2020年10月「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」からスタートし、「クレリエールの料理」を経て、連載第3弾は「クレリエールを今から100年続くレストランにする」をテーマに食材や生産者さんとクレリエールのお話をしていきたいと思います。
★過去の連載は文末にリンクがございます。ご一読いただけたら嬉しいです。

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オキオリーブとクレリエールで行う体験イベントのお知らせ
記事の最後にございます。ぜひ併せてご覧ください!
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Vol.4 「オキオリーブ」の澳 OKI Olive (前編)

「僕は使わないですね。」
初めて『澳 OKI Olive』をテイスティングした時、オキオリーブの澳敬夫さんに僕はそう言いました。「すごく良いオリーブオイルがある」と教えてくれたのは、東京・赤坂の日本料理店「乃木坂しん」の飛田泰秀さんでした。その数日後、ちょうど澳さんが東京に営業に来るというので、飛田さん経由でレストラン ラ クレリエールに初めて来ていただいた時の出来事です。

味わいは、確かに良い。素材の質の高さと丁寧な造りが感じられる点も魅力的。それでも「使わない」と言ったのには、引っかかる点が2つあったからでした。
一つは「価格」、当時使っていたオリーブオイルの1/4くらいの量で価格は約2倍でした。もう一つは「味わい」。僕はオリーブオイルについてはプロヴァンスの黒オリーブを使った柔らかい味わいが好きでずっと使っていたので、澳 OKI Oliveの青い香りと喉にピリッとくる味わいは、いわば好みと正反対でした。馴染みがないため、自分の料理の中でどのように使うと良いかも浮かびませんでした。

その後いろいろあり、初対面から1年ほど経った頃に「桃のガスパチョ」というお料理を契機に澳 OKI Oliveを使うようになりました。今ではクレリエールの夏の風物詩ともいえるこのお料理について以前このnoteでもご紹介したことがありますが、次回またもう少し詳しくお話したいと思っています。

その後も、クレリエールでは澳 OKI Oliveを使ったお料理が数々生まれました。そんなある日、クレリエールのお客様がインスタに上げたオリーブオイルのデセールを見た澳さんから「コラボをやりましょう!」と連絡が来たのです。やるなら全力&最大値が僕のポリシー。さっそく自分の目でオキオリーブを見に行くことにしました。

高松空港から車で10分ほど山間の道を進むと、目の前に広がる20,000坪の広大なオリーブ畑す。その中で聞く澳さんの言葉には、実体験に基づいた力強さや、自然の中で失敗と成功を繰り返して積み上げてきた重みが感じられ、グサグサ心に刺さりました。同じことをお店で聞いても、おそらくそんな風には感じられなかったでしょう。この畑の中で木や土を見つめながら語られるからこそ感じられる力強さと重みでした。

歩いていくうちに一帯の木々が全て斜めに生えている風景に出くわしました。山からの風の影響かと思ったら、そうではなく「山の気」だという。僕ら料理人が扱う「食材」は、かなりの部分でコントロールできるものです。多少の出来や不出来、個体差があっても、技術や工夫でカバーできます。でも農作物は、人間の力ではコントロールできない中で育てられているもの。澳さんのように、自然の地形や環境に寄り添いながら行う農業なら、なおさらです。真上にまっすぐ育って欲しくても、山の気で斜めに育つのであれば、どう対処し生かしていくかと考える。正直、「山の気」とは何か分かりませんでしたが、オリーブオイルの基となるオリーブの木が「自然のもの」だということを肌で感じ、農作物と食材の違いを改めて教えられた気がしました。

さて、今更ですがオキオリーブをご存じない方もいらっしゃると思うので、少しご紹介しますね。
オキオリーブは澳さんが土地を拓くところから始めたオリーブ農園です。オリーブオイルの製造のほかカフェやゲストハウスの運営も行っています。プロのシェフも入手困難と言われる人気の高品質オリーブオイルを生み出す強い信念は、“【澳オリーブ】を作り出す五箇条”からも伝わってきます。

【澳オリーブ】を作り出す五箇条

             (オキオリーブWEBサイトより転載)
1 すべて手摘み 品質へのこだわり
オリーブの実を傷つけないように、一粒づつ丁寧に手摘みで収穫するのは途方もない作業。
でも最高のオリーブオイルを搾るために、私たちはその手間を惜しみません。
2 青い果実だけを搾るオイルの宝石
フレッシュな草の香りやすっきりしたコク、目の覚めるエメラルドグリーンのオイルは、未熟な青い果実だけを搾るから。果実からたったの3%しか採れない貴重なひと雫のオイルは、まさにオリーブの宝石。
3 収穫後4時間以内に搾油
収穫した瞬間から劣化が始まるオリーブはできるだけ早く搾油することが重要、私たちは4時間以内(IOC=国際オリーブ委員会基準は72時間)にすべてのオリーブオイルを抽出します。
4 奇跡の品種「ミッション種」100%
明治41年にアメリカから輸入されたミッション種は、上品なコクと爽やかな香り、喉を抜ける清涼な辛みが偶然にも和食にぴったり。1,400種以上の品種からこれほど和食に合う品種が来たのは神が導いた奇跡。
5 オリーブに最適な豊かな瀬戸内の風土
香川県は日本のオリーブの発祥の地。地中海に似たその温暖で乾いた気候はオリーブの栽培には最適。自然豊かで清らかな空気の丘の上の畑は、最高のオリーブを作るために申し分のない環境。

