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人物造形のヒント① 個性は「個」性


しっかり書き込んでいるはずなのに!なんか、ありがちで浮薄…!

皆さんはこういう悩みありませんか? 私はほとんど毎回、頭を抱えてます。プロットから起こした瞬間の彼らの、なんとまあ弱々しいこと…。抱えて、丸まって、身悶えてからの起死回生、うちの人たちがみんな、単に個性豊かなだけでなく、読者の目に「他の誰でもなくその人に違いない」ように映ることを、私は祈っています…。

もちろん、ぶっ飛んだキャラにせよごく普通のキャラにせよ、キャラ立ちというのは大事だと思うんです。

描き分けできてなくて誰なんだか見分けのつかない漫画とか…ぱっと見、誰の描写部分なのかわかんない小説とか…書いてる人にはわかってんだ、この人は少なくとも頑張って生み出してる人なんだから、私みたいな一介の読者が責めちゃダメ…! って、こういう、キャラの曖昧さはやっぱりちょっと、切ない気持ちになりますよね。だからそこは解決しておいて欲しい。今のところ、ここで問題にするのはその次のフェーズとさせてください。(※書き分けの話は、のちほど…)

で、戻ります。「なにこのふわふわ感。いまいち刺さんないんですけど?」。

ね。深刻なんですよ、というのも、ほらここにいまーす、となってからなのですね、何かが足りないとはっきりと分かるのは。もう大体決まってからなんですよ。それがまたツラい。

うんうん、そいつは主人公を危機に陥れる悪役で、めっちゃいかつくてワルい。天下無双…? あるいは、その人は主人公の恋人で、ぞっとさせるほど美しい。こんな人は世界中どこを探したっているわけない…? もしくはこの彼、相当、味のある友人。人間としてはかなり珍しい部類に入る…? いや、よくいるタイプのつまんない人で、だからこそ身近ではっとさせられるはず…?

ですよねー…。しかしなぜ。なぜかふわふわしている。

なぜでしょう? 

なぜでしょう…私の結論としてはなぜかというとそれは、まだ物語がコンセプトの段階を抜けていないからですね。つまり、出来上がったと思って読み手の目線から推敲していても、この問題、解決できないんです。実は、この時点ではまだ、作品自体が書きあがっていない。作者にはまだ書き手としてすべきことが残されているのですね。すなわち:

設定と描出だけでは、その人は物語へ参入できません。

意外かもしれませんが、物語上の役割の特殊性や、人間的希少性が個性を担保するわけではないんです。大切なのは、個性的であることにも増して、存在感。そして、その人に個性ある「登場」人物としての存在感を与えるには、設定後、作者が手ずから恣意的な書き込みを行なっていく必要があるのですね。

でも、ちゃんと書いてるよ…? まざまざと想像できるような具体的な描写もあるし、プロフィールもつけたし、決め台詞も、主人公と対峙する、決めのシーンもある。

でしょうね。ええ、もちろんですとも。けども、ちょっと落ち着いてみましょう。それ、漫画やゲームの「キャラクター名鑑」になってませんか。主人公や語り手は、対峙しているようでいて、その名鑑の、単なる観察者になってません…?

や、設定は大事ですし、そこを仔細に力強く表現する筆力も物語の厚みには欠かせない。しかし、たぶんですが、おそらくなんですが、この記事をですね、敢えてここまでお読みくださってるならですよ、作り出したいのはゲームのキャラクターカードではなく、小説なはず。ですね…?

「個」性…?

ええ。個性とはすなわち「個」性。

これは必ず意識していただきたいことなのですが、物語の世界では、現実とは違う力学が働いています。今回のテーマである個性も、それを逃れられない。現実で個性として扱われるような個性は、必ずしも物語のなかの個性では、ないんです。

このことは強く意識してみてください。物語世界ではどんなに仔細に描いても、どんなに詳かに描いても、現実とは違い、ただ個性「的」なだけでは、人物として独り立ちができません。彼、または彼女は、作者が物語上でその資格を与えてあげないかぎり、存在ではなく現象、人物ではなく風景になってしまう。

ひとまず書けた? 初読の喜びを味わったら、読者の立場からもう一度こちら側に戻って、筆を持ち直しましょう。

登場人物たちに、彼らが「個」人であり一級の「個」性の持ち主である証を与えうるとすればそれは、他でもない、というのは読者の想像力でもなく添削者の華麗な修正でもない、ただ作者自身による筆の運びだけです。だって、彼らの「個」性とはまさに、作者しか知らない、作者にしか決められない、つまり創作の領野の深くに隠された、物語の秘密なのですから。


