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トピックス(小説・作品)

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素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
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2019年10月の記事一覧

ばれ☆おど!⑩

 第三章 『疾風のプリンセス』 下駄箱とは――学校(小学校、中学校、高校)では生徒一人ひとりに自分専用のスペースを割り当てられる。この特定の個人しか使わない特性を活かし、下駄箱に何かを入れ意思などの伝達に使われることがある。学校を舞台とする物語ではよく使われる場所である。日常の場でもあり、新たな展開をむかえるシーンで用いられることがある。  第10話 依頼者は委員長  人生、生きていれば、時にはいいことだってある。  ようやく、カン太にもその時が訪れようとしていた。

ばれ☆おど!⑨

 第9話 氷点下の微笑  三毛猫が気持ちよさそうに伸びをして、小さくあくびした。  カン太が張り込みを始めて今日で二日目になる。  ぼんやりとその猫を眺めている。  だが、平穏な風景は一瞬にして消え失せた。  三毛猫の首のあたりに何かが突き刺さる。猫は驚いて、電柱に激突しながらも、一目散に走りだす。  しかし、10メートルも走らないうちに猫は力尽き、眠るように倒れる。  滑るようにして、黒塗りのワンボックスカーがその横につける。ドアが開き、車から黒服、黒いハット、黒い

ばれ☆おど!⑧

 第8話 空気が読めない奴は誰だ!?  ゴールデンウイークの平和な連休は終わった。  だが、それを惜しんでいる暇はない。  放課後の動物愛護部の部室――。  そう。ここには険悪な空気が満ちている。  相変わらずというべきか、うるみと緑子は全く話をしない。  緑子がうるみを敵視している。激しい火花を散らしているのは、緑子ひとり。うるみは冷たく受け流している。  美少女同士の敵対の図。悪くない。……はずだ。  バタン!  そこにカン太が現れた。 「遅くなりました……ハア

秋が深まってきた水曜日の夜に飲むホットチョコレートはただ甘いだけじゃない

仕事を終えて水曜日の映画館へ向かう。上映開始までぴったり一時間はあることを確認して少し急ぎ足になっていた歩をゆるめた。君からのメッセージにはまだ返信してない。今は君のことを少しでも頭や心や感情や私の一部から切り離したくて、早歩きになったり意識してゆっくり歩いたり自分とは違う、それぞれのスピードで進んでいく人々や景色を感じてみたりした。でもやっぱりどこかに君との関連性が生じてた。 ホットチョコレートを飲みながら上映までの時間を過ごした。本当はただのコーヒーにしようと思ってたの

松方コレクションの一時保管場所

 ≪ パリ滞在記・その3−2 ≫    〜Musée Rodin Paris  ロダン美術館・後半〜 <前半からの続きです> 私にとってロダンといえば 国立西洋美術館、そして松方幸次郎氏なのであります。  私は絵を描くことが苦手で、美術関係の事柄から距離を置いてきた人生を送ってきました。 2年半前突如、西洋絵画に興味を持ちはじめたのですが、彫刻作品に関しては今ひとつ良さがわからない…。「すごい!」とは思うのですが、「これが好き!」という感情がなかなか湧いてこないのです。

「この館を私の美術館に!」

 ≪ パリ滞在記・その3−1 ≫    〜Musée Rodin Paris  ロダン美術館・前半〜  ドラクロワ美術館を出て、次はロダン美術館を目指して出発! まだ自分がパリにいる実感が沸かず、映像をみているようなフワフワした気分でパリの街並みを進んでいくと、門前で銃を構えたカッコイイ警備員がチラホラ。 パリ7区セーヌ左岸、ここは「ヴァレンヌ通り」で、イタリア大使館、農務省や連邦政府庁舎が並んでいるようです。 その一角に、違和感なく並んでいる「美術館」がありました。

ドラクロワが愛した住居・アトリエ

 ≪ パリ滞在記・その2 ≫ 〜musée Eugene-Delacroix       国立ウジェーヌ・ドラクロワ美術館(ルーブル美術館の別館)〜  サン=ジェルマン・デ・プレに借りたアパルトマンから歩いて10分、ドラクロワ美術館に行ってきました。 巧みな色使いと躍動感あるドラクロワの作品からは想像もつかないほど、建物入り口は静かで落ち着いた雰囲気。そこを訪れたすべての人を吸い込んでしまいそうな魅力を持っています。 私がドラクロワについて知っていることは、 ・有名な「

