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前向きさを保つための自己効力感向上法ー川上真史氏

 川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「リスキリングに必要な10のスキル 7」は、「前向きさを失わないスキル」です。「前向きさ」は重要であることは間違いないですが、それをコントロールする、維持するというのはまた難しいことでもあります。また、組織のなかでもうまく使えるようにしていくことが強い組織という意味でも重要になります。


前向きさを失わないために重要なことー自己効力感

 自己効力感とは、自分自身で効力を発揮し、うまく対応して必ず成功するという期待感のことです。 自己効力感の高い人は、思ったことを素早く行動に移し、常に前向きで明るい状態を保てます。 周囲からも魅力的で信頼感のある人物だと思われ、人が集まってくるでしょう。 自己効力感を持つことは、幸福感にもつながります。

 ところで「幸福感」とは、自分の力で何かを作り上げているときに感じる気持ちや感情であり、高い成果創出と明確な相関関係があります。
 一方、満足感は、他人から与えられたものに対する気持ちや感情であり、低い場合は成果も低くなりますが、高ければ高いほど成果も高くなるわけではありません。
 日本においては、顧客満足度や職務満足度など、満足感を重視する傾向がありますが、満足感は求めすぎるとかえって不幸になることがあります。 幸福感を高めるためには、自分の力で何かを作り上げていくという経験が重要であり、自己効力感は、この経験を後押しする可能性があります。 満足感は、世の中の平均よりも5%上くらいまで求めるのが適切であり、それ以上は、得たものを使って自分で新たな価値を生み出していくことに取り組むべきとのことでした。

自己効力感を高める方法は何か

目標設定力

 目標設定において重要なのは、最終的にどのような成果になれば良いのかという成果イメージを明確にすることです。 成果イメージを目標にすることで、達成できたかどうかを明確に判断できます。 目標を達成するために何をやるかを考え、実際に行動し、設定した成果イメージと実際に得られた成果を比較・評価することで、自己効力感を高めることができます。

 目標設定の際は、「何をやるか」ではなく、「最終的な成果イメージ」を明確にすることが重要です。 例えば、「毎週一回必ず担当顧客を訪問する」という目標を立てる場合、「毎週一回訪問することで、顧客との間にどのような関係を築きたいのか」を明確にする必要があります。 そして、その関係を築くために、最初の訪問でどのようなアプローチを試みるか、効果がなければ別のやり方を考えるなど、試行錯誤しながら目標達成を目指します。
 このように、小さな目標でも達成していく経験を積み重ねることで、自己効力感は高まります。 目標設定のサイクルを回す際は、成果イメージを明確にし、それを達成するために何をやるかを考え、実際に行動し、評価するというプロセスを繰り返すことが重要です。

モデリング効果

 他の人がどのように目標を達成しているのか、その行動を観察したり、話を聞いたりすることで、自分にもできるという感覚を持つことができます。 成功している人や尊敬できる人をモデルにすることで、具体的な行動を学ぶことができます。例えば、営業成績が優秀な同僚の行動を観察し、顧客とのコミュニケーション方法やプレゼンテーションスキルを学ぶことができます。
 また、話を聞くだけでなく、実際にモデルとなる人の行動を見ることで、より効果的に自己効力感を高めることができます。 例えば、職場見学やメンター制度などを活用して、モデルとなる人の行動を直接観察することで、より具体的なイメージを持つことができます。

ポジティブな言動

 同じことを伝える場合でも、ポジティブな言葉で表現するだけで、自己効力感は高まります。 例えば、「〇〇という問題があるのでそれはできません」と言う代わりに、「〇〇という問題を解決すればそれができます」というように、ポジティブな言葉を使うように意識しましょう。 また、「どうせ自分にはできない」といった否定的な言葉ではなく、「できるはずだ」と肯定的な言葉を使いましょう。 常にポジティブな言動を取ることで、自己効力感を高め、前向きな姿勢を維持することができます。 ポジティブな言動は、自分自身だけでなく、周囲の人にも良い影響を与え、より良い人間関係を築くことにもつながります。

ストレスマネジメント

 ストレスマネジメントにおいては、「ストレッサー」(ストレスの原因)と「ストレス反応」(心身に現れるネガティブな反応)を区別することが重要です。
 例えば、「上司がストレスだ」という場合、上司はストレッサーであり、ストレス反応ではありません。 ストレス反応としては、「ストレスで胃が痛い」などがあります。 ストレスマネジメントの基本は、ストレッサーを特定し、それを解決・軽減することです。
 ストレッサーを特定するためには、自分がどのような状況でストレスを感じるかを把握し、その原因を分析する必要があります。 ストレッサーが特定できたら、それを解決・軽減するための具体的な方法を考え、実行することです。

