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エッセイ ガラスの浮き球(ねこの悪だくみ・9月)

 いろいろと成長の遅い方の人間で、小学校の中学年あたりになってもまだ自転車に乗れなかった私に、友人が妙案を思いついた。

「これは魔法の球だよ。これでもう自転車にのれる」

 そういって、小さなガラス製の球を私の自転車のカゴの中にいれたのである。魔法の球がカゴの中に。ならば仕方ない。えいやっとばかり私は自転車を漕ぎ出し、見事に転んだ。

 今では(というか当時も)知っているが、友人がカゴに突っ込んだのはガラスの浮き球である。漁で使うブイのガラス版だ。分厚い吹きガラスでできた中が空洞の球体。ラムネの瓶に色が似ている。実家の方はタコをとったりしている家が多かったので、どこかの家の倉庫に行けば、たいていひとつやふたつ転がっていた。

 写真にあるように、今でもひとつ持っている。大学受験のときにお守りにしたものだ。落ちても落ちても浮き球はしつこく浮いてくるから。大量に落ちる前提でお守りを持っている自分もどうなんだ。

 だが、実際、いつも浮き球があったらなと思う。魔法なんてなくてもかまわないから。落ちても落ちてもぷかぷか浮かんで、潜っているのやら、浮き上がっているのやらわからなくなった自分を導いてくれるといい。

 いきなり思い出話をはじめてしまいましたが、ひと月ごとにテーマを決めてお話を書いていこうかな、と思っています。その方が自分の中の課題をクリアしやすいかな、と思う。

 9ー10月は以前、本の感想なんかで紹介している「文体の舵をとれ」の演習をnoteで実際にやっていくつもりです。

「これが何の練習なのか」は書きません。本を読んでくださいね。

 私はこの本の、文章はあくまで技術、道具である(だから演習によって上達する)という考え方がとても好きなんです。

 もしも、本を持っていて、誰かの作例が見たかったんだよな、という方がいらっしゃいましたら、問題文の番号だけ末尾につけていこうと思いますので、使ってやってください。「ああ、こうしたらあれダメになっちゃうんだよなあ!」の例にでも、参考にしてくださったら嬉しいです。自分で一回試すエネルギーが節約できます。他のが書けますよ。

 私は文章がけして上手な方ではないと思います。煌めく装飾もなければ、うなるほどの比喩も、はっとする単語もなし。
 でも、書いて書いて書いて書けば、見えてくるものもあるでしょう。
 今月は、ル=グヴィン姐さんが、私の浮き球です。

 ……なれなれしいね。(すいません)

エッセイ No.013

「恐れを知らぬ波乗りねこ」
for Steering the Craft

introduction
エッセイ ガラスの浮き球