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犯したいほど憎い 1.5
自分が小説を書かなくても生きていける人間なのだと周野才斗が受け入れるまで、そう長い時間は要らなかった。
表現をしないことに我慢ならない人種が世の中にはいるという物語に憧れていた。戦火の中、数秒後にその原稿が焼かれる運命だとしても文を綴る。読んでくれる人はいなくても、部屋に原稿を積み上げる。作家はそういう生き物なのだとまだ心の何処かで信じてはいて、それ故に才斗は自身は作家ではなかったのだと認めて
お題小説「ぼくだけが知っている」
総合体育館は、駐輪場の時点でなんだか喧しく感じられた。ただでさえキャパシティを超えている中、好き勝手にとめられているものだから誰もいないっていうのに既に肩身が狭い。見つけた隙間にどうにかママチャリの鼻先を突っ込みいれたが、ぼく自身までくだらない雑踏の一員になったみたいで嫌だった。
館内に入るといよいよで、メインアリーナに近づくごとに足取りが重くなる。それでも進んで、分厚い防音扉を開けた。途端、
愛でぬりつぶしていきたい
市川沙央の『ハンチバック』の話から始めたいのです。
第169回芥川賞受賞作。恐らくはこの記事を読む大体の人が知っていて、大体の人が読んでいない作品だと思います。まあ、芥川賞作品なんて大抵はそんなものといえばそんなものでしょう。
介護付きグループホームで暮らす、難病の中年女性を主人公にした小説です。人工呼吸器を手放せない。歩くことすらままならない。寝たきりでいることすら辛い。
そうした女性
お題小説「バームクーヘンエンド」
拍手の音を背に受けながらザ・サンシャインラブのメンバーがステージから控室へ戻ってきた。
ライヴの手応えは誰よりもバンド自身が把握しているものだ。自分たちの力を思う存分発揮できたのなら、たとえ客が誰一人いなくても良いライヴだったと感じる。ザ・サンシャインラブは良い演奏ができたらしい。メンバーのいずれも、達成感に満ちた笑顔を浮かべていた。
俺が労いの言葉をかけると、ボーカルが「凄かったよ」と汗を
お題小説「帰り路に寄った飯屋で女子高生と相席する事になってしまったサラリーマン」
街灯に吸い寄せられる羽虫のように入ったマクドナルドだった。
いつになく遅い退勤になってしまい疲弊していたのだろう。夕食をどこで済まそうかと思いながら歩いている間に会社の最寄り駅まで着いてしまい、途中で降りてあの店へ行こうかと思いを巡らせている内に次の停車駅は自宅の最寄り駅だとアナウンスを聞いた。
大人しく家に帰って買い置きのカップヌードルでも食べようかと考えながら俺は地下鉄を降りて、エスカレ