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僕の出会ったビートルズはカセットの中

ちょっと昔の話をしようと思う。

俺が10歳くらいの時の話である。

その頃はまだ「音楽」と言えば「小学校の授業で歌を歌わされる時間」という認識でしかなかったのだが、ある時から「大事な時間」に変わった。

母が使っていた小型のテープレコーダーを貰ったのだ。




テープレコーダーをゲットしたので、自然とカセットテープで何か音楽を聴いてみよう、と思ったのだが、生憎俺は自前でカセットテープを持っていなかった。

そこで、母に「何か持っているカセットの中からおすすめをくれ」と頼みこんだところ、貰ったのが、シートにバンド名と曲名が「カタカナ」で丁寧に書かれた「ザ・ビートルズ」のカセットテープだった。

「ヘイ・ジュード」だの、「ドント・レット・ミー・ダウン」だの、カタカナの並びがカッコいいな、と思ったのを僅かに記憶している。

でも、「ユー・ネバー・ギブ・ミー・ユア・マネー」は、何でこんな文字の間に点があるんだろう、と当時の俺は思った。まだ英語を習う前の話である。

曲群を思い起こすと、恐らくベストの青版をテープに録音したものだろうが、当時の俺にそんな知識はなかった。

そして、何の知識も無く聴いた。

初めてテープレコーダーを操作する高揚感を感じ、自分の意志で初めて音楽を聴く、という二重の意味合いがある瞬間だった。

とにかく全てが良い曲だった。

小学生の少ない語彙で言えば「カッコいい」。それに尽きるのだった。

それまでテレビで流れる曲すらもよくわかっていなかったのだが、

俺は咄嗟に「これだ」と思った。




それからしばらくは、その「ザ・ビートルズ」のテープを小さなテープレコーダーで聴き、片面が終わるとひっくり返して裏面も、と聴き続けた。

大して音楽を聴いてこなかった小学生には、バンドサウンドが実に新鮮だった。

「何かよくわからんが、凄まじい音がする…!」と一人興奮していた。

それがディストーションギターの音とは知らず、リズミカルな破裂音(勿論ドラムス)が何かもわからず、時折後ろでブンブンと音が聴こえるがこれは何だ(ベースの事だ)と。

俺にとってのBeatlesは、「何だか凄い良い曲を歌う、顔も知らない人達」という認識になった。

何しろ吹き込んだだけのテープ、懐かしむ母の話しか情報がなかったのだ。当時は家にPCもなかったし、テレビではビートルズの情報が流れることは少なかった。

何となくのイメージとしてあったのが、「ドント・レット・ミー・ダウン」を歌っているのは、きっと「長髪で、ギラギラした服を着た、たまにテレビに出てくるロックバンドの人」みたいなのだろう、と思っていた。

後日、写真で歌っているジョン・レノンの写真を見たら、合っていたのは「長髪」だけだった。


閑話休題。


母が持っていたカセットテープは3本あった。それぞれ、赤版と青版から、カセットの録音時間いっぱいまで分割して吹き込んだのだろう。

それら3本のうち、初期の曲群が入ったものは途中でテープが伸びてしまっていて、数曲しか聴けなくなってしまっていた。

だから、実質2本のカセットテープを繰り返し聴くことになった。

それでもよかった。

それからしばらくはその2本のカセットテープが人生の友のようだった。





当時、地元のサッカークラブに入っていたのだが、その合宿にも心の拠り所としてテープレコーダーとカセットを持っていった。

恐らく2000年代前半、既にCD全盛期だったのだが、俺はCDプレイヤーを持っておらず、周りからは奇異の目で見られて恥ずかしかった。

が、機器を揃える金も、お小遣いも無かった。

しかし、このカセットでないと駄目なような気もしていた。

この会い方じゃないと「なんか違う」とも思っていた。


その小学生時代、同じサッカークラブに所属し、小学校でもクラスメイトである「ワタルくん」という友達が居た。

彼がビートルズのわかる数少ない友人で、よく話をした記憶がある。

「「愛こそはすべて」の冒頭に流れるのはどうやらフランス国歌らしい」と彼が言えば、俺は「いやビートルズはイギリスのバンドだから、イギリス国歌なんじゃないの?」とツッコむ。

正しかったのはワタルくんの方だった。

俺は当時から頭でっかちで、本をよく読む子供だったためか、何の根拠もなくそんな返答をしてしまったのだった。

確か、この頃ジョージ・ハリスンが亡くなってしまった。ジョージ・ハリスンが朝のニュース映像に映っていた。悲しい気持ちはそこそこに、動いているジョージの映像が観られたことが嬉しかった。

