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教室のアリ 第2話 「4月10日」 〈サステナブルとオレのエサ〉

オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。「汁」を食べ損ねた翌日、教室は「どよーん」としていた。なんでかな?理由は3限にわかった。今日は「道徳」がある。それも、3.4限連続だ。「道徳」は人気がない。長年、授業を聞いているが「答えはみんなそれぞれの考えです」と言いながら「ひとつの答え」になんとなく導いている感じがしていたし、子どもたちもうすうすそれをわかっている、そんな気がしていた。この日のテーマは「サステナブル」だって。オレに言わせればいまさらだよ。人間がこぼしたり、捨てたりした食べもので生きているんだもん。アリは「サステナブル」。でも、踏まれたら一瞬であの世だ。

 先生は熱くしゃべっていた。

「モノを大事に使いましょう。えんぴつや消しゴムは最後まで使いましょう。買い物をする時は、材料を確認して、長持ちするものを選びましょう。ビン缶、ペットボトルはリサイクルしましょう」。ずっと昔から教えていた〈モノを大事に〉を〈サステナブル〉に変えて、いかにも今、一番大切なこと感を出した。そしてどんどん、眠そうな子どもたちを起こすように声が大きくなり余分なことを言った。「食べ物は残さず、キレイに食べましょう」。やれやれ、である。

 12時25分から13時の間、オレはまた何も食べられなかった。5年2組はもともと、おとなしい子が多いようだ。おかわり競争もそんなに激しくない。休みの人のゼリー争奪じゃんけんの声も小さめだ。新学年の始まりは残飯なし。つまり、オレの食べ物なし。

 だから決めた!あしたは、遠征だ。

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