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万石浦 海のゆりかごで酒熟成 10日に水深15メートルから引き上げ

 海のゆりかごで熟成された酒は、どんな味なのだろう。合わせるつまみはやっぱり地の物か。それが環境保全に役立つなら言うことなし。石巻市の万石浦で海底熟成酒プロジェクトが進んでおり、昨年末に沈めた日本酒が10日に引き上げられる予定で、購入希望者を募っている。課題をクリアすれば正式に商品化され、新たな石巻の特産品になりそうだ。

 仕掛け人は、石巻の老舗酒店・四釜商店の四釜壮俊社長と石巻を拠点に活動する海洋調査ダイバーの福田介人さん。2年ほど前に知り合い、意気投合。共に酒好きで「やってみよう」と盛り上がった。

 さっそくアイデアを温めていたという福田さんが、牡鹿半島の谷川浜など4カ所で実験的に酒を沈めた。しばらくおいて引き上げた酒は「かどがとれてまろやか」(福田さん)。一方、しっかり固定したはずがシケで流されたものがあり、シーリング(明け口)に問題が残るなど改良点も見つかった。

プロジェクトに取り組んだ四釜社長(中央)

 県漁協石巻湾支所に相談したところ、万石浦を推薦された。同支所の高橋文生運営委員長によると「東日本大震災の影響で万石橋の下の海底は、えぐれた状態」。かつて水深は3-4メートルだったが、国土地理院の調査では18メートル近くまで深まった。

 その上、万石橋の下は潮の流れが速いため海水が滞留することなく、海底付近の水温は3-4度でほぼ一定であることなど好条件であることが分かり、再トライすることに。

 航路での作業となるため、海上保安庁への許可など同支所の協力を仰いだ。沈めたのは昨年12月12日。石巻の地酒「日高見」の生しぼり4合瓶180本をビールケースに詰めて、水深約15メートルの海底に設置。土のうの重りをつけ、ネットで覆い、マットをかぶせ万全を期した。

 「火を通していない生しぼりじゃないと味の変化が出ないので」と四釜社長。福田さんは「微振動と日焼けしないことが重要」とポイントをあげた。

 県内では、南三陸町などの海底でワインを熟成させる試みが行われている。日本酒の海底熟成を行った例もあるが、ほとんどはカキの養殖のように海中につるす方式で、今回のように関係各所が協力して海底に沈める取り組みは全国的にも珍しい。

海底に沈められた日本酒のケース

 四釜社長は「石巻の蔵元、漁業者、水産加工業、いろんな方が元気になれる商品になればいい。もちろん日本酒好きな方に、おいしい酒を味わっていただきたい」と新たな特産品に向けて意気が上がる。高橋委員長も「私らが作ったカキ、ノリも酒に合わせてもらえれば復興につながる」と期待を寄せる。

 酒の購入はインターネットで資金を募る「Zenes(ゼネス)」のクラウドファンディングから。海底熟成酒、つまみ付き、海底熟成させていないオリジナル酒との2本セットなど1万円から2万5千円まで各種コースがある(5月15日締め切り)。各購入金額のうち、500円は万石浦の環境保全に寄付される。【本庄雅之】





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