そんな小学校時代を経て。

パラダイムシフトが起こる。




中学生になり、俺は誕生日にCDプレイヤーを買ってもらったのだ。

これで家族の目を気にせず好きな音楽を楽しめる、と意気揚々になった俺。
当時持っていたテープレコーダーはイヤホンすらなかったのだ。

ところが、である。

肝心のCDを買う金がなかった。


中学生のお小遣いなんて、音楽鑑賞をするためには微々たるものであったし、周りの友達との遊びにも金がかかるし、とてもCDに回す金はなかった。

しかしそれではせっかくのプレイヤーが宝の持ち腐れである。

そんな時だ、自転車で行ける距離に公営の図書館があると思いだしたのは。

幸い、というか、その図書館にはビートルズのCDがあった。

しかも初期の「Please Please Me」~「Beatles for Sale」の4作がきっちりと揃っていた。

それから、俺はこの4枚を繰り返し借りては聴いた。

どれも気に入った。

そして、俺はやっと、CDジャケットやCDのブックレットから、長年俺を夢中にしてきた4人の顔を知った。

「ジョン・レノンって意外と地味な顔をしているな」とか

「何だかジョージが一番カッコ良くない?」とか

「リンゴの顔って鼻がデカくて、クセあるな」とか

「ポールって可愛い顔の割にシャウトえげつないな」とか

これまでの曲のイメージと照らし合わせた様々な感想が頭を巡った。


初期ビートルズの魅力は勢いのあるバンドサウンドそれぞれがボーカルを取るアルバムの構成もそうなのだが、何しろ「コーラスグループ」としての素晴らしさがあった。歌とハーモニーがとにかく良かったのだ。

特に好きだったのは『A Hard Days Night』

邦題『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』である。

何なんだ、ヤァ!ヤァ!ヤァ!って…という思いはさておき。

アルバム全体を通して曲のクオリティが素晴らしかった。

トラック①の鮮烈な出だし、曲の素晴らしさ、
トラック②の艶のあるジョンの声、
トラック③のコーラスワーク、
トラック④も名曲、
トラック⑤のドライなバラードも良し、
トラック⑥のやけっぱちなジョンの声も好きだし、
トラック⑦は言わずもがなの名曲、
B面ならば⑪のぶっきらぼうなロックンロールは今の時代に聴いてもオリジナリティに溢れていて、人に薦めたくなる一曲である。

と、アルバム1枚通して語れるほど、どれも聴き込んだ。

そして、初期の作品群を聴き込み、次の一手を、と思い俺が図書館で借りたのは『anthology』の作品群だった。

何故か。




その図書館の品揃えが初期ビートルズの4枚+『anthology1~3』という構成だったからだ。

おまけに当時の俺は図書館ネットワークを使った取り寄せも知らなかった。

おかげで中期以降のビートルズサウンドに関しては、『anthology』を経由した捻くれた聴き方になってしまった。

にしても、であった。

この『anthology』シリーズ、90年代にリマスタリングされただけあって、バンドサウンドが実にモダンで、2000年代に聴いても全く古い感じはしなかった。

というか、めちゃめちゃカッコいい曲がいくつも並んでいた。

それまで聴いてきた曲の別バージョンがいくつもあったのだが、それが60年代ではなく、90年代のプロデュースでマスタリングされているものだから、
余計にモダンでカッコよく感じてしまったのもあろうと思う。

特に『anthology 3』は、色々と衝撃が走った。

この頃のジョン・レノンって変な曲や短い曲ばっかり作ってるやんけ!と思ったり、ポールがラストアルバム『Let It Be』で本当にやりたかった『The Long And Winding Load』のアレンジを聴いた時は、曲そのものの素晴らしさに思わず涙が溢れた。

今聴いていても、『Helter Skelter』はこの『anthology』のバージョンが一番カッコいいアレンジだと思うし、本来「ビートルズ」の作品に入らない、後に彼らがソロで収録する曲群もシンプルなアレンジで収録されていたのだ。

そんなわけで、このanthologyシリーズは実にハマった。

それから、ようやく区内の図書館から取り寄せる方法を知り、他の図書館から中期以降のオリジナルアルバムを取り寄せたり、親に頼み込んで、当時発売されたばかりの『1』を買ってもらったり、と、俺は確実にビートルズの作品群を揃えていった。

ビートルズの後には色々な音楽が好きになった。

中二病的に邦楽を貶した時代もあった。

それから反省して邦楽を聴き直してどっぷりハマった。
今ではカラオケで歌謡曲ばかり歌っている。

今度は自分で楽器を弾くようになり、自分で曲を作ったりするようになった。別に作品を出したりするわけではないけれども。

その間、年齢も重ねた。

が、今だに俺はビートルズを聴く。

聴き方は、「昔の音楽を知るため」でもなく、「音楽的な知見を広げるため」でもない。

「古い友達に最近どう?って連絡してみようか」と、そんな気持ちで彼らの作品を聴いている。

その度、やっぱり好きだな、と改めて思う。

そんなことをもう20年近く続けている。

俺にとっての「ビートルズ」のような、そんな歌手やバンドやグループがきっと誰にでもいるはずだ。

そうした存在はいつまでも大事にしていきたいし、していってほしいと思う。

せっかくだから、今度はメンバー毎の記事でも書いてみようかしらん。

リンゴスターの記事はどう書けばいいものか。

それでは。

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