前振りは終わりました。

書き手の皆さまにはここまでで、かなり考える部分がおありのはず。考えを深める部分を丸投げして… (←! いえ、ほらあんまりくだくだしいのもなんですし…「楽しみの提供、のつもり」…苦)

本題に入りましょう。個性を描く上での、技術面でのポイントは…

「影響力の提示」(存在の証明)
と、
「根源的な不可知性」(孤立の証明)。

…。

もちろんです。これは哲学のエッセイではないんで、もちろんもちろん、平易にいきましょう。ね。

「影響力の提示」のヒント:
「その人がいると…」または「その人がいないと…」という文章を埋めてみてください。

例:「その人が会う人はみな人生が好転する」「その人がいないとなんだか自分がつまらない人間みたいに思える」等。(鈴香は「一緒にいると《お返し》したくなる」ですね。)

いま、その場面にその人がいますか? では、「その人がいると…」の後ろに書いた出来事が、起こるようにしてみてください。だってその人がそこにいるんだから。もし「それ」が起こらないなら、その人はまだ透明か、役割を果たしていません。ね。いてもいなくても同じなら、ちょっとゴーサインは考えたほうがいい。残念ながら小説には、「いてもいなくてもいい人」に割く紙幅の余裕はありません…言語化しなくてももちろんいいんです、でも、とにかくその人がいたり、いなかったりするせいで、たとえ描写としては部屋の二酸化炭素がちょっと濃くなるだけでもいい、とにかく、物語世界の現実が動かないといけません。

どうでしょう…?

そんな出来事を考えてみました?

あるのとないのとではどう違いますか?

そうですね。特定の誰かに対しての影響ではなく、その人がいることで総じて、普遍的に起きることのほうが、説得力が増すでしょうね。


「根源的な不可知性」のヒント
《その人だけが知っている時間》を作りましょう。

ミステリアスな人物を設定するときに陥りがちな罠ですが、「なにを考えているかわからない」というのは案外、キャラクターをぼやけさせます。書きかたも、もやっとして、くちはばったくなっちゃう。実はこれね、わからないのが面白いんじゃないんですね、わかりそうなのが面白いんです。で、わかりそうでわからない、ここに落とさないと、なんか面倒だからもういいや、とか、単純な癖に思わせぶりだなぁ他の面白そうなの読もう、とかになっちゃう。

せ、殺生な…!

いえいえ、読者に対して同情票を求めてはいけません、切磋琢磨です…(涙)。

で、比較的現実的な代案として、「なにをしているかわからない」「他ではどんな人かわかったもんじゃない」というミステリーをこっそり入れ込んでみるのですね。これなら物理的だからやりやすい。その人について知ってることを全力で描いても、必ず空白ができる。便利!

主人公の知らない時間をその人が過ごしている、ということを示すと、ぐっと個別感が出ます。

ちょっとしたことでいいです。「朝起きたらいない」は典型例ですね。ちょっと典型すぎるかな? 他にも、電話をかけてみたら出なくて、かけ直してきたけど出れなかった理由がどうも怪しいとか、本当は狐で化けるのに時間がかかってたんだけど家の鍵をなくしたと嘘をついてる…とか…? とにかく、主人公が知っててもいいんですがよくは知らない、その人だけの行動時間があると、ちょっと寂しいけど、ほんのりミステリアスになる。

どうでしょう? べったり張りつきで一緒にいるわけじゃないですし…その人が物語世界の現実に、登場人物として存在しうる場合はですね、その人にはその人の世界が、あるんです。


(あんまり長くなってもなので、以上です!)←え でもこのくらいがちょうどいいとおもう…。


余談、この記事を書き始めるときに私が書いたメモ。

量産型ザクにシャアが乗っている…
つまり:「この動き…お前、シャアか…!」

…。

このメモからこの記事が書ける自分を、私はちょっと誇らしく思います。ええ、私はしょーもない人間という一面も、多分に持ち合わせています、人間、嗚呼、この歪な多面体…。

簡潔すぎる今日のまとめ:
存在感、大事です。


次回までの宿題:
登場人物はどうすれば類型を超えて、あるいは類型を踏まえたうえで、固有の性格、独特な風格を持つことができるでしょうか? 彼、あるいは彼女はどうすれば、現実で指紋を、声紋を、顔を、虹彩を、筆跡を持つように、物語の世界で性格を持つことができるでしょうか。
→答えがある宿題ではありません。これは「きっかけ」という、私なりの感謝の表現形(のつもり)です。ひらめきがあったらぜひ、教えてください!

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。