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教室のアリ 第19話 「4月30〜5月1日」〈先生の会話・ダイキがピンチ〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。
 きょう(火曜日)も子どもたちは来なかった…実は金曜日に気になることはあったんだ。終わりの会で、先生が「体調管理をしっかりと、早寝早起き!」「スポーツの試合や練習がある人は、ゲガに気をつけて」って言っていたんだ。うーん、もしかしたらしばらく休みなのだろうか?心配になったから、ポンタと職員室に行ってみると、先生は4人いた。何度かみたことがある紙に○とか✔️とか書いて、最後に大きく数字を書くんだ。ダイキ37、サクラ92っていうふうに。学校はシーンとしていた。保健室も音楽室も図工室も誰もいなかった。

 翌日(水曜日・5月1日)も先生が何人かいるだけだ。安全だと思ったので学校のウラの花壇に行ってみた。キレイな花が咲いているからポンタにも見せてあげたかったし。そしたら5年2組の担任、ヒラヤマ先生と白髪の先生(名前はわからないけどヒラヤマ先生より年上)が口からけむりを出しながら話をしていた。
「ダイキくんは野球をしているんだっけ?」白髪の先生が聞くと、
「はい!一生懸命頑張っています!運動神経が半端ないんですよ!すごいんです!」とヒラヤマ先生は元気よく答えたけど、白髪は難しい顔をした。
「大丈夫なの?」
「大丈夫とは?ケガもしませんし、運動会も大活躍間違いなしです!」
「そういうことじゃない!君はいまの状態をわかっているのか?」白髪が大きな声を出すので、オレたちはひっくり返りそうになったけど、ちっちゃいからバレてないようだ。
「状態と言いますと?」ヒラヤマ先生は小さな声で質問した。
「勉強だよ!相当悪いそうじゃないか!今のままだと、親を呼んで野球を控えてもらうように言わなきゃならん。学年の平均点をかなり下げているだろ!」
ヒラヤマ先生は小さくなってしまって、静かになって、けむりを地面の方に吐いた。

〈勉強、大事?〉
 
たしかにダイキくんの「数字」はいつも少ない。37とか41とか26の時もある。でも、足は速いし、高くジャンプできるし、なんといっても野球が上手い!かっ飛ばすんだ。すごいじゃないか!でも、白髪は「ダメ」って思っている。オレにしてみりゃ憧れだよ。体も大きいしよく食べるのに、人間の世界では数字が大きくないと野球ができなくなってしまうみたいだ。
「変だよね?」ポンタに聞いてみた。
「ボクたちはエサを探して、運べばいい。でも人間には、やることがひとつじゃなく、たくさんあるんだろうね」
ポンタの言うことはもっともだけど、少し納得いかなかった。オレは1個すごいところがあればいいと思う。アリ界にもいろんな意見があるんだ。オレとポンタじゃ、育ってきた環境も違うし、ましてや公園と草原と住んでいたところも違う。なんか、音楽で子どもたちが歌っていた曲みたいだ。なんだっけ?「パセリ」だっけ?話がそれた。
 とにかく、ダイキくんは「ピンチ」だ。野球ができなくなってしまうかもしれない。ヒラヤマ先生は上手く伝えられるのだろうか?オレたちにできることはあるだろうか?そんなことを考えていたらお腹が減ってきたので給食室に行くことにした。エサがあっても無くなってても嬉しいし、悲しい…今はそんな場所だけど。

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