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ほっこりとおだやかに

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#小説

透明な感情

大人になってからも読書感想文はすごく苦手である。ウッとなる。夏休みの宿題の最後はいつも読書感想文が残っていた。 というわけで、去年、文学学校の宿題(?)で書いた読書感想文。 何か書こうと思うのだけれど、今、どうしても書けないので掲載しておきます。今読んでもなんか恥ずかしいです。 透明な感情 (川上弘美 神様 を読んで) 恥ずかしいことに川上弘美さんを知ったのは割と最近のこと。いつだっただろうと読書記録を見返してみると、去年の六月に『おめでとう』を読んだのが初めての川上さ

『うるさいこの音の全部』(高瀬隼子著)書評|自分の声が聞こえない

* ジャンラララ、ジャンラララ。周りの音が大きくなるほど、自分の声が消えていく。自分の声がわからなくなる。本当はもっと、本音を聞いてほしいはずなのに――。 主人公の朝陽は学生時代からアルバイトをしていたゲームセンターで正社員となり、その傍ら小説を書いている。ペンネームは早見有日。有日の著書『配達会議』がテレビで紹介されると、朝陽の周りに大量のさまざまな声が届き始めた。 「小説家の人たちってやっぱり独特の目線で周りを見ているわけでしょ。社会や人間を書くわけだから。いや、ぼ

ふたり、窓辺で

朝から雪が降っていた。 カーテンを開け、外をよく見えるようにするときみはひょいと窓のへりに飛び乗った。それから、上手に後ろ足を折りたたんで窓の外を眺めた。 「今日は雪だね」 話しかけながら、きみの目線に高さを合わせて同じように外を見てみる。 「雪、はじめて?」 と聞いてから、そんなことはなかったなと気づいた。きみは雪のたくさん降るところから来たんだった。 でも、わたしだって雪の降るところで育ったの。きみより長生きだから、わたしのほうがきっと雪を知ってる。 きみはじっと外を眺め

さとうしお作品ピックアップ

2017年春からWeb小説を書いています。名義はみっつ。砂東 塩。31040。さとうしお。どれも〈さとうしお〉と読んでください。 この記事は比較的PVの多い4作と名刺代わりの作品リンク集です。 砂東 塩 ▶pixiv ▶ステキブンゲイ 31040 ▶エブリスタ ▶カクヨム ▶小説家になろう  ※エブリスタと小説家になろうは年齢制限の設定が可能なため過激表現のある小説も掲載しています。 『巻き添えで召喚された直後に死亡したので幽霊として生きて(?)いきます』 超長編異世

ひとり、の渦に呑まれる

 手を奥へできる限り伸ばすと、ヒヤリとした冷風に突き当たる。使い始めてから早15年が過ぎていて、とっくに標準的な耐年数は超えているのに、いまだに微かな呼吸音を立てながら室内の果物や野菜、私が作った料理などを冷やし続けている、健気なやつ。日常的に、私が生きていくために、そっと息を吐き出している。 *  相変わらず、少し前から朝方の日が昇らない時間帯に目を覚ましてしまう。真っ暗闇の中で突然夢から放たれて、なぜかわからないけれど、再び眠ろうとしても途端に瞼が軽やかにパチパチと振

「コトリはキセキを信じていたい」をNOVEL DAYSで公開しました

 noteで公開していたクリスマス向けの短編小説「コトリはキセキを信じていたい」をNOVEL DAYSのほうでも公開しました。  よろしければご覧くださいませ。  noteで公開している同作はこちら。(テキストは同じです)  2年前に書いた作品です。  なんとなくこれまでnoteだけで公開していましたが、ふと思い出し、NOVEL DAYSのほうにもページをつくってみました。  もうすぐアドヴェントですし、多くの人に読んでいただければ幸せです。 ◇見出しの写真は、みんなの

「ごあいさつ」

こんにちは、いちです。 長編小説「KIGEN」の連載が終了致しました。お付き合い下さった皆様に、心より御礼申し上げます。お読み下さっていると実感できるたび、その一つ一つがどれ程励みになったか知れません。連載を続ける上でも大きな支えでした。また、お時間の許すとき、現在進行形でお読み頂いている皆様の事も、私にとり大きな励みでございます。本当にありがたく存じます。 しばらく執筆と、そして自身の生き方に向き合う時間に主軸を移します。その間に、noteとの付き合い方も考えてみようと

