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いい友達から親友へ(短編小説|こんな学校があったらいいな)

※コンテスト用に書いてたら、文字数制限があったようで、はるかにオーパーしてました。8,000字ほどありますが、どうか読んでやってください。

僕はたかし

「おーい、たかし」

誰かに呼ばれた気がした。あれ、僕何やってたんだっけ。なんだか頭がはっきりしない。

「たかしったら、聞こえてんだろ?もう、返事くらいしろって」

勢いよく背中にバーンを平手打ちが飛んでくる。思わず、2、3歩ふらついてしまうが平手打ちの主はおかまいなしに、ニコニコと弾けんばかりの笑顔で、僕を見つめている。

彼は良太

「良太?」

ようやく状況に頭がついてきたみたいだ。僕は良太に呼ばれたけど、最初はそれに気がつかなかったのか、聞きそびれたのか、何かよそ事を考えていたみたいだ。

「もう、寝ぼけてんのかよ。しっかりしろよ。」

良太は手に持ったサッカーボールをもてあそびながら、軽い調子で話しかけてくる。

たかしと良太は保育園からの友人でもあり、ご近所友達でもあり、小学校でも同じ5年1組だ。サッカー好きで活発な良太と本好きでひとりで過ごすことの多いたかしは、正反対のタイプであまり交流もなさそうに見える。

確かに人懐こい良太には顔見知りも多く、他のクラスにも知人が多くいる。一方ひとりで本を読むことが好きで、そもそも引っ込み思案のたかしには、クラスでも友人といえる存在は良太くらいかもしれない。

たかしの不安

たかしには、いつか良太が話しかけてくれなくときがくるのではないか、という漠然とした不安がある。そもそも、今のように気軽に接してくれるのも奇跡みたいなものだと思っている。

外で活発に遊ぶことが多い良太に対して、たかしはやせっぽちですぐにバテてしまい、とてもついていけない。去年の夏休みだったかな。スケッチの宿題のために、近所の丘に登ったときに、体力の差を痛切に感じた。

自分ははあはあと肩で息をしているのに、良太は弾むような勢いで丘を駆け上がっていく。自分が遅れているのに気づくと、走って戻ってきて背中を押してくれたっけ。

タイプは正反対なのに、なぜかこれまでいい友達でいれた。でも、スポーツの得意なクラスメイトの中にはたかしを嫌ってはいないが、厄介者のように感じているものもいるようだ。チーム分けで一緒になれば、ハンデになることが目に見えているからだ。

たかしは決して運動音痴というわけではない。ただ絶望的に体力不足なだけだ。

バテてしまう前なら、リフティングでもキャッチボールでも、それなりにこなす自信はある。でも、実践ではそううまくはいかない。サッカーでは、ボールを追いかけるだけで疲れてしまう。ヘトヘトになってからボールが飛んできて、凡ミスの挙句、チームメイトに呆れられるのがいつものパターンだった。

たかしの体力不足は、ものごころつく前の病気のせいらしい。少しずつトレーニングすれば、体力もついてくるはずと、お医者様も言ってはいる。でも、学校で一度運動音痴の汚名がついてしまうと、なかなかそれも難しい。

良太にもそんな風に思われたら嫌だな。たかしのかすかな心配事だ。

良太の不安

たかしはとにかく頭がいい。と良太は思っている。事実テストはほとんど満点のようだし(チラリと覗き見た範囲では)、授業中指名されても答えを間違えることはない。

もともとの頭のよさの差もあるのだと思うけど、たかしはとにかく読書好きだ。今も小脇に図書室で借りてきたらしい本を抱えている。

たかしを見習って読書をしてみようと思ったことは、何度もある。でも、何を読めばいいのかわからない。たかしは、宇宙の成り立ちや謎について興味を持っていた。できれば宇宙飛行士、なんて夢も持っていた。しかし、図書室の書棚に何冊も並ぶ本から、自分向きの本がどれだか全く検討がつかない。

ええい、これでいいやと適当に借りるて帰ると難しすぎてちんぷんかんぷんだったり、思っていた内容とずれていてがっかりしたりする。そして、そのうち読書への挑戦心も失われてしまうのだ。

