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NPO・企業が少年院の中で活動するために抑えるべきポイント

この記事は、R4.2.25にTwitter上で行った対談をもとに書き起こしたものです。一部対談内容とは異なる部分もありますが、こうした情報を求めている方々に向けて。あくまでも個人的な見解・意見としてお読みください。(約1万字あります)

1)結論〜実現しやすい提案

これから少年院の中で活動を行いたいと考えているNPO・企業に向けて。少年院側が受け入れやすい提案はこんな感じ。

・単発(1回完結)
・講演形式
・平日実施
・低予算(ほぼタダ)
・講師は少年と同性

ほんとふざけんなって話だと思います。でも、まずはここからです、きっと。その理由はここから先を読めばなんとなくご理解いただけるだろうと思います。

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2)そもそも少年院ってこんなとこ

少年院は保護処分として矯正教育を行う施設。子どもたちは罰ではなく教育を受けるために収容される。

この国には「少年刑務所」も存在していて、罰としてのタダ働き(懲役刑)はそっちで行われている。(それはそれで大事なこと。少年刑務所でも更生のための教育活動は行われている。)

少年院では

生活指導
職業指導
教科指導
体育指導
特別活動

の5つの領域で教育活動が行われている。

特別活動とは行事などのこと。施設ごとに内容は異なるがスポーツ大会や合唱祭などもある。イメージ的には工業高校などに近いのかもしれない。

再犯防止のための生活指導プログラムや資格取得なども行っている全寮制の学校という感じ。

ちなみに法務教官はそんな全寮制の学校の

寮父(母)×教員×警備員

みたいな仕事だ。

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3)一般の学校との違い

とはいえ、学校とは異なる部分も多い。
既知の方も多いとは思いますがおさらいです。

【五月雨に入っては出ていく】
少年院は4月入学3月卒業ではない。逮捕され、審判で少年院送致が決定した子が随時送られてくる。それぞれのタイミングで入ってきて、教育期間を終えると出ていく。

長期の少年院でも基本は約1年だから、半年で生徒の半分は入れ替わる。

【単独行動はできない】
逃走などのリスクは常に想定されている。授業中に「すみませんトイレ行きたいです」となったら、学校のように「行ってらっしゃい」とは言えない。

事務所に連絡して手すきの職員に来てもらい、トイレまで連れて行く。

【入浴も日課のひとつ】
具体的な曜日や時間は施設によって異なるが、少年院では週3回程度入浴が行われている。大抵の場合は小さな銭湯のような感じで、浴室には大きな浴槽とたくさんのシャワーがあり、集団で入浴する。

職業指導や体育などの教育活動の合間に行われることがほとんど。

【会話の制限】
少年院では生徒(非行少年)同士、お互いの地元や非行歴などは明かさないことになっている。そうした都合上、会話には制限がある。

施設によってかなり差があるが、世間の人が「会話の制限」や「私語禁止」という言葉から連想しているものとはおそらく違う。

コンビニやファーストフードの店員が、店員同士で仕事に関することを話すのは「私語」ではない。連携を取るために会話をすることはむしろ大切だが、私語はほとんどしていないはずだ。

それと似たようなもの。
もちろん少年院はもう少し厳しいが。

僕の勤めていたところでは、誰とどんな会話をするのかを事前に報告した上で、職員から見えるところで会話することとしていた。個人情報などには触れず、少年院内の集団生活に関する相談・助言等を話す。

結構、少年同士の会話の活発な施設だったと思う。このへんの雰囲気は施設ごとに大きく異なる。

(ほかにも少年院ならではの独特な仕組みなどはあるが、詳しいことはこちら↓の書籍をご参照ください)

https://note.com/heino_naka/m/mb031534cfdc7

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4)少年院の中で外部の人と接することはあるの?

