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「書く」の原点とAIと
私の「書く」の原点の一つとなった本があります。
兄が貸してくれた本で、『表現の技術』といいます。
この本を読んだのは2018年の終わり頃で、正直に言うと、内容のほとんどは忘れてしまっています。けれど、この本の核となるであろう言葉は、今もはっきりと覚えています。(当時使っていたスケジュール帳に、メモしてあるのです)
表現の使命はひとつ。
その表現と出会う前と後でその表現と出会った人のなにかを1ミリでも変えること。
中央公論新社
そうだ、私も人の心を動かす言葉を、紡ぎたい。
そのために自分の時間を削るのなら、たとえ途方もない労力を費やすことになったとしても、少しも後悔しない。そう思ったのです。
この本を閉じてから今日に至るまで、文章に関して、何らかの技術を身につけることができたとは言い難いのが現状です。でも、自分の中の指針の一つは、しっかりと私の中に根づいています。
人の心に響くこと。
人の心を動かすこと。
それは、個人的な指針であるとともに、"いい文章かどうか"の判断基準でもあります。
だから、仕事で、AIにキャッチコピーを書かせてみた時、私は驚いて……、それから少し不安になりました。
というのも、AIの書いたキャッチコピーは、私や同僚があれやこれやと頭を悩ませて書いたものより、よかったから。
AIでも心に響く文章が書けてしまうかもしれない、と思ったその時、ふと言い知れぬ不安に襲われたのです。
まだ、キャッチコピーレベルで、きちんとした文章を書けたわけではありません。
けれど、私は、最近のAIの成長の目ざましさを、知っています。あぁ、人間は越されてしまうかもしれない、と思いました。いつか、私の文章など、AIの生み出すものに負けてしまうかもしれない、と。
それから、はたと思ったのです。
私の書く言葉とAIの書く言葉。
もしも後者の方が人の心に響きやすいのだとしたら、そんな未来がもしも来るのなら、私が書く意味とは何だろう?
そのキャッチコピーを見るまでは、AIは、仕事で使おうにも、知識の面でも怪しい部分が多く、アイディア面では特に使い物にならないという印象がありました。
”彼”(か”彼女”)が思いつく企画は斜め上過ぎて、とてもじゃないけれど使えないな、と思うものも少なくなかったのです。
それ故、私たちは彼の回答を見ては笑い転げていたのですが、「あ、この案いいかも」と言った時、私も同僚も、至極真面目な顔をしていました。
なぜなら、本当にいいと思ったから。
感情のないAIの生み出した言葉が、私たちの心を動かした瞬間でした。
そして、それは漠然とした不安と焦りへと繋がっていくのです。
案外、AIが新しい日本語や面白い言葉を生み出すかもしれない。
誰かが一生大切に持っておきたくなるような文章を、人間ではなくAIが書くようになるかもしれない。
それらを生み出すスピードは人間の頭の回転をはるかに超えていて、人間の力は到底及ばなくなってしまうかもしれない。
そんな時、それでも言葉を綴る行為を続けるとしたら、それはなぜだろう。
何の意味があるのだろう。
そんなことを、しばらく考えていて私が導き出した一つの答えがあります。
どんなに優れたAIも人間には勝てない点。
それは、
私たちには生身の体が、そこに宿る精神があることです。
私たちは、他ならぬこの肉体と共に、様々なことを日々、経験しています。
何もかもがうまくいかなかった日、夕陽の美しさに励まされたことが、初めて聞いた音楽に心が踊ったことが、誰かの温もりに言いようのない安堵を覚えたことが、あなたにもあるでしょう。
言葉が通じなくても、心の通い合うことがあると知った瞬間の喜びを、思いどおりに体が動かないくやしさを、世界から見放されたと思っていた時に差し伸べられた手のあたたかさを、あなたもきっと覚えているでしょう。
人間の言葉には意味がなくなるかもしれない。
でも、だからこそ、個人個人の言葉の価値は上がっていくんじゃないかと、私は思うのです。
AIの言葉より、様々な経験をしたあなたの言葉の方が、例え同じことを言っていたとしても、きっと響きます。生身の体で経験し、目には見えない心を沢山動かしたあなたの言葉の方が、誰かの心を動かすに違いないのです。
だから、書くことが好きな人の集まったこの街で書き続けることには、きっと意味があるのです。
AIが色々なことを教えてくれる。
仕事を代わりにやってくれる。
素敵な提案をしてくれる。
そんな未来が来たとしても、誰かの心を本当に動かせるのは、生きた私たちの言葉のはずです。
人間は、AIよりも深く生きて、それを言葉にする。
私たちが生きるのはそんな時代だと、「書く」の原点を思い出しながら、私は思いました。
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