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元市立病院医師の長氏 末期のすい臓がん告白 動画サイトで公表「思い引き継いで」

 元石巻市包括ケアセンター所長で、昨年の石巻市長選や知事選にも出馬した医師、長純一氏(56)は21日、末期のすい臓がんであることを告白した。動画投稿サイトのユーチューブで生配信した。現在は自宅で療養し、抗がん剤治療を行っている。震災復興に全力を注いだ10年間を振り返り、長氏は「私の思いを少しでも引き継いでもらえれば」と石巻の未来を願った。

 東京都生まれの長氏は信州大学医学部卒で、長野県の佐久総合病院に19年間勤務。震災後、同県医療団長として石巻市を訪れ、平成24年4月から市立病院開成仮診療所長として腕を振るい、在宅医療センター長や市包括ケアセンター所長、雄勝診療所長も務めた。

 その後、行政の医療福祉への関心の低さに危機感を抱き、昨年2月には9年間務めた同院を退職。「住民の命と暮らしを守る」と同4月の市長選、同10月の県知事選に立候補するも落選。今年1月からは防災集団移転団地にあるあゆみ野クリニック=同市あゆみ野=の院長に就いた。

長さんの動画配信を見つめる市民ら

 しかし4月中旬から度々体調を崩し、5月末の検査ですい臓がんが発覚。発見が難しいとされる膵尾(すいび)部に悪性腫瘍があり、全身に転移した末期状態という。長氏はさまざまな治療を始める前に「世話になった地域に感謝を伝えたい」と考え、長氏を支える団体「未来へ、いのちをつなぐ石巻の会」(山崎信哉会長)が生配信の場を設けた。

 ベッドに横たわり配信に臨んだ長氏。「早ければ数週間、抗がん剤で進行を遅らせても数カ月。市立病院の在宅医療チームが24時間体制で訪問診療しており、私はおそらく日本一恵まれた治療を受けている幸せな患者」と語り、支えてくれた人たちへの感謝、クリニックの休診を詫びた。

 市立病院には「在宅医療の柱。きっと10年後は日本一の病院になる」と期待し、地域課題には「包括ケア推進、少子化と子育て問題の是正、被災者の心のケアなどのあり方は考え続けるべき」と提言。「石巻が復興していく姿を最後まで見られないのは残念」と悔やんだ。

 また政界に挑んだ動機は「子どもが大事にされる社会にしたかった」と説明。「私には長女(3歳)がいる。父親の役割は十分果たせなかったが、(娘が成長したら)『社会のために戦った』と伝えてほしい」と涙を拭った。【山口紘史】


転院勧めるも「石巻で死にたい」
生配信前に親子で会話 長氏 仲間に信頼寄せる

 末期のすい臓がんを告白した長氏は、数日前からSNSで「非常に大切なお知らせがあります」と記し、21日の配信を告知。当日はマルホンまきあーとテラスで生配信の公開があり、市民ら約60人が見守った。

 奈良県から駆け付けた長氏の母、玲子さん(85)は「大事な話があるから」と息子に言われ、石巻市を訪れたのは今月6日。「俺もう死ぬんだ」。玲子さんは約1時間にわたって長氏から病状を説明されたという。

 生配信前の親子2人だけの会話で、玲子さんは「悔いはないの?」と尋ねると、長氏は「悔いはない。自分は幸せだった」と話していたという。奈良県内に転院を勧めたが、長氏は「石巻で死にたいんだ」と支え続ける仲間に信頼を寄せていた。

 長氏は5月の市議選で新人の都甲マリ子さん(36)を推した。会場で配信を視聴した都甲市議は「選挙で訴えてきた内容と一貫していた。長先生がやりたかったことを実現してくれる人を一人でも増やしたいという思いが伝わった」と話していた。

 山崎さん(86)=いのちをつなぐ石巻の会会長=は、仮設大橋団地に住んでいた時から長氏と縁があった。「誰にでも親身に接し、何事にも一生懸命こなす人。本当に気の毒でならない。長さんの意思を継いだ活動を継続する」と述べた。【本庄雅之】




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