あります。

ただし限定的で、極端な話、外部の人の協力がなくても教育活動を完結させることは可能です。(法務教官は教科教育も体育指導も行事の指導も行います。)

「地域に開かれた施設運営」は様々な面で求められていて、地域や民間との連携・協働は拡大していきたいというのが法務省の方針です。(本稿では基本的にコロナの影響については割愛します)

現状、レギュラーで行われている外部との協働はこちら。

【篤志面接】
篤志面接委員として任命を受けた地域の有志(大抵は宗教家や元学校の先生など)が月に1回程度少年院を訪問し、非行少年と面接する。

【保護司による面会】
保護司とは保護観察を行う人。非常勤の国家公務員という扱いだが実質ボランティア。少年院を出院すると大抵の場合保護観察がつく。担当する保護司が決まると少年の方から手紙を出し、場合によっては保護司さんが面会に来てくれる。

【教誨師】
いわゆる宗教家。盆法要やクリスマス会など宗教的な行事のお手伝いをしてくださったり、被害者が死亡した事件の加害者に対して個人教誨として法要などを行っていただく。

【更生保護女性会】
地域の少年院や刑務所の出身者などを見守るボランティア団体。(民生委員と似てる)少年院との協働の具体的な内容は施設によって異なるが、行事の際に運営にご協力いただくケースもあれば、寄付・寄贈をいただくこともある。

【クラブ活動の外部講師】
多くの少年院では週1回程度、クラブ活動が行われている。余暇の過ごし方の提示として文化的な活動を行う時間。僕が勤めていたところでは美術クラブ・書道クラブ・音楽クラブがあった。指導は外部に委託。講師はいずれも地域の学校等でも講師を勤めている方。

ほかにもあるが大体こんな感じ。

これ以外に非日常的な外部との協働としてこんなものがある。

【講演】
ゲストを招いて講演をしていただく。少年院では「講話」と呼ぶことが多い。多くは職業指導の「キャリアカウンセリング講座」と位置づけて実施している。

有名なゴルゴ松本さんの命の授業などもこれ。

【演奏等】
特別活動として演奏会などを行うこともある。僕の勤めていたところではハープや太鼓の演奏会を行っていた。結構好評。

ついでに余談だが、クリスマス会などの行事の際、非行少年たちが合唱を行うことがある。僕の勤めていたところでは少年たちだけでなく職員も有志でバンド演奏やダンスなどを披露していた。(僕はダンス担当)

【学習支援】
育て上げネットやキズキ、LITALICO等、すでにいくつかのNPO・企業・団体が行ってくださっているが、学習支援に外部の支援を入れているケースはいくつかある。

実施形態は様々だが、基本的には個別指導塾のような形で少年自身の学びをサポートしていただいている。

なお

詳しい解説は省略するがおそらく集団指導は難しい。

【その他】
体験教室的なものを大抵どこの少年院でも行っている。その内容は様々で、地域とのつながりの中から実施可能なものを行っている。

僕の勤めていたところでは、絵手紙講座やマナー講座、ラグビーフットボール協会とのタグラグビーの交流マッチやライフセーバーを招いてのライフセービング講座などがあった。

ほかの施設ではプログラミング体験やお金の授業、法教育などもあったように思う。

どこの少年院もすでにそれらのリソースはある程度揃っており、「もっとよいものを提供したい」というニーズはあるが「不足している」という感じではないと思う。

それは「十分な活動が行われている」という意味ではなく、そうした外部講師を招いての活動が必ずしも少年院の教育活動の主軸ではないからだ。

これから企業やNPOが参入していくには、こうした状況の中で新規に関係を作り、内容を定めて形にしていくしかない。

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5)外部講師招聘の3パターン

前述の様々な外部連携。レギュラーで行っているものは保護司や教誨師など、特に任命を受けた方々が行っているもので、基本的に企業やNPOが参入できるところではない。

やはり講演や演奏会などの非日常的なものを行う形になるだろうと思う。

現状、そうした単発の外部講師の招聘についてはこんなパターンがある。

①職員の個人的コネクション
②上層部や他の施設からの紹介
③古くからの付き合い

一番多いのは①で、③も元を辿れば①であることがほとんどだろうと思う。法務教官は転勤があるため、最初に繋いだ者がいなくなっているケースは少なくない。

ゴルゴ松本さんは②。特別矯正官として法務省から正式に委託を受けている。

要するに、これからNPOや企業が参入しようと思ったら、法務教官とのコネクションを作ることが一番の近道だ。(もちろん国家公務員倫理法に抵触するようなことではなく単に「顔の見える関係」ということだが)

実際僕は、ハッシャダイ等、個人的なつながりから沢山のゲストを招いて講演などを行ってもらった。行事にパフォーマーを呼んでジャグリングなどのショーを披露してもらったこともある。