澳 OKI Oliveの魅力もさることながら、僕には澳さんという人物がすごく面白くて、心惹かれることが多々あります。まず、澳さんはオリーブオイルで儲けようとは全然思っていないんです。もちろんビジネスですから収益を出すことは考えていますが、富を得ようという発想はない。それよりもオキオリーブのブランド力を高めて影響力を持ち、高松の食に貢献したいと考えている。実際、東京の高級レストランからも引っ張りダコの澳 OKI Oliveで培ったネットワークを頼って、地元の生産者さんから相談されることも少なくないようです。
僕も、ミシュランの三つ星を目指しているのは、有名になりたいとか儲けたいということではなく、三つ星を取ることでブランド力を高めて、一緒に働いているスタッフの将来への力やフランス料理にもっと役立てる存在に繋げたいから。そのために、傍から見たら「なんでそこまでやるの?」ということも進んでやっています。

澳さんは、もともとは証券会社で働くサラリーマンで、会社勤めをしながらオキオリーブを始めたのだそうです。だから企業活動を社会貢献に繋げようという発想が、しっかりとベースに持てているのかもしれません。そしてオリーブオイル作り以外にも、オリーブの葉を活用したビジネスも手掛けているのを見ていると、「きっと澳さんがいなくなった後もずっとオキオリーブは続いていくだろうな」と思えるのです。きっと「100年続く農園」になるんだろうな、と。クレリエールも負けてられないです!

次回は「後編」としてオキオリーブとクレリエールのお料理に焦点を当てたお話をしようと思っています。

◆お知らせ!◆

オキオリーブとクレリエールでイベントを行うことになりました!
オキオリーブの畑でオリーブ収穫を体験していただき、昼と夜には澳 OKI Oliveを使って僕が作ったお料理を召し上がっていただきます。さらに自分たちで摘んだオリーブの搾りたての味見体験も!
上記でもお伝えしたようにオキオリーブでは果実がまだ青いうちに摘むため、収穫期間は1年の中で3週間ほどしかありません。そのうちの1日を使ってイベントを行います。
今回は澳さんと僕のトライアルイベントということで、人数を絞られせていただいた代わりに採算度外視のご参加いただきやすい価格設定になっています。
いろいろな意味で貴重な体験ができるイベントだと思いますので、ご興味のある方はぜひご参加ください!

10人限定!ミシュランシェフと体験する
澳オリーブの収穫と澳さんのオリーブオイル講座 @澳オリーブ

希少な澳オリーブを搾り立てで味見&シェフのお料理で堪能!
開 催 日:2022年9月29日(木)10時〜21時
集合場所:澳オリーブ「オキオリーブハウス」

       香川県高松市西植田町4532
<当日のスケジュール>
 10:00 集合、畑へ移動
 10:15 収穫レクチャー
 10:30 オリーブ収穫
 12:30〜13:30 シェフ特製ランチで昼食休憩
 13:30 オリーブ収穫
 16:00頃 収穫終了(お疲れ様でした!)
 〜 休憩 〜(オリーブの搾油所見学など)
 19:00 澳さんのオリーブオイル講座 
  & 澳オリーブを用いたシェフ特製ディナー(前菜・メイン・デザート)
  & 懇親会
 21:00 終了・解散
参加費用:1名様 22,000円(税込)
定  員:10名(申し込み多数の場合は抽選)
催行条件:雨天決行
参加申し込み:こちら からお申込みください。

<お申し込み&その後のスケジュール>
お申込み受付期間:7月21日(木)~8月31日(水)
参加者決定:9月1日(木)参加者さまへ決定のご連絡
※抽選の場合は、当落ご連絡(当選者さまには決定のご連絡)
※参加者さまには9月8日(木)までに参加費をお振込みいただきます。
【キャンセルポリシー】
参加キャンセルは、メール連絡にて承ります。
ご連絡のタイミングにより参加費より以下の割合をキャンセル料として申し受けます。
9月26日(月)までにご連絡いただいた場合:キャンセル料 0%
9月28日(水)までご連絡いただいた場合:キャンセル料 50%
9月29日(木)当日、集合時間までにご連絡いただいた場合:キャンセル料 75%
当日まで連絡なしでの不参加の場合:キャンセル料100%
※返金の際の振込手数料をご負担いただきます。
■お問合せ先:contact@la-clairiere.tokyo

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

★過去の連載はコチラからご覧ください。

最初の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ

 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

2つ目の連載「料理集」はコチラからどうぞ

 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第六皿~第十皿)」

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