”礼拝堂に描かれた ドラクロワ“

 ≪ パリ滞在記・その1 ≫ 〜Église St-Sulpice サン・シュルピス教会〜  パリ到着の翌朝。サン・ジェルマン地区に借りたアパルトマンから、すぐ近くの教会まで散歩してきました。  ライオンが番人を務める噴水広場を抜けると、古く荘厳な建物がそびえ立っていました。250年以上も前から、ずっとこの場所で。  左右の鐘塔がアンバランスな建物は、私が勝手にイメージする教会とは違った形をしていました。パリに来て初めて見る歴史的建築物ですが、柱、天井、壁など至る所に細

「黄泉比良坂にて」 #39

「西川原、どうする」  西川原は黙っておれを睨んだ。少しは自分で考えろということなのかもしれない。佳恵を、あの式神に引き渡せばいいのだろうか。秋川は、式神たちについて、狙いは自分たちだと言っていた。いや、この状況を客観的にみれば、彼らの狙いはおれたちでもあるのだろう。さっき、秋川の家の前で戦ったときも、彼らは秋川はもとより、おれたちも狙ってきたことから、それは明らかだろう。  だが、さっきの秋川の最期の姿がおれの脳裏にこびりついていて、その映像を思い出すだけで足が震え、手が思

「黄泉比良坂にて」 #38

「さっきまでは、二人とも、川岸にいたのよ」  西川原は岩場の影におれたちを引っ張っていき、小声でそう言った。 「あの子は、秋川の子どもだと思う」とおれは言った。「工藤が連れてきたんだ」  西川原は工藤をみて、軽く頷いた。それが西川原の挨拶のようだった。 「工藤くん、本当に無事だったんだ」 「いや、無事かどうかはよくわからないけど、とりあえずは生きてるみたいだ」 「何してるんだ、あの二人は」おれは岩の向こうにいる、佳恵と裕二のことについて、西川原に尋ねた。 「さあ。川の音でよく

「黄泉比良坂にて」 #37

 おれは自分の脇の血をあらためて見せた。白いシャツは汚れと血で元の色がなんだったのかわからないほど変色している。工藤はそれを見て、露骨に顔をしかめた。 「おい、見ろ、やばいぞ、これ」工藤が秋川を指差した。秋川の顔が崩れ、まるで腐った果物のようにひしゃげている。みるみるうちに腕が黒ずみ、地面に落ちた。身体全体が液体化しているのだ。おれと工藤はそれを見て、絶句した。  じっとみていると、胸の中から、何か光るものが出て来た。携帯のライトのような、青白い、安っぽい光だ。じっと見ている

「黄泉比良坂にて」 #36

 よく見ると、胸のところにバッヂをつけているので、見ると、「あきかわ ゆうじ」という名前がひらがなで書いてあり、裏をめくると、「秋川 裕二」漢字で書いてあった。ともあれ、ここから脱出しなくてはならないので、一緒に行くことにした。  工藤らがいたのは谷底のようなところだったが、とにかくここから出ることを考えなければならない。あたりは鬱蒼と生い茂った雑草と木々で覆われていて、どこか霧もかかっている。裕二が先導して進んでいったが、どういうわけか道に地蔵が置かれているところがあり、そ

「黄泉比良坂にて」 #35

 鉄製のキャビネットが直撃した秋川は完全に気を失っていた。一見しただけではわからないが、骨が折れているのかもしれない。おれは自分の服についた秋川の血が不快だったが、いまはそれどころではない。おれの身体についた泥を、西川原が払い落としてくれた。  おれはすぐに玄関のほうを振り返った。さっきそこにいたはずの佳恵は、もういない。玄関に向かって歩こうとしたが、全身が痛くてまともに歩くこともできなかった。佳恵が投げたナイフがおれの脇をかすめたことを思い出した。手でそのあたりを触ってみる

「黄泉比良坂にて」 #34

「もちろん。僕たちが秋川だというのは本当だ。だが、この身体はしばらく前に、この世界にやってきた夫婦から乗っ取ったものだ。次は、君たちの身体を借りることになるだろうね。高校生がこんな一軒家に、二人で暮らしてるなんてのは、さすがにちょっと不自然かな」  秋川はまた声を出して笑った。 「まあ、そんなことはどうだっていい。なんとでも言うことはできるからね。いずれにせよ、ここまで話してしまった以上、君たちを逃すわけにはいかない。どんな手を使ってでも、乗っ取ってやる」  西川原は手にして