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教室のアリ 第26話 「5月9日」〈まるおの考えと「係」について〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。

 『ダイキくん元気復活プロジェクト』とは言ってみたものの、オレたちはアリだ。いったい何が出来るのだろう?この日も5年生の授業はレベルが高いので、ポンタとまるおを連れて低学年の授業を受けた。だいたいは国語と算数。とにかく文字や言葉をわかるようになりたいし、計算もしたいからだ。給食を挟んで(給食は1年生にお世話になった)5限は国語、6限は算数のクラスを選んだ。2匹は真面目に聞いていたけど、オレはうわの空だった。ダイキくんを元気づけるアイデアが浮かばなかったからだ。終わりの会が終わり、静かに教科書をランドセルに入れ、歩いて帰っていくダイキくん…
「今日は野球が無いから急いでないんだね」呑気なまるおの言葉に少し気が抜けた。
「宿題やるかなぁ?」ポンタはつぶやいた。今日も教室はオレンジになった。

〈まるおの考え〉
 5年2組は上手に掃除をする。廊下側の壁にエサが残ってないかチェックしたけど、少しも落ちてなかった。しょうがないかと思いながら3匹でグラウンドを眺めていたら、まるおが話しだした。
「ねえ、小さい頃に聞いたんだけどボクたちは昔、小さな種とか、他の生き物とかを運んでいたんだって。でも、今は人間が作ってこぼしたものを運んでいる。で、人間も自分で食べ物を作る人と作らない人がいるんだよね。給食を作る人も自分で肉や野菜を作っているわけではないよね。だから作る人は他の人が食べる分も作るんだよね?ということは、子どもたちは、知らない人が作った食べ物を、給食にしてもらって、給食係りによそってもらって食べるってことだ。自分で食べる分は自分で作って自分で料理して食べれば、量だってわかるから残したりしないけど、そうじゃない。人間は『係』が多いんだ。ヒラヤマ先生は教える係。シュニンは嫌なことを言う係。ダイキくんは野球係と走る係。だからダイキくんは勉強しなくていいんじゃない?」無茶苦茶だなと思ったけど、間違ってもいない。
「どの『係』になるのかはいつ決めるんだろ?」ポンタが言った。まるおは黙ってしまった。オレンジは黒になって星が見える。オレは2匹に提案した。
「明日は金曜日だよね。学校が終わったらダイキくんのランドセルに忍び込んで家に行こうよ。元気にするヒントがあるかも知れない。勉強をしているかチェックもできるし。」
「だから、勉強はしなくていいんだよ!」まるおは頑固だ。
「ちょっと危ない目に遭うかもしれないけど、どうする?」オレはもう一度聞いた。
「行くしかない」2匹は口を揃えた。運動会とテスト…時間はあんまりない。
『ダイキくん元気復活プロジェクト』は進むのだろうか?
あー、コロッケ食べたい。

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