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リスキリングに不可欠なアンラーニング:変化の時代を生き抜く鍵ー川上真史氏より

 川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「リスキリングに必要な10のスキル 10」は、「アンラーニングするスキル」です。

 アンラーニングとは、これまでに学んだ知識や経験、構築してきた論理体系を意識的に見直し、不要または時代遅れとなったものを捨て去るプロセスを指します。これにより、新しい知識やスキルを効果的に習得するための土台が作られ、現代の急速に変化するビジネス環境に対応することが可能となります。

 アンラーニングについては、以前、以下でも一度取り上げ、考察しています。今回、再度整理し、人事の立場としての考え方を考察してみたいと思います(少し重なるところもあるかも知れません)。


1.3つの「アンラーニング」

 アンラーニングがなければ、新しいことを学ぶ際に過去の誤った知識や古い概念が邪魔をし、学習効率が大幅に低下する可能性があるのです。特にビジネスの世界では、過去の成功体験や既成概念に囚われることで、変化に対応できなくなるリスクが高まります。
 これは、個人の学習に限らず、組織全体の適応力や競争力にも直結する問題です。そのため、アンラーニングは単なる知識の整理ではなく、今後も成功を続けるための重要な戦略とされています。

 アンラーニングの具体的なプロセスとして、3つの考え方が紹介されています。

(a)誤学習のアンラーニング
 
これは、過去に学んだ知識や情報の中で誤っているものや、間違った認識を振り返り、それらを正しいものに修正するプロセスです。
 例えば、教育や経験を通じて得た知識が実際には誤解であった場合、それを正しく理解し直す必要があります。このプロセスは、自己の信念や価値観に対する挑戦となり、自己否定に繋がる場合もあるため、非常に困難であるとされています。

 しかし、これは人類の歴史においても繰り返されてきた重要なプロセスであり、誤った学習を正すことで、より正確で有用な知識を得ることが可能になります。
 例えば、天動説から地動説への転換や、科学の進歩に伴う古い常識の見直しなど、歴史的な例は数多く存在します。こうした誤学習を修正することは、個人の成長にとって不可欠であり、それにより新たな知識やスキルの習得が容易になります。

(b)未学習のアンラーニング
 これは、自分がまだ十分に理解していない、または学習していない知識や情報を認識し、それを新たに学習し補完するプロセスです。多くの場合、人々は自分が分かっていないことに気づかずに過ごしてしまいます。この「分かっていないことが分かっていない」という状況を解消するためには、未学習の部分を自覚し、そのギャップを埋めるための学習を行う必要があります。このプロセスにより、断片的な知識を体系的に整理し、より深い理解を得ることができるようになります。
 例えば、ある分野の知識を中途半端に理解していると、それが創造性の阻害要因になることがあります。そのため、自分の知識のギャップを認識し、それを補完することが創造性の発揮にもつながります。特に、技術革新が急速に進む現代においては、新しい技術やトレンドに対する理解を深め、適応することが求められます。

(c)古学習のアンラーニング
 これは、既に時代遅れとなってしまったり、使えなくなったりした知識や情報を振り返り、最新のものにアップデートするプロセスです。例えば、過去に正しいとされていた働き方やビジネスの慣習が、時代の変化とともに無効になっていることがあります。特に、COVID-19パンデミックの後には、働き方に関する多くの古い概念が見直され、新しい働き方が模索されるようになりました。こうした古い知識や慣習を放置すると、現代のビジネス環境での適応が難しくなります。そのため、古い学習を見直し、必要に応じて最新の情報や方法論に更新することが重要です。
 例えば、かつては直接会って謝罪することがビジネスマナーの一環とされていましたが、現代ではメールやSNSを活用した迅速な対応が求められることが増えています。このように、時代に適した方法にアップデートすることで、効率的で効果的なビジネスコミュニケーションが可能となります。

2.「条件付け」がアンラーニングを困難にする

 条件付けとは、過去の経験や学習によって形成された強固な信念や思い込みが、アンラーニングを困難にする要因です。
 例えば、ある特定の行動や思考パターンが過去に成功をもたらした場合、それが強く条件付けされ、その後の行動や思考に影響を与えることになります。このような条件付けが形成されると、理由を意識することなく、その行動を繰り返してしまうことが多く、これがアンラーニングの大きな障壁となります。この障壁を乗り越えるためには、まず自分がどのような条件付けによって行動しているのかを認識し、その理由を理解することが重要です。それにより、無意識のうちに繰り返している行動や思考を見直し、新しいアプローチを取り入れることが可能になります。