職員との個人的なつながりが既にある状態で企画を進めていく方が、いきなり企画書を提出するより遥かに実現へのハードルは下がるだろう。

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6)とはいえ法務教官なんて出会えないよ…

僕が発信を始めるまで、少年院のことを真正面から発信している人間はいなかった。それは公安職・機密情報保護・少年の個人情報保護の観点からリスクを最大限に避ける法務省の考え方にも原因がある。

法務教官などの矯正職員は「私的なSNSの利用」についても控えるようにと年中言われる。(僕はもちろん法令に反することは発信していない。)

何にせよ、ネット上で法務教官とつながることは難しい。そしてオフラインで偶然出会うことも確率的には極めて低い。(法務教官はたしか全国に約3,500人しかいない。)

ということで少年院とのつながりを作るにはおそらくこんな方法が適当だろうと思う。

【直接訪問・見学に行く】
「地域に開かれた施設運営」の一貫として、団体からの見学の申出は可能な限り受け入れている。個人では基本的に対応してもらえないが、大学のゼミ程度の単位でも見学に来ていることがあった。直接電話で相談し、日程を調整すれば見学ができる。(現在はコロナ対策で不可)

【募集参観に行く】
どこの施設でも年に1回以上、施設を公開する募集参観を行っている。まだまだ歴史が浅く、日程の公表や実施の告知なども未熟だが、募集参観の日は個人でも施設内を見学することができる。(事前に予約し、当日施設に集まってもらい、見学ツアーや法務教官等による説明を行っている)(同じくコロナによって今は行っていない)

【少年鑑別所の地域援助業務を依頼する】
こちらは少し変化球。少年鑑別所というのはとってもざっくり言うと逮捕された非行少年が収容されている場所。全国各都道府県にある。

平成27年に施行された少年鑑別所法によって「地域援助業務」というのが正式に行われることになった。

まだまだ事例は少ないが、地域の学校に法務教官や法務技官を派遣したり、また地域の子育て相談・心理検査などを行っている例がある。

法務教官は少年院と少年鑑別所の間で転勤することも多く、職員同士が元同僚などの形で密接につながっている。また、少年鑑別所でも収容している少年たちに対して講話を行うことがある。少年鑑別所でゲストスピーカーとして講演できれば、少年院での活動のきっかけにもなりうる。

育て上げネットも最初は少年鑑別所での講座だったとのと。

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7)少年院内で企画が起ち上がる流れ

ざっくりいうと2パターン

①日程が先
年間行事予定などによって「ここはゲストを呼んで講話がでそうだ」というのが決まる。日程が決まってからそこで呼べるゲストを探し、起案していく。

②講師が先
呼びたい講師や実施したい講座が先にあり、講師と相談しながら日程を決めていく。体験教室などはだいたいパターン化していて「去年来てくれたあの人に今年も来てもらおう!」というパターンがほとんど。

これらとは別に、法務省矯正局などから「5月の上旬に◯◯さんの講演を行いたい。実施可能な候補日を3つ挙げて提出してください」といったトップダウン押し売り型も稀にある。

ちなみに僕は…キャリアのラスト2年、行事の企画運営を行う体レク主任というポストにいたが、施設長の決裁を受けるまで最短コースでこんな幹部陣のハンコをもらう。

僕(主任)>統括>首席>次長>院長

実際には予算や物品絡みのことも多く、決裁ルートに庶務課が組み込まれることも多い。

幹部はほとんどが2年で転勤していくためしょっちゅう陣容が入れ替わる。僕は「今年の幹部はどこから根回しすれば一番速いか」を常に考えていた。喫煙所で院長と直接話して実質的にOKをもらってから書類を上げていくことも少なくない。

ハンコ文化には批判も多いだろう。僕も大嫌いだ。が、現実にそれがある以上、無視はできない。企画を通すには並み居る幹部全員からYESをもらう政治力・説得力・信頼が必須。

どこの施設にも一人くらいはそういうことに長けた人間がいる。新たな企画を実現するには、そういう法務教官とつながるのが一番速い。(僕から紹介できる人もいる。しょっちゅう転勤してしまうけれど。)

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8)外部からの提案パターンとその良し悪し

①具体的な講座内容などの提案
具体的な提案がある方が受け手の少年院は判断しやすい。その一方で採用される可能性は高いとは言えず、なかなか難しい。

塀の中の事情がわからないため、提案する方も難しいと思う。

②「何かお役に立てませんか?」
こんな申出をいただけたら僕のような人間は食いついて何かやろうと考える。「とりあえず一回相談がてら見学にお越しいただけませんか?」という話になる。



実際にはそんな余裕もなく門前払いになるか、遅々として進まぬ状況に陥ることだろうと思う。

その理由はいくつかあるだろうが、法務教官のほとんどはそうした「新しい物を生み出す」が苦手なタイプで、また民間のリソースを想像もできないというケースも事情もある。

(何をどう検討しているのかについては後述。)

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9)提案はどんな形で渡されるとよい?

