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ラ クレリエールの料理集 vol.5

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → vol.1 第一皿(résumé) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
 → vol.2 第一皿(recette) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
 → vol.3 第二皿(résumé) 桃のガスパチョ
 → vol.4 第二皿(résumé) 桃のガスパチョ

第3皿(résumé) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド

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この料理のポイント

*焼いた肉の食感の構築
*酸味のあるソース
*パリパリアーモンド

成り立ち

このお料理の原点は、独立前に働いていたレストラン モナリザで先輩シェフが作っていた、フォアグラのローストにパリパリに仕上げたアーモンドを添えたお料理です。その後、僕がモナリザのシェフになってからはフォアグラを鴨や鹿などにアレンジしたりしました。
僕自身、先輩シェフの一皿を初めて食べた時にその美味しさに驚いたのですが、僕が作った鴨や鹿バージョンも多くのお客様から「一度食べたらリピートしたくなる」と大変好評をいただきました。だから独立してラ クレリエールを開いた当初からメニューに入れました。僕のスペシャリテの一つであり、とても頼りになる存在です。

メイン食材「エゾシカ」

日本で獲れる鹿は、大きく分けて「エゾシカ」と「ホンシュウジカ」の2種類あります。(ホンシュウジカには四国や九州で獲れる鹿も含まれます。)クレリエールでは、秋の始まりから冬の、赤身肉の味がしっかりあって味わいも濃いエゾシカを使っています。
このお料理で使うのは、モモ肉です。脂に覆われているところが少ないため火入れが難しいですが、上手に焼けば非常に美味しく、また、うま味もロースよりあると思います。しかし、肉を柔らかく仕上げようとじっくり火を通すと、食感や香りが物足りなくなってしまう。それをどう補うか?そのあたりの工夫は、次回レシピと共に詳しくお話したいと思います。
仕入れは、お肉屋さんとハンターさんと両方あります。前者の場合は部位ごとに仕入れることが多いですが、後者の場合はお任せです。知識も目利きもハンターさんの方が僕よりずっと確かですから。「あなたの一番良いと思ったシカを、あなたの好きな量、好きな状態で送ってください。価格もお任せします。」とだけ伝えます。なので、半身で届く時もあれば足1本の時もあります。
熟成は特にかけません。熟成を適正に管理するにはちゃんとした設備やスペースが必要で、それは今のクレリエールには難しい。加えて、いま仕入れられているお肉であれば、味わいの面でも熟成が必ずしも必要とは思わないからです。それよりも肉の水分量の方が重要で、開けた時の状態によっては水分を抜くために少し置くことがあります。

ソースポワブラード

フランス料理の代表的なソースの一つなので、シェフごとにレシピがあると思います。僕の場合は、モナリザの河野シェフ譲りのロブションの配合です。大きな特徴はバルサミコ酢を入れることでしょうか。あと、赤ワインビネガーも入ります。砂糖をキャラメリゼして加え、グッと煮詰めていって濃縮したプルーンのような味にしていきます。加えるフォンは、一般的なフォン・ド・ボーではなく、フォン・ド・シヴェルイユを使います。
基本的にモナリザの時からずっと変えていません。さすがに砂糖の量は時代に合わせて減らしていますが。照りを出すためにアプリコットナパージュを加えるところもハチミツにしています。
レシピはほとんど変えませんが、素材に合わせた調整は入れます。鹿はスタンダードな感じで、鴨になると酸味を少し強めにして作ったりしますね。
そして、おそらく全てのシェフがそう思っていると思いますが、僕は僕のソースポワブラードが一番美味しいと思っています(笑)

パリパリアーモンド

僕の中で、このお料理は「パリパリアーモンドのお肉料理」というカテゴリーの一つです。最初に先輩シェフのお料理を食べた時に、お肉とアーモンドの香ばしさと食感との組合せの素晴らしさに感動し、その後さまざまなバージョンを考えました。その結果、クレリエールでは秋~冬ご提供の鹿モモ肉だけでなく、バージョンを変えた「パリパリアーモンドのお肉料理」を通年でお楽しみいただいています。
機会があれば、ぜひ全シーズン召し上がってみていただきたいですね。

次回は、このお料理のレシピと具体的な工夫などをお話します。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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