 また、ラーニング(学習)を効果的に行うためのポイントについても触れられています。すなわち、単に知識を覚えるだけではなく、その知識をどのように活用するかという視点を持つことが重要であると強調されています。
 例えば、台風の定義や特徴を覚えることよりも、台風が接近した際にどのように対処すべきかという操作的な知識を身につける方が、実際の生活やビジネスにおいてはるかに有用です。このように、定義的な知識を超えて、実践的な知識を活用することが重要です。
 また、現代ではインターネットや動画サイトを活用して、最新の情報を常に更新し続けることが求められています。これにより、自分自身の知識やスキルを時代に合わせてアップデートし続けることが可能となり、結果としてビジネスにおいても成功を収めることができるでしょう。

3.まとめ

 アンラーニングが新しい知識やスキルを効果的に習得するための不可欠なプロセスであると述べられています。アンラーニングを実践することで、過去の誤った知識や古い概念を捨て去り、現代のビジネス環境に適応するための土台を作ることができます。さ
 らに、条件付けによる思い込みを解消し、新しいアプローチを受け入れることで、常に最新の知識を活用し、成功を続けることができるでしょう。この資料を通じて、アンラーニングの重要性を再認識し、自分自身の学び方を見直すことが、今後の成長と成功に繋がることでしょう。

人事の観点から「アンラーニング」を考察してみる

 アンラーニングは、人事の観点で考えても、現代のビジネス環境での組織の競争力と柔軟性を維持するために不可欠です。
 特に、人材開発や組織の変革、そして社員のキャリア成長においてアンラーニングのプロセスをどう組み込むかが、これからの人事戦略の成否を左右する重要なポイントとなります。

1.変化するビジネス環境とアンラーニングの必要性

 現代のビジネス環境は、技術革新や市場のダイナミックな変動により、従来のビジネスモデルやスキルセットが短期間で陳腐化することが少なくありません。これに対応するためには、企業や組織は常に新しい知識やスキルを取り入れ、古い方法論や思考パターンを見直す必要があります。この過程で必要とされるのがアンラーニングです。アンラーニングは、過去の成功体験や既成概念をただ捨て去るのではなく、それらを再評価し、必要に応じて意識的に捨て去ることで、新たな知識やスキルを効果的に習得するための準備を整えるプロセスです。

 例えば、ある企業が過去に成功を収めた戦略やビジネスモデルを維持し続ける一方で、急速に変化する市場環境に適応できなくなっているとします。こうした状況においては、過去の成功体験に固執せず、それをアンラーニングすることで、より効果的な新しい戦略を導入することが求められます。これができなければ、企業は競争力を失い、市場での地位が危うくなる可能性が高まります。
 人事部門は、こうしたリスクを軽減し、組織が常に柔軟で適応力のある状態を保つために、従業員がアンラーニングを実践できるよう支援する役割を担っています。

2.組織文化の変革とアンラーニング

 アンラーニングを促進するためには、従業員が過去の固定観念や成功体験に囚われることなく、新しい視点や方法を積極的に受け入れる文化が必要です。ここで重要となるのが、オープンで柔軟な組織文化の育成です。このような文化を醸成することで、従業員は自分の意見やアイデアを自由に表現し、新しい知識やスキルを習得することに対して積極的になれます。

 例えば、失敗を学びの一環として捉える文化を作り上げることが挙げられます。これは、従業員が新しいアプローチを試み、その結果失敗した場合でも、その失敗を糧に成長できる環境を提供することを意味します。こうした環境を作るためには、経営陣やリーダーが率先して変化を受け入れ、自らもアンラーニングを実践する姿勢を示すことが重要です。これにより、組織全体に「変化を恐れず、学び続ける」文化が根付き、従業員が安心してアンラーニングに取り組むことができるようになります。

 また、組織文化の変革には、コミュニケーションの改善も欠かせません。従業員が互いに学び合い、知識や経験を共有できる環境を作ることが、アンラーニングを促進する上で重要です。これには、定期的なワークショップや社内セミナーの開催、あるいは異なる部門間での交流機会の提供などが有効です。こうした活動を通じて、従業員は異なる視点や考え方に触れる機会が増え、結果としてアンラーニングが自然に促進されるようになります。

3.キャリア開発とアンラーニングの連携

 キャリア開発の観点からアンラーニングを捉えると、従業員が多様なスキルセットを持ち、変化に柔軟に対応できる人材となるためのプロセスとして重要です。特に、従業員のキャリアパスを設計する際に、アンラーニングの要素を取り入れることで、長期的に競争力のある人材を育成することが可能になります。