極めて個人的見解だが、こんなのがよいと思う。(僕が現職の時は外部の方にこんな贅沢なお願いをしたことはないが…受け手が助かるという話)

①行政文書的な見た目の企画書
②実施状況が分かる画像

(参考)

もちろん資料はあるに越したことはない。少年院はそんなにたくさん企画が持ち込まれる場所ではないため、ビジネスピッチのように要点を強力に絞り込む必要はなく、むしろ可能な限り沢山あった方がよい。

塀の外の文化にうとい人間も多く、言葉だけではイメージできない可能性があるため、実際の場面がわかるような資料があると非常に助かる。

ただし…

映像は決裁に回す時に不便なので静止画があった方が便利で、映像+静止画なら僕は泣くほど感謝する。

その一方で、法務教官は結局公務員。よくも悪くも行政文書に慣れ親しみすぎている。実際に起案していくにも行政文書の形式で書類を作るしかない。

同じ情報ならパワーポイントよりも行政文書の方がいろんな意味で楽。

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10)少年院が考慮するのはどんな条件?

さて肝心なところ。

外部から提案を受けたとき、少年院はどんな視点でその提案の可否を検討するのか…。だいたいこんな感じだ。

【①保安的リスク】
まず何よりもこれ。どんなに好条件で効果の見込めるものでも、保安上のリスクが高いものは受け入れられない。具体的なリスクはこんな感じだ。

・講師の身の安全
・自殺、逃走、火災
・情報漏洩
・極端に心情を乱す可能性
・使用物品の悪用や隠匿
・少年間の不適切な会話等
・性的刺激など


だから例えば、「真っ暗にして手品を見せる」だと「そんなに暗くしなきゃだめですか?」という相談が返ってくる。

性犯罪加害者がいたり、また普段異性との接触がそこまで多くないことから特に若い異性の講師による少人数制のグループワークなどは「講師の身の安全を確保できるか」という懸念が頭をもたげてくる。

【②目的と効果】
これは現場の法務教官がどこまで信じられるかに委ねられる。幹部が自分で「これよさそうだね」と言ってくれることもあるが、多くの場合、子どもと接する機会の多い現場のエース格が意見を求められる。

「これどうかな。やったらおもしろそう?」

ここでスパッとYESが出ると「じゃやってみようか!」になっていく。

【③予算】
少年院はここが超絶に弱い。ぶっちゃけた話、都道府県をまたいで来訪する場合、交通費にもならないだろうと思う。

もちろん定例化すればそれ用の予算を確保する可能性はある。が、基本的には個人に対する謝金の規定が適用されて、せいぜい1〜2万/日程度。

僕は「お金は出ません。それでも少年院で活動したことが御自身の活動のブランディングに役立つと思えたら受けてください。」と依頼していた。

実際、僕がお呼びした方々の多くは講演・講習が終わったあとSNS等でその報告や感想を発信してくださり、少年院自体の広報的な役割も果たしてくださった。本当にありがたい。

【④日程】
土日に行事(講演や演奏会等)を行うことも決して不可能ではないが、基本的には平日に行うことが望ましい。

土日祝日は休日モードで教育活動はあまり行われず、その分だけ職員の数も少ないからだ。(もちろん非常事態に備えて十分な数の職員は出勤しているが)

施設によって状況は様々だが、少年院的には平日の午後が一番都合をつけやすいだろうと思う。大抵は。

【その他】
①〜④をクリアできていれば、もはやなんとでもなる思うが、可能ならば教育活動のどの領域(職業指導か特別活動か教科教育か…)に該当するか…なんてことを考慮してみるのはよいかもしれない。

法務教官たちは、少年院が様々な面で一般社会とは異なることを理解している。そしてそれ以上に、一般社会の方が少年院の事情に明るくないことを痛感している。(それは法務省の情報発信が下手すぎるせいだと僕は思うが)

