見出し画像

ショートショート ただいま

 部屋中にコーヒーの香りがする。
 フローリングの部屋は狭いキッチンに扉もなしにつながっていて、キッチン台の上にはいれたてだったコーヒーがサーバーの中で冷えている。
 ドリッパーはシンクに置きっぱなし。濃い茶色の小さな川ができている。

 部屋の隅にアイロン台がある。上にアイロンとハンガーとアイロンをかける予定の衣服がつくねてある。山が少し崩れて、シャツが何枚か床に落ちている。

 壁掛け時計が5分だけ進んでいる。すぐ隣にある電気をつけっぱなしのパソコンが正しい時刻を教えてくれるからすぐにわかる。窓から西日がさしている。カーテンが開きっぱなし。

 玄関が開いて、住人が帰ってくる。部屋の惨状を見てため息をつく。冷たいコーヒーを乱暴に飲み干してパソコンの前へ。

 キーボードの横に転がった小さな招き猫を元に戻す。立ち上げていたウェブページはとっくにフリーズしている。再読み込みボタンを押して、呟く。

「さあ、今日はどんなお話にしよう」


ショートショート No.493

課題「文体の舵をとれ」第9章⑨三

 アーシュラ・K・ル=グウィンの「文体の舵をとれ」をもとに、ショートショートの文体練習をしています。

 今日の課題を自分風に言うなら「本人不在」。最後に出てきちゃっているので、ちょっとずるいですね。
 個人的に描写が苦手である、という自覚があり、最初から課題として念頭にあることで積極的に書くことができました。苦手、というより、お話を作るときに台詞のことばっかり考えて、背景を後回しにしているせいなのだと思う。気持ちがはやるとセリフばっかり書きがちです。あらかじめ予定しておくと、(私は)ゆっくりかけますね。新しい発見です。

 題材にした本にはもう少し課題があるのですが、自分の書いた話をもう一度書き直す、などSNSに載せると流石に読んでくださる方に申し訳がないな、というものは割愛しています。

 と、いうわけで、これで(お見せできる)全課題が終了です。

 ああ。ほんとうに最後までできた。

 こういうの、ひとりでやっていると、ちょっと恥ずかしくなっちゃって、途中でやめてしまうんです。でも、全部できた。

 わかったことのいくつかを改善できるといいし、わからなかったことのいくつかをいつかわかるといいなと思っています。

 2ヶ月間おつきあいいただきありがとうございました。

 少しは波乗り上手になった、かな。

「恐れを知らぬ波乗りねこ」
for Steering the Craft

introduction
エッセイ ガラスの浮き球

1−①ー1 名古屋の化け猫
1−①ー2 この場所
2−② 18時
3ー③−1壁の向こう
3−③ー2 時間切れ
3−③ー追加1 大須の化け猫(名古屋の化け猫、方言抜き
4ー④−1 走って走って
4ー④ー2 蟻の母
5ー⑤ 深夜のキャンプ
8ー⑧盗人たち
9−⑨忘れても
9ー⑨ー3 ただいま