 ストレスへの対処法(コーピング)には、積極的コーピングと消極的コーピングがあります。 積極的コーピングは、問題解決や支援獲得など、ストレッサーに積極的に対処する方法であり、ストレス反応を低く抑える効果があります。 一方、消極的コーピングは、諦めや逃避など、ストレッサーから目を背ける方法であり、ストレス反応を高める可能性があります。 ストレスに強い人は、積極的コーピングを行うことで、ストレッサーを効果的に管理し、自己効力感を維持しています。
 例えば、上司との関係がストレッサーになっている場合、積極的コーピングとしては、上司とコミュニケーションをとる機会を増やしたり、自分の意見を積極的に伝えたりすることが挙げられます。 消極的コーピングとしては、上司との接触を避ける、転職を考えるなどがあります。

人事の視点からの考察

1. 自己効力感の重要性

 自己効力感は、社員のパフォーマンス、モチベーション、そして全体的な職務満足度に密接に関連しています。人事としても、社員が自己効力感を高められるような環境を提供することは、組織全体の成果向上に直結します。自己効力感が高い社員は、自分自身の能力を信じ、積極的に課題に取り組み、成功への道筋を描くことができるため、常に前向きな態度を維持しやすくなります。

 自己効力感の高い社員は、問題解決能力が高く、ストレスに対する耐性も強いため、困難な状況でも効果的に対処することができます。また、自己効力感が高い社員は、周囲の同僚や上司からも魅力的で信頼感のある人物として見られ、人が自然と集まってくる傾向があります。このような社員が増えることで、組織全体の士気が高まり、生産性の向上にもつながります。

2. 目標設定と評価の仕組み

目標設定の明確化
 人事は、社員が明確な目標を設定し、その目標に向かって努力できるような仕組みを整える必要があります。具体的かつ達成可能な目標を設定することで、社員はその達成感を味わいやすくなります。目標設定においては、SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)な基準を活用し、定期的に進捗を確認しフィードバックを提供する体制を整えることが重要です。

 具体的な目標設定のプロセスとして、まず社員と上司が協力して現実的かつ挑戦的な目標を設定します。その後、目標達成に向けた具体的なアクションプランを策定し、実行に移します。定期的に進捗をチェックし、必要に応じて目標やアクションプランを見直すことで、柔軟に対応することができます。また、目標達成度の評価は、単に結果を見るだけでなく、プロセスも評価することで、社員の努力と成長を認めることが重要です。

評価制度の構築
 評価制度は、社員のモチベーション向上と成長を促進するための重要な要素です。評価は定量的な成果だけでなく、定性的な側面も含めて行うことで、社員が自己効力感を高められるようなフィードバックを提供します。例えば、プロジェクトの進行過程での貢献度や、チームワークの向上に寄与した点などを評価に含めることが考えられます。

 評価の際には、定期的な面談を通じてフィードバックを行い、社員の成長をサポートすることが重要です。フィードバックは建設的かつ具体的に行い、社員が次のステップに進むための具体的なアドバイスをすることが重要です。また、評価結果を基に、キャリア開発プランを作成し、社員が自分のキャリア目標に向かって進むためのサポートを行っていくことも重要です。

3. モデリング効果の活用

成功事例の共有
 組織内で成功している社員の事例を積極的に共有し、他の社員がその成功モデルを学ぶ機会を提供します。例えば、社内で定期的に「成功事例発表会」のようなものを開催し、成功体験を共有する場を設けます。また、成功した社員をメンターとして新入社員や中堅社員に紹介し、直接的な指導を受ける機会を提供することも効果的です。

 成功事例発表会では、各チームや部門から選ばれた社員が自分の成功体験や取り組んだプロジェクトについて発表します。これにより、他の社員は具体的な成功の方法や戦略を学び、自分の業務に応用することができます。また、メンター制度を導入することで、若手社員や新入社員が直接成功者から学ぶ機会を提供し、自己効力感を高めるサポートを行います。

ロールモデルの設定
 特定のスキルや分野で優れた成果を上げている社員をロールモデルとして設定し、彼らの仕事の進め方や考え方を観察し学ぶ機会を設けます。これにより、社員は具体的な成功イメージを持つことができ、自己効力感を高める手助けとなります。

 ロールモデルを設定する際には、社内の各部門やチームから代表的な社員を選び、その成功体験や働き方を他の社員と共有します。具体的な成功事例やスキルアップの方法を学ぶことで、他の社員も同様の方法を試し、自己効力感を高めることができます。また、定期的にロールモデルとの交流会やワークショップを開催し、社員が直接質問や相談をする機会を提供することも有効でしょう。