だから

提案者が中の状況をわかっている人間とそうでない人間とでは、提案の受け止め方が大きく違う。

ワークショップをやりたい
アンケートを取りたい
子どもを壇上に上げたい

そんな要望も、過去に少年院内で活動したことのある方が、2回目以降で提案していただけるのなら「じゃ、できる方法を模索しましょう!」になるが、初回でいきなり言われると「この人、状況わかってんのかな…。ちょっと不安だな。」と感じてしまう。

そういう意味でも法務教官の個人的コネクションによる企画はハードルが下がる。すでに状況と懸念が伝わっているだろうと思えるからだ。

だからこそ、最初の一歩は、まず講演形式で道具なども使わずに行えるとよい。そこで子どもや現場職員からの評判がよければ定例化していけるし、より実験的なこともできる。

(これは本来法務教官の側が心がけることだけど…)大切なのは顔の見える職員を増やしておくこと。

転勤によって唯一のつながりが切れてしまうことがある。法務教官は外部との連携に不得手な者も多いが気軽に世間話できる人間が増えるに越したことはない。

(法務教官自身にとっても指導の幅を拡げるチャンスだと僕は思っている)

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11)少年院との連携手段

世情に疎く時代遅れ感満載の少年院では連絡ツールも化石並だ。

電話
FAX
文書(郵便)

がメイン。

僕は内線含め安直に電話を使う人がほんとに信じられないのだけれど、塀の中には結構いる。

メールが使える施設(担当者)とめぐり逢えたら幸運だと思っていただきたい。(当然ながら僕はメール派)

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10)外部からの提案はどう共有される?

上層部(法務省矯正局やその下の矯正管区)からもたらされる講師情報は、「事務連絡」という文書で送られてくる。

そこに画像などがついていることはほとんどなく、行政文書形式の書類で説明文や謝金などの条件が書かれているだけだ。

施設をまたぐ正式な連絡はこうした文書でのやり取りになっていて、それを施設の文書係が受け取り、受領した旨の報告(決裁)を行いつつ担当者に共有する。

僕が主任をやっていた時はゴルゴ松本さんほか、特別矯正支援官の方々の情報が回ってきて「講演を希望しますか?」という調書に回答することが多かった。

文書主義のため、とにもかくにも行政文書形式の書類(のデータ)が飛び交う。現場の人間は、それをもとに他施設の顔見知りの職員に電話やメールで問い合わせて詳しい情報を得たりする。

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12)少年院内での活動は事業化しにくい

すでに述べた通り、少年院内での民間人の活動に対する謝金は極めて安い。

収支が合いにくいため、「少年院からお金をもらう」というビジネスモデルでは有償ボランティアの域を出ない。

NPOや企業が持続可能な形で活動を行おうと思ったら、単発の講演などから関係を深めて予算をつけてもらえるまで頑張るか、外部から寄付金などを募るかだ。

ただし

仮にそれができたとしても、予算とは別の意味で事業化しにくい側面が少年院にはある。例えば連続性のあるワークショップなどでは、そもそもその効果を生み出しにくいのだ。

少年院は五月雨で出入りがある。半年もすれば半数近くの少年が入れ替わるから、「全6回のプログラミング講習」を企画しても6回目まですべて受けられる子は半数に届かない可能性がある。

それでも6回すべてを受けることを前提に講座を提供しようと思えば「在院期間が半年以上残っている者だけを対象とする」などの工夫が必要。必然的に対象者は少人数になる。

仮にその条件で実施したとしても、さらに難しい問題がある。

面会等による欠席や反則行為・集団不適応などにより対象者が出席できない場合があるのだ。(むしろ半年間、一度も不適応を起こさずに生活し続ける者の方が少ないかもしれない。)

寮内で集団の反則行為が行われ、日課自体が潰れることもある。

平日の午後に時間をこじあけ、持ち出しの予算で施設に来たら、直前に日課が中止・変更になる…なんてことも、ありえないことではないのだ。

少年院の中で持続可能な形で活動を行うことは非常に難しい。

また、提供しようとしているプログラムが本当に少年自身の人生に役立つかどうか…という議論も実は複雑で奥が深い問題だ。

どんな講演もプログラムも、その事前事後の指導によって効果は大きく変わる。外部講師の活動の真価は、事前事後の指導を行う法務教官によって左右される。

僕は元法務教官だから、ここだけは現役法務教官に伝えておきたい。

民間の優れた人材を招き入れたらそれだけでいい指導になると思うな。外部