あいつはどうやって本を選んでだろうな。よく読む本がつきないものだ。一人で部屋にいるとき、ぼんやりとそんなことを考えることがある。

たかしに限って大丈夫とは思うが、偉そうなガリベンになって俺を見下すようになったら嫌だな。事実、クラスにはそんなやつも数人いる。俺だってスポーツの方が好きなだけで、そんなに絶望的な成績じゃないのに。誰に責められたわけでもないのに、ふとそんな愚痴がこぼれてしまうこともあった。

暇な二人

「たかしはまた図書室かい?」

たかしは、毎日のように学校の図書室に通っていた。いくらたかしでも、興味のない本もあるだろう。それでも、まだ読む本があるらしい。やはり、本選びは難しいな。

「そういう君はまたサッカーだね?」

ボールをもてあそびながら、質問する良太にたかしは返答した。数人のクラスメイトとボールを蹴っているようすをよく見かける。ひとりということは仲間とはぐれたのか、待ち合わせ場所に行く途中かだろう。

「それが、あいつらいつもの場所ら辺にいなくってさー。」

どうやら前者が正解のようだ。

「昨日の雨の水たまりが残ってたから、場所探しに行ったんだろうけど、どこへ行ったやらさっぱりさ。」

心当たりもないらしい。ちょっと途方にくれた様子の良太を、たかしはめずらしい気分で見つめた。

良太はスポーツ好きというだけでなく、リーダーシップもある。いつもなら良太が率先して、サッカーができる場所を探しに行くだろう。今日ばかりはなぜか逆転してしまったようだ。

「そうだ、今日は本返したら暇だろう?」

勝手な想像で楽しんでいるところに、良太が声をかけてきた。確かに、今日は図書室の蔵書整理日とかで返すことはできても、借りることはできない。図書室の常連でもない良太が、そんなことを知っていることにたかしは少し驚いた。

「う、うん。今日は返すだけで借りられない日なんだ。だから、暇といえば暇かな。」

「それじゃあさ、本返したら、久しぶりにサッカーしようぜ。」

思いもよらぬ良太からの誘いだった。1、2年くらい前までは2人でパスして遊んだこともよくあった。技術と体力の差がはっきりし、たかしが読書にこもるようになる前の話だ。

「確かに、前はよくやったけど今でもできるかな。」

「大丈夫さ。最初はペースもゆっくりめで、簡単なパスから慣らすようにしていけば。少しずつ身体も思い出すよ。」

学校の図書室で本が借りられないなら、市立図書館まで行ってもいいかなと思っていた。だけど、久しぶりの良太からの誘いが、正直たかしにはうれしかった。

「OK。じゃあ、すぐ本を返してくるからそしたら…」

「おーい、良太こんなところにいたのかよ!」

たかしの返事は、ドタドタと駆け寄ってきた良太のいつものサッカー仲間の大騒ぎにすっかりかき消されてしまった。

スペシャルゲスト

良太を見つけたクラスメイトたちは、そこにたかしがいることに全く気がついていないようだった。良太をせかすもの、場所探しが大変だったと苦労話を始めるもの、良太の腕を掴んで強引に引っ張っていこうとするものなど。

さっきまで、2人で話していたなんて嘘のようだ。まあ、これでいつもの良太とたかしの放課後が始まるわけだ。たかしは踵を返し、黙って図書室へ本を返しに向かおうとした。

と、そのときである。

「おい、おまえら慌てるなって。ちょっと待てよ。今日はスペシャルゲストを呼んだんだからさ。ちゃんと紹介させてくれよ。なあ、たかし。」

良太に呼び止められたたかしは、図書室に向かいかけた足を止めて、回れ右をせざるをえなくなった。

クラスメイトたちは、交互に顔を見合わせながら、

「スペシャルゲスト?たかしが?」

クラスメイトたちは交互に顔を見合わせつつ、でいぶかしがっていた。

「おまえら、たかしが意外にうまいことを知らないな。びっくりするなよ。で、どこでやるんだ?ちょっと用事をすませたら、そこに2人で行くからさ。」

その場を完全に自分のペースに巻き込んだ良太は、サッカーの場所を確認し、図書室に寄ったあとたかしと2人で向かう、と宣言した。

良太の勢いに、なぜたかしが一緒にやることになったのか、本当に大丈夫なのかなど、質問をはさむ間もなく物事は進行していく。

どこか腑に落ちない様子のクラスメイトたちと分かれたあと、たかしは良太に小声で不安を訴えた。

「スペシャルゲストなんて言いすぎだよ。良太と2人だからなんとかついていけると思ったけど、みんながいっしょじゃ自信ないよ。」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。俺にまかせとけって。」

