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「地域の養殖業と陸上養殖」 ①課題 事業化に向けたコストダウン鍵

 三陸沖は世界有数の漁場であり、石巻、塩釜、気仙沼、女川の各漁港はいずれも国内でトップクラスの水揚げがある。連日さまざまな水産物が水揚げされ、それを加工する工場も多い。石巻地方の各浜では養殖業も盛んで、ホタテやカキ、ホヤ、ギンザケなどが育てられ、高品質な水産物を全国に届けている。

 東日本大震災の津波で石巻地方の沿岸部は大打撃を受け、多くの養殖施設も失った。その後、国内外の支援を受けながら水産関係者が団結し、漁港や魚市場、漁船、養殖施設などが徐々に復旧。出荷までに数年を要するカキやホヤに代わり、成長が早いワカメの養殖が注目され、生計の一助を担った。

 震災から10年が経過し、ようやく漁業の復活が見えてきたが、海況の変化による貝毒の発生や水温の上昇など養殖業を取り巻く環境も変化。元々、海況は数十年周期で変化すると言われており、多くの漁師も口伝や経験で知っている。地域では昔からそれを乗り越え、生業としてきた歴史を持っている。

 個人で養殖業を営む漁業者は、基本的に息子の代に引き継ぐ世襲であり、今もそれは続く。しかし、被災した各浜では、人口の流出が大きな課題となっている。人がいなくなれば、おのずと漁業の担い手も減る。若い漁業者を育てていこうと、県では「みやぎ漁師カレッジ」などを開き、新規就業者の確保に力を入れている。

 海面養殖だけではなく、地上で水産物を育てる「陸上養殖」も注目されている。石巻市渡波の県水産技術総合センターでは、県内で初めてとなる完全に海と隔絶した「閉鎖循環式」の研究施設整備が進んでいる。

 陸上養殖は海況に左右されず、温度など環境を自由に変更できるという大きな利点があり、安定した水産物の生産が可能になるという。問題はそこに掛かる費用であり、いかに事業化に向けてコストダウンを図れるかが鍵。担い手不足が心配される水産業では、地上で管理し、人手も少なくて済む陸上養殖は全国でも高い関心を集めており、すでに日本海側を中心に整備が進んでいるという。

 震災から10年半が過ぎた石巻地方の養殖業は、すでに20年、30年先を見据えながら静かな一歩を踏み出している。


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