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そのキャリアにこそ価値がある。ポール・マッカートニーという漢

続きまして、ポールマッカートニーと行きましょう。


ポールマッカートニーの凄さ、というか価値は現在も現役である、ということがまず一つ。

次点でビートルズ、ソロ名義、ウィングス、そして再びソロと各時代に印象的な作品をリリースし続けていることが一つ。

そして、これは良し悪しあるだろうが、ルーツミュージックに左右されず、その時代に合ったサウンドを恐れなく取り入れていったことが挙げられると思う。これは今だからこそ思うことだ。


小学生時代からビートルズを聴き続けてきたが、聴き始めた頃はポールが一番好きだった。

初期のロックンロール・バンドとしてのビートルズにおいて、ジョンと競うようにシャウトし続けてきたポール。

中期以降は、それまで曲のクオリティでバンドを引っ張ってきたジョンに迫る勢いで曲が洗練され、アルバムコンセプトにまで関わるようになったポール。

そして、後期はどうやっても名曲が出てきてしまうような、いわば「名曲確変状態」に突入し、凄まじい数の名曲をドロップしたポール。

解散前、ジョンが曲を出す度に何かと「オノヨーコ」を結び付け、バンドから気持ちが離れていった一方で、徹底してビートルズメンバーであろうとしたポール。

そんなポールが好きだった。

生まれて初めて俺の中に生まれた「好きな歌手」という概念に当てはまるのがポールマッカートニーだったのである。



しかし。

歳と共に段々と嗜好も変わってきた。悲しいかな、あまりに王道過ぎるポールのサウンドに飽きてきてしまったのである。

解散後のソロ作が個人的にイマイチだったこともある。

他方で、スティービーワンダーや他ミュージシャンとのコラボも一過性な感じがした。

当時、中古CD屋を巡っていた俺は、投げ売りされているポールのソロ作を苦々しく思いながら見て見ぬふりをした。

それは、かつて趣味の合った友人に久しぶりに再会してみると、その時流行りの服に身を包んで、通り一遍の話しかしなくなったのを寂しく思うのに似ていた。

それからやや俺の中でポールの序列が落ちてきてしまった。


ビートルズの他メンバーのソロ作を聴くにつれてそれはより強く思うようになった。

先日も書いたが、ジョンは『ジョンの魂』で自らのトラウマを切り裂くような鮮烈な作品をドロップしジョージは『オール・シング・マストパス』でキャリアの総決算ともいえる仕事をした。リンゴはたまにあの大きな鼻を思い出すが、ポールのことを思う回数は昔より断然減ってしまった。


そんなある日である。

NHK 『songs』ポールマッカートニー特集 というのを観たのだ。

割と最近のライブ映像が放映されるらしかった。

俺もポールも年を重ねた。もうポールは80歳近いだろう。

俺はかつて少年だった頃のように純粋な気持ちで音楽に向き合う気力も衰えてきた。

そんな中で偶然再会したポール。

道端でばったり会った10数年ぶりの友達。何を話せばいいやら。

そんな感覚にも似た戸惑いがあったが、それでも観ることにした。



一言でいえば、俺はその映像に激しく感動してしまったのだった。

僅かな時間だが、少年の頃のような純真な気持ちに帰ることができた。

確かにポールも老けていた。

しかし、あの伸びやかな声、ハツラツとしたプレイ、作り上げてきた名曲群も、見事な演奏によるモダンなアレンジとなって響いていた。

まさに現役ミュージシャンの名演と呼ぶにふさわしい内容だった。

「頑張りよるなぁ、ポール」

そんな感慨が胸を貫いた。

さらに、その番組では新曲が歌われた。

洗練されたメロディでポールの書く名曲そのもの、という雰囲気を湛えていた。

しかも現代的なサウンドで、決して大御所ミュージシャンが守りに入ったような感じも無く、現代の感覚で聴いても素直にいい曲だと思った。

そんな曲を演じてくれたことが非常にうれしかった。

俺はポールに対して何か思い違いをしていたのかもしれないな、と思った。



現役で居続けることは非常に難しい。

山もあれば、谷もある。

確かに、90年代辺りの作品は振るわなかったように思う。それでも歩みを止めないこと、それこそポールが身をもって示してくれた哲学である。

ビートルズの前身・クオリーメンから始まって、ビートルズに至り、解散後ソロになっても一貫して音楽シーンに籍を置き続けてきたことで「ポールはポール」としか言いようのない存在になった、ということなのかもしれない。


これは余計かもしれないが、ポールはドリフターズで言えば「加藤茶」のような存在だろうと思う。

徹底してコントにこだわり、カリスマであり続けた志村けんとドリフ時代は人気を二分した加藤茶。

年齢を重ね、いつまで現役でやるんだと言われながらも「カトちゃん、ペッ!」の一言で余計なノイズを黙らせ、エンタメにしてしまう影響力。

あれに近いものをポールにも感じる。

圧倒的なカリスマ性で音楽的なアイコンになったジョンが早世した一方で、しゃにむにキャリアを重ねてきたポールという構図が何とも似ているように思われてならない。

あまり比較すべきじゃないのかもしれないが。



なんと言われようが、いつまでも現役、いつまでもポール。

それがポールマッカートニーという漢である。

座りがいいので、この辺で。

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