たかしの不安を全く意に介さず、2人は良太が先導するかたちで図書室へ向かい、そして、クラスメイトの待つグラウンドへ足を運んだ。

良太の作戦

サッカーをする、といっても本格的なゲームを行うわけではない。2チーム、22人もメンバーを集められない。まして、あちこちで遊ぶ児童たちやクラブ活動も行われているグラウンドで、サッカーコート1面を確保するなんて不可能だ。

なのでサッカーをするといっても、場所や人数によって遊びかたはその時次第だった。ゴールポストかその代わりになりそうなものがあれば、バスケの3on3のような遊びかたもする。たいていは、パスの回し合い、もしくはリフティング回数の競い合いが多かった。

ボールを椅子代りに座り込んでいる子、ひとりでリフティングに励んでいる子など、各々好きなことをしつつ、良太とたかしの登場を待っていた。

良太が姿を現わすと、バラバラだったクラスメイトたちがいっせいに周囲に集まってきた。

「で、今日はどういう感じでやる?」

真っ先に良太に声をかけてきたクラスメイトは、実はたかしの一番苦手なタイプの子だった。運動音痴をあからさまにバカにするタイプ。だから、いっしょにいるたかしには目もくれず良太に話しかけた。良太の顔を潰さない程度に適当にあしらっておけばいいや、とでも思っているのだろう。

「うん、今日は全部で6人だな。じゃあ、5人制のパス回しをやるぞ。」

「5人制?じゃあ、ひとりはどうするんだい?」

「うん、ひとりはペナルティだ。」

良太は答えた。

「だらだらとボールを回してもつまんないだろう?だから今日は、ペナルティありルールだ。キープできそうなボールをミスったり、どうみても無理なミスキックをしたらペナルティ。そいつは輪から外れて、休憩。次のペナルティがでるまでお休みってこと。」

「なるほど。面白そうだな。」

クラスメイトたちは口を揃えて答えた。

「そうだろう。ダラけたプレイしてるやつには俺がカツをいれてやるからな。みんな真剣にやろうぜ!」

良太がさらにあおるように勢いをつける。

「よーし、最後までノーペナルティで通してやる。」

「さすがにそれは甘いんじゃないの。逆にペナルティ王にならないようにせいぜい慎重にな。」

「なにをぉ!お前こそワースト1だ。」

それぞれがやる気を口に出しながら、適当に散っていく。良太はそれを見ながら、

「じゃあ、言い出しっぺだから俺が最初に外れるからな。まあ、すぐ入れると思うけど。」

良太も挑発するように、声をかける。

輪の一部に加わりつつ、たかしの胸は不安でいっぱいだった。きっと真っ先に狙われるはずだ。

でも、逆にボールがくるとわかっていれば、かえって対応しやすいともいえる。よほど強いキックや難しいコースでなければ、対応できるだろう。無茶なコース狙いは、蹴る方にもペナルティのリスクがある。そう考えれば、正面付近に強いボールがくる可能性が高い。

また、いくらたかしが狙いめといえ、何人もが露骨に狙い続けるわけにもいかない。体力に不安にあるたかしにとって、このルールは有利に考えられているような気がしてきた。本当に疲れてくれば、ペナルティで休憩することもできる。

良太はこんなことまで計算して、一瞬でこのルールを考案をしたのだろうか。いや、そこまでは考えすぎだろう。でも、たかしがやりやすいように気を使ってくれたことはじゅうぶん伝わってきた。