 例えば、定期的なジョブローテーションや部門間の異動を通じて、従業員がさまざまな業務や役割に挑戦する機会を提供することが考えられます。このような経験は、従業員に新しいスキルや知識を習得させるだけでなく、過去の経験に基づく固定観念を見直し、新たな視点を養うための絶好の機会となります。これにより、従業員は単一のスキルに依存することなく、広範な知識と柔軟な思考を持つ人材へと成長することができます。

 さらに、人事部門は、キャリア開発プログラムにアンラーニングの概念を組み込むことで、従業員の成長を支援することができます。具体的には、個々の従業員に対して定期的なフィードバックを行い、現在のスキルセットや知識が陳腐化していないかを評価し、必要に応じて新たな学習機会を提供することが挙げられます。これにより、従業員は自己のキャリアを継続的に見直し、最新の知識とスキルを維持することができます。

4.リーダーシップ開発とアンラーニングの重要性

 リーダーシップ開発においても、アンラーニングは極めて重要な要素となります。特に、上級管理職や経営層が自らアンラーニングを実践し、新しいビジネスモデルや技術を受け入れる姿勢を見せることが、組織全体の変革を促進するカギとなります。リーダーが過去の成功体験に固執することなく、新たな考え方やアプローチを積極的に採用することで、従業員に対しても変化を恐れずに挑戦する姿勢を奨励することができます。

 例えば、デジタルトランスフォーメーションの推進において、リーダー自身がデジタル技術に対する理解を深め、それを組織内に広める役割を果たすことが求められます。これにより、従業員はリーダーの姿勢を手本とし、自己のアンラーニングに積極的に取り組むようになります。また、リーダーシップ開発プログラムにおいて、アンラーニングのプロセスを取り入れることで、リーダー候補者がより柔軟で革新的な思考を身につけることが可能となります。

5.従業員のモチベーションとアンラーニングの関連性

 アンラーニングには、既存の知識や方法を見直し、新しいものを学び取る努力が必要ですが、この過程は必ずしも容易ではありません。そのため、人事部門は、従業員がアンラーニングに対してポジティブに取り組めるよう、適切なサポートとモチベーション管理を行うことが重要です。従業員が自分の成長やキャリア開発に対して前向きな姿勢を持つためには、アンラーニングがもたらす長期的な利益や成長の機会を理解させることが不可欠です。

 具体的には、学習成果を評価し、成果に対して適切な報酬や認識を与えることが効果的です。例えば、新しいスキルを習得したり、新たな知識を活用して業務改善を達成した従業員に対して、表彰やボーナスを与えることで、その努力が正当に評価されていることを示すことができます。また、アンラーニングを推進するための教育プログラムやワークショップを通じて、従業員がその重要性を理解し、自ら学び続ける意欲を高めることも重要です。

 さらに、アンラーニングのプロセスを支援するために、メンター制度を導入することも有効です。メンターが従業員に対してアドバイスを提供し、アンラーニングに取り組む際の障壁を乗り越えるサポートを行うことで、従業員のモチベーションを高めることができます。これにより、従業員は安心して新しい挑戦に取り組むことができ、その結果、組織全体としての学習能力と適応力が向上します。

6.アンラーニングと組織の長期的成長

 最終的に、人事部門がアンラーニングを支援し、促進することで、組織全体の学習能力が向上し、変化に対応する柔軟性が高まります。これにより、組織は長期的に競争力を維持し、成長を続けることができるでしょう。アンラーニングは、単なるスキルの更新にとどまらず、組織の文化や価値観を変革するための重要な要素です。人事部門がこのプロセスをリードすることで、組織全体が常に新しい知識やスキルを取り入れ、変化に対応できるようになります。

 例えば、新たな市場や技術に対応するために、組織全体でアンラーニングを推進することで、新しいビジネスチャンスを捉える能力が向上します。また、従業員がアンラーニングを通じて自己成長を続けることで、組織全体のイノベーションが促進され、結果として市場での競争優位を保つことが可能となります。


 このように、アンラーニングは、人事戦略の中心に据えるべき重要な要素であり、その実践が組織の成功を左右する鍵となります。人事部門がアンラーニングを積極的に推進し、従業員一人ひとりが変化に対応できる力を養うことが、これからの組織の成長と発展に繋がっていくでしょう。


左側には、古い知識や技術に囲まれ、重荷を感じている人物が描かれています。中央では、これらの過去のアイテムを押しのけて、背景が徐々に明るくなり始めます。そして右側では、モダンでシンプルな空間に立つ自信に満ちた人物が、新しいアイデアや技術に囲まれています。アンラーニングを通じて新しい成長と革新に向かうプロセスを象徴しています。

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