4. ポジティブな職場文化の醸成

ポジティブなコミュニケーション
 職場全体でポジティブなコミュニケーションを促進する文化を育てます。ネガティブな言動を避け、問題解決型のポジティブな言動を奨励します。これにより、社員は困難に直面しても前向きに対処する姿勢を維持しやすくなります。

 具体的には、日常のコミュニケーションにおいて、問題を指摘するだけでなく、解決策を一緒に考える姿勢を持つことが重要です。例えば、「この問題があるからできない」ではなく、「この問題を解決すればできる」といった前向きな言い方を奨励します。また、定期的にチームビルディングの活動を行い、ポジティブな関係を築く機会を提供します。

5. ストレスマネジメントの支援

ストレッサーの特定と対策
 社員が直面しているストレッサーを特定し、それに対する対策を講じることが重要です。例えば、職場環境の改善や業務量の適正化、上司との関係改善など具体的な対策を実施します。また、ストレス管理に関する研修を定期的に実施し、社員が自己管理できるスキルを身につけるサポートを行います。

 ストレッサーの特定においては、定期的なアンケートや面談を通じて、社員が抱える問題やストレスの原因を明らかにします。その結果を基に、職場環境の改善策や業務量の調整を行い、社員がより快適に働ける環境を整えます。また、上司と部下の関係改善に向けたコミュニケーション研修を実施し、良好な人間関係を築くためのスキルを提供します。

メンタルヘルスサポート
 可能であれば、専門のカウンセラーを配置し、社員がいつでも相談できる体制を整えます。また、メンタルヘルスに関する情報提供やセミナーを開催し、社員が自らのストレスを管理する方法を学ぶ機会を提供します。これにより、社員が健康で前向きな状態を維持しやすくなります。

 具体的には、社内にメンタルヘルスの専門カウンセラーを配置し、社員が気軽に相談できる環境を整えます。また、定期的にメンタルヘルスセミナーを開催し、ストレス管理やリラクゼーションの技術を学ぶ機会を提供します。さらに、メンタルヘルスに関する情報を社内ポータルやニュースレターで定期的に配信し、社員が常に最新の情報を入手できるようにします。

6. 自己効力感の継続的な評価と改善

定期的な自己評価の促進
 社員が自己効力感を継続的に評価し、改善するための仕組みを整えます。例えば、定期的な自己評価シートを導入し、社員が自分の成長や課題を自己評価できるようにします。また、その結果をもとに上司と面談を行い、今後の成長に向けた具体的なアクションプランを策定します。

 自己評価シートには、社員が達成した成果や感じた課題を記入する項目を設け、自己評価を行います。上司との面談では、この自己評価シートを基に話し合いを行い、社員の強みや改善点を明確にします。そして、具体的なアクションプランを策定し、次のステップに向けた目標を設定します。このプロセスを定期的に行うことで、社員の自己効力感を継続的に高めることができます。

キャリアパスの明確化
 社員が自分のキャリアパスを明確に描けるようにサポートします。キャリアプランニングの研修を実施し、社員が自分の目標や希望を整理し、将来のキャリアに向けた具体的なステップを計画できるように支援します。また、キャリアアップのための内部昇進制度や研修制度を充実させ、社員が自分の将来に希望を持てる環境を提供します。

 キャリアプランニング研修では、社員が自分のスキルや興味を評価し、将来のキャリア目標を設定します。これにより、社員は自分のキャリアパスを明確にし、その実現に向けた具体的なステップを計画することができます。また、内部昇進制度や研修制度を整備し、社員が継続的にスキルを磨き、キャリアアップを目指すための機会を提供します。

 このように、人事は社員の自己効力感を高め、前向きな姿勢を持続させるための様々な施策を講じることが重要です。これにより、社員一人ひとりが自己の力を発揮し、組織全体の成長と成功に貢献できる環境を整えることができます。具体的なアクションプランを実行し、社員の自己効力感を継続的に高めるためのサポートを行うことで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができることでしょう。

活気とモチベーションに満ちたオフィス環境です。前景には、自信に満ちた人物がモダンなオフィスに立ち、大きな窓から外を見つめて達成感を抱いています。オフィスは自然光にあふれ、洗練された現代的なデザインで、オープンスペースやガラスの仕切り、緑の植物が配置されています。背景では、同僚たちが熱心に協力し合い、テーブルを囲んでアイデアを話し合う姿や、コンピュータで作業する姿が見られます。全体的な雰囲気は活気に満ちており、プロフェッショナルな環境での自己効力感と成功を象徴しています。

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