「KIGEN」第八十八回(終)

 とある幼稚園の遊戯室。講演前に、エプロン姿の先生が園児を前にお話を始める。 「今日のお話し会の先生は、JAXAっていう、宇宙を相手にお仕事をする、とーっても凄い人たちです。それからもう一人、スペシャルゲストも登場するそうですよ。楽しみだね。それでは先生、よろしくお願いします」  小さな手がぱちぱち鳴らされる中、奏はそろそろと園児の前へ歩み出た。傍らにはサポート役で矢留世が控えている。今日の講義テーマは「ロボットと人」。これまでのロボット工学における人とロボットとの歩みを

文学フリマ東京37。

文学フリマが終わって、日常。あまり余韻に浸っている暇がないほど、日常が一気に押し寄せてきていて、あぁやっぱり11月だもんなと思う。 もう今年も終わろうというのだから、せわしない。 でも書きとめておきたいことがあるので、ぼちぼちと。 今回、いしまるさんと一緒に作った(作ってもらった)『夕陽のかたち』。 詩と短歌の本。デザインもレイアウトも何もかも全部いしまるさんがやってくれて、当日の準備物も全部段取りしてくれて、わたしはただ会場に行くだけという身軽さだった。 今回は品川で降りた

ウミネコ文庫の童話募集、とりあえず初稿を書き終えたけど、締め切られてました。あーあ。なんか書き出す前からこんなことになるんじゃないかと思ってましたが……。 https://note.com/abe8848/n/ndf3809fce555

『ハンチバック』書評――「健常者」という仮想敵に向けて

* <生まれ変わったら高級娼婦になりたい> <普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です> 首をかしげたくなるようなツイートを続ける井沢釈華。10代の頃に全身の筋力が低下する難病・ミオチュブラーミオパチーを発症し、背骨は右肺を押しつぶすかたちでS字のように湾曲をしているという。両親には相当の資金があったようだ。身体の不自由さはひどいものの、死ぬまでに必要なお金なら揃っているらしい。 そんな彼女は両親が遺したグループホームの一室で、通信過程の大学生となっ

商業BL小説、崎谷はるひ先生『しなやかな熱情』シリーズ読書感想スペースを明日21時〜やります。スピーカーは、 🔥第19回小説ショコラ新人賞佳作受賞・羽生橋はせをさん 🔥第1回キャラ文庫小説大賞優秀賞受賞・畝傍さん 🔥私、羽多奈緒 です https://twitter.com/i/spaces/1OdKrzzgnwlKX

【小説】インドで旅をして服をつくる、なんてしあわせなんだろう。

こう暑いと、カレーが食べたくなりますよね。 そして、ふと、インドのことを思い出します。もうかれこれ20年も前のことになりますが、仕事でインドに行ったのです。 インドに、服をつくりに。あ、仕事です。 エッセイをnoteに投稿していたら「そのときの話をもとに、小説を書きませんか?」と文学サークルの秋さんにお声がけいただいて、短い小説を書きました。 大学で「小説」を書くことにものすごく苦手意識を感じているころにお声がけいただいて、「じぶんの体験をもとに創作して小説を書く」と

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100〜
割引あり

『毎週水曜はうちの夫を捨てる日です』第1話

婚姻届を出したら、永遠だと思っていた。 夫と壊れることのない絆ができたのだと。 でも、私はいま、夫を捨てたい。 **** 「里見さーん!」 もうすぐ、昼休み。そんな時間帯に大きな声で名前を呼ばれた。 視線を向けると、先輩の内藤さんが嬉しそうに私を手招きしていた。 「里見部長、いらしていますよ!」 フロアの出入り口で、笑顔で手を振る夫の姿が見えた。 慌てて立ち上がり、駆け寄ろうとする私を直人さんが手で制する。 「いい、いい、そのままで。差し入れを持ってきただけだ