ゲームスタート

じゃんけんで最初のキッカーを決める。たかしの隣に位置取った子だ。隣にパスしてはいけない、というルールはない。だけど、ゲーム1球目からそれはないような気がした。

ボールは斜め正面に向かって蹴り出された。地をはうような速いゴロだ。しかし相手は、なんなく足の裏と地面で挟み込み、ボールの勢いを殺してしまった。

「へへん、こんなんじゃ俺はぬけないぜ。」

自信たっぷりに言い捨て、ボールを蹴りやすい場所に微調整する。今度蹴ってくるのは、たかしの苦手なクラスメイトだ。しかも、位置関係はたかしのほぼ正面。狙ってくるのは明らかだ。

絶対にミスしてやるものか。

気合をいれて構え直す。

視線や彼の動作から、たかし狙いは明らかだ。ボールをグラウンドに安定する様にしっかりセットし、少しバックする。助走をつけて、思い切り蹴ってくるようだ。
数歩勢いをつけ、思い切り右足を振り切った。高めの強いボールだ。しかし、どうやら力み過ぎたようだ。

ボールは力強いライナーでなく、ふらふらと高々と舞い上がった。
たかしの頭上を遥かに越えていく、どう見ても明らかなミスキックだった。

「ちきしょう!!」

ボールを蹴ったクラスメイトは、悔しそうに頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
あとは、放っておけばミスキックで良太と交代になる、はずだった。

が、たかしは振り返って、ボールが飛んていく方向に一目散に走り出した。高く上がりすぎた分、うまくすれば追いつけるかもしれない。問題は距離感を間違えないことだけど…

「いいぞ、たかし。そのまま走れ!」

良太が声をかけてくれた。こうなれば、あとは良太を信じるだけだ。クラスメイトたちもボールの行く末と懸命に走るたかしを交互に見つめている。とくにミスキックしたクラスメイトは祈るような面持ちでたかしを見つめていた。

「よーし、そこで振り向け。うまく胸で勢いを殺せよ!」

たかしの声とともに振り向くと、もうボールは間近に迫っていた。軽く胸をそらしてボールを受けると、勢いを失ったボールはたかしの足元に転がる。右足で抑えてキープ完了だ。

「すっげー、たかし、ナイスキープ!」

クラスメイトが口々にたかしを褒め称えながら駆け寄ってくる。とりわけ、ミスキックの主はさっきまでの態度とは180度変わり、たかしを賞賛した。

手荒い歓迎の中、

「いや、良太のアドバイスがよかったから。」

何度も謙遜してみせても、誰も聞いてはいない。たかしのスーパーセーブに、大声をかけたり、軽く頭をこづいたり、はたまた倒れんばかりの勢いで抱きついてきたりで褒め称えた。

たかしは良太?

「良太、いいかげんに起きなさい。もう遅刻ギリギリよ。」

大声で布団に潜り込む良太を、遠慮なく良太の母がひっぱたく。

もそもそとようやく布団からかおを出した良太を見て、

「早く着替えて顔を洗ってきなさい。本当に遅刻するわよ。」

バタバタと母親は階段を降りていった。今のは夢だったのか?さっきまで俺はたかしで、不安いっぱいのなか良太(じゃあ、この良太は誰だ?)にはげまされて、スーパーセーブを決めて。あれは全部夢?それにしてはリアリティあったよな。

グラウンドの埃っぽさ、叩かれたときの痛み、しがみつかれた友人の汗臭い匂いを現実のように思い出すことができる。でも、鏡に写る顔はどうみても良太の顔だし、ここは良太の部屋で、さっきのは良太の母だ。

不思議な夢もあるもんだな、それより急がなくちゃ。

頭を切り替えて急いで登校の準備をする。朝食もそこそこに、良太は家を飛び出した。

しばらく小走りで急いでいるうちに、登校する児童の最後尾と思われる一群に追いついた。登校する児童たちに混じりながら、やれやれどうやら間に合いそうだ、と一息つく。そうすると、思い出すのは昨夜の夢のことだ。

たかしかぁ。

確かに以前はよくいっしょに遊んだ。互いの家も行き来したものだ。今でも別に仲が悪いわけではない。登下校でいっしょになることがあればよく話すし、クラス内でいくつかのグループ分けをするときなどは、たいてい一緒にいる。ただ、休み時間や放課後の遊びに関しては、スポーツタイプの良太と読書タイプのたかしの接点はなくなっていた。

