震災伝承と心の復興へ 100通りのありがとう 初の石巻公演
市民ミュージカル千秋楽
東日本大震災のあった石巻地方の住民ら約100人による「心の復興13回忌ミュージカル100通りのありがとう」の石巻公演が24、25日、石巻市のビッグバンで行われた。未就学児から80代までの出演者が歌と踊りを交え、12年前の教訓や伝えきれていない支援への感謝を発信。涙あり、笑いありの舞台は、犠牲になった人を忘れず前を向いて生きていく決意に満ち、震災を知る地元の観客の共感を呼んだ。【熊谷利勝】
3月の東松島市に続く公演で、公開されたゲネプロ(最終通し稽古)を含めて2日間で3回上演。合わせて約1千人が来場した。1部では震災体験が語られたほか、消防団員の活躍と犠牲が演じられ、困難に負けない気持ちを歌で表現。後半では講談仕立てで慶長遣欧使節船サン・ファン・バウティスタ号と支倉常長の物語、スペインとの絆を描いた。
12年は長く、この間に病気で失われる命も。親しい人を亡くした住吉中学校3年の須田恵理子さん(14)はせりふで「どうしても助けたかったんです。みんな、みんな、みんな」と薬剤師になる夢を発表した。
二度とない人生を悔いなく生きることを表す場面では、70代以上の女性が小学校以来のスキップを披露し、客席を笑顔にした。終盤の歌では「お前がいて俺がいて遠くの街に友だちがいる」と引っ越さざるをえなかった人を思い、この地で生きる決意を込めた。
震災翌年3月、東京都の銀座で石巻地方の約100人が披露したミュージカルの流れをくむ公演。有志の実行委員会が十三回忌に地元での再演を企画し、出演者を募って昨年8月に練習を始めた。台本や音楽、演出は引き続き、数多くの市民ミュージカルを手掛けてきた寺本建雄さん=東京都小平市=が担った。
24日の公演を見た石巻市和渕の女性(62)は「震災で友人を亡くしており、心にしみた。当時、皆がどんな気持ちでこれまで頑張ってきたのかが伝わり、来てよかった」と満足。25日の千秋楽は銀座公演から応援してきた宮城県出身の声優・山寺宏一さんも鑑賞し、「舞台をする人間として、こんなに感動したのは初めて。力をたくさんもらえた」と絶賛した。
銀座に続き舞台に立った杉山昌行さん(59)=石巻市高木=は「足踏みせず、前に向かっていくメッセージを込めることができた。前回は協力してもらいながら見せられなかった地元の人たちに披露できた」と感謝した。実行委員長の菅原節郎さん(73)=東松島市新東名=は「見た人に何かしらの充実感を得てもらえたと思う。出演者も人生の財産になる」と総括。震災で亡くなった妻や長男、妹へ向け、「少しは供養になったかな」とほっとした表情を浮かべた。