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文学イベント東京Vol.3 参加サークル紹介:白猫文庫

文学イベントを開催!
WEB小説書きさん・イラスト描きさん・漫画さんの作品を販売する「文学イベント東京Vol.3」
日程 2024年10月14日(祝日)
会場 代官山T-SITE GARDEN GALLERY
【入場無料】

サークル名:白猫文庫
作家名:ひなたこう


■「八番街のスイ

まんまるの猫を追いかけ迷い込んだのは「八番街」。
そこで少女スイと出会い、盗まれてしまったという「三宝(みたから)」のひとつ、翡翠を探すけれど……。
児童書風和風ファンタジー小説。

『ねこしあねこしあ』と言うおまじないが、学校で流行っている。おまじないを唱えて幸せを願うと、『八番街のスイ』から、お守りが届くらしい。

   *

 いつもの朝。ランドセルをロッカーにしまい、窓際の自分の席で頬杖をつく。外を眺めると、鉛色の雲が低くたれ込めている。ここ一週間ほどそんな日が続いていて、あまりいいものではないんだなと、ため息をついた。
 教室に視線を移せば、少しズレ気味に並んだ机の中、右斜め前の席だけは綺麗に整頓されていて、そこだけ違う世界のようだった。ヒカリ。あいつが休んでから、もう一週間になるんだ。
 ヒカリは、俺の幼馴染で、友達だ。長い黒髪に大きなリボンが特徴的で、本が大好きなおとなしい女の子だ。
 風邪で休んでいるらしいけど、お見舞いに行ったところで丁重にお断りされてしまった日からは、彼女の家を横目に通り過ぎるだけになっていた。大丈夫だろうか、大きな病気ではありませんようにと、願うくらいしかできない。
 先生の挨拶の声で我に帰った。今日の天気のように、少しどんよりとした一日が始まった。

  放課後、図書館へ向かおうと家を出ると、何か白いものが前を横切る。まんまるの、太った猫だ。
「わ! 絵に描いたようなデブ猫!」
 つい、声に出してしまうと、それを聞いたかのようにまんまるの猫はシャーッとふりかえって威嚇し、走り出した。
「お、おい待てよ!」
 つられて追いかける。学校の近くの小さな川の橋を、おいしいお菓子がいっぱいで目移りしてしまう駄菓子屋の横を、母とよく行くスーパーマーケットの前を、まんまるの猫は駆けて行く。
「ちょっと待てよ! 謝るから!」
 T字路を曲がったところで、ぜえはあ、と、乱れた呼吸を整えようと立ち止まり、両手を膝につく。途端に汗が吹き出るので、袖で拭う。
 顔を上げるとあたりがやたら薄暗く、暗闇の中にオレンジの光がぼんやりさしている。ちょっと待て、ここは、どこだ⁉︎
 周りには、赤い壁に黒い屋根の建物が並んでいて、屋根の角には提灯がかかっている。だからか、時代劇で見るような昔の民家とは、似てるようで似つかない。
「こいつか? こいつでいいんだよな⁉︎」
 後ろから急に大きな声がして、驚いて転んでしまった。見上げると、俺の上で大きな腕が、両側から勢いよく空を斬っていた。何だ?
 よくわからないまま慌てて立ち上がり駆け出す。捕まえられそうになっていることに気づいたのは、男がまた追いかけてきてからだった。
「なんで!」
 猫を追いかけていた時より早く駆ける。クラス代表に選ばれるほど走るのは得意だったけれど、そんなの大人の前ではかなわないのだと、距離をつめられ思い知る。俺、捕まったらどうなるんだろう!
「こら待てえ!」
 男がせまりくる。ぼんやりした提灯の灯りがいくつもいくつも過ぎていく。息が上がる、苦しい!
 正面の赤い壁に手をつく。こんなときに行き止まりなんて!
 なんでこんなことに、怖い、怖い、怖い! 男がジリジリと距離をつめる。足の力が抜けて膝をつく。怖い。目をつむる。誰か助けて!
「うわあ!」
 何かがぶつかる音がして、男の悲鳴が聞こえた。一体、何が起きたんだ?  恐る恐る目を開ける。するとそこにはさっきの男が俺を捕らえようと、両手を広げたまま固まっていた。
 俺は驚いて尻もちをついてしまった。しかし、男は恐ろしい形相で変わらず固まっている。
「はやく! こっちこっち」
 男の後ろから声がした。女の子と、隣をなにか黒いものが飛んでいた。動けないでいる男の横を恐々と通り過ぎ、走り出した女の子を追って駆け出す。
「やった! 停止魔法が効いたね!」
 声を発していたのは黒いものの方だったらしい。もう何が何だかわからない!
 飛んでいたものは、青い瞳の黒猫だったから!
「とにかく、ここから逃げましょう」
 今度は女の子が俺に声をかける。
 もう、どうにでもなれ!
 俺は不思議な一人と一匹にいざなわれながら、暗い路地を後にした。

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