夢のように俺がたかしをサポートしてやれれば、またいっしょに遊べるかな。ふと、そんなことを考えてしまう。そしたら、あいつからいろんな本を教えてもらえるかなぁ。

良太からの頼みごと

あれ。

目の前をひょろひょろとだるそうに歩いているのは、たかしじゃないか。

「おはよう、たかし」

駆け寄って軽くランドセルをこづく。あくまで軽く、のつもりだったのだが意表を突かれたたかしにはそれなりの衝撃だったようだ。ちょっと前のめりによろけながら、ずれたメガネをなおしつつ、

「なんだ、びっくりしたよ。おはよう、良太。」

軽く不平を述べつつも、すぐ機嫌をなおして挨拶を返してくれた。こういう根に持たないのもいいとこだよな。たかしの長所を再認識する。

「なあ、たかし。今日って確か図書室休みだよな。」

確かに今日は蔵書整理日で返却はできても、借りることはできない。でも、図書室の常連でもない良太がそんなことを知っていることに、たかしは少しばかり驚いた。

「へー、確かに今日は返却だけで借りることはできないんだ。でも、よく知ってたね。」

「へへっ、まあな。」

実は、良太の頭の中ではまだ夢と現実が混同していた。平然と知っていて当然と装いながらも、まぐれあたりに内心ホッとしていた。しかし、それなら夢で見たプランを実行しやすい。

「じゃあさ、放課後久しぶりにサッカーしようぜ。」

良太の誘いに一瞬嬉しそうな表情を浮かべたものの、たかしの返答は不安にあふれたものだった。

「だって、他のクラスメイトも一緒だろ?なんだか足をひっぱりそうで悪いよ。」

「大丈夫、大丈夫。そこのところは俺がしっかりフォローするからさ。大船に乗ったつもりで任せてくれよ。」

「本当に大船かい?泥舟じゃないだろうね?」

「なにを、こいつ!」

こんな軽口をたたき合うのも久しぶりだ。

「でさ、その代わりたかしにお願いがあるんだ。」

「ほらきた。宿題は写させないよ。自分でやりなよ。」

「そんなこと頼むかよ。実は、本の選び方を教えて欲しいんだ。たかし、図書室の本かなり読んでるだろ。他にも市立図書館の本とかもさ。」

たしかに、小学校の図書室では蔵書数にも難易度にも限界がある。そんなときは市立図書館へ足を運ぶのが、たかしの常だった。

「それは、もちろんいいけど急にどうしたのさ。サッカー一直線だと思ってたのに。」

「そりゃ、サッカーももうちょっと頑張るつもりだよ。」

「だけど、実は俺、宇宙のことをいろいろ知りたくてさ。いろんな探査機の成果とか太陽が燃え尽きない理由とか、地球以外に人間が住める星があるのかとか、ブラックホールの写真くらいでなんで大騒ぎなったのかとかさ。とにかく、いろんなことを知りたいんだ。でも、図書室に行ってもどの本から手をつけたらいいのかわかんなくてさ。だから、たかしに本選びを手伝って欲しいんだ。」

良太は、これまで漠然と考えていたことを一気に言葉にしてみせた。それは、たかしを驚かすと同時に、自分がここまで考えていたことを改めて認識することにもなった。

真剣な目で見つめてくる良太に対して、たかしがNoという理由はない。

「じゃあ、交換条件だ。これからもサッカーやキャッチボールにつきあって、僕の体力づくりを手伝ってくれること。その代わり、僕は良太の本選びを手伝う。」

「もちろんさ。そんな交換条件とか持ち出さなくても、いくらでもたかしの役に立つことなら手伝ってやるさ。だって、俺たち親友だろ?」

「親友…そうだね。親友だもんね。」

たかしも明るい顔で返した。

なんとなく漂い始めたまじめな雰囲気に耐えきれなくなり、2人はその場で笑いあった。登校を急ぐ児童たちが、遠巻きにいぶかしげに2人を見て通り過ぎていく。

2人はお互いの肩を叩きあったり、こずきあったりしていつまでも笑いあっていた。

親友としての最初の試練は、どうやらいっしょに遅刻したお説教を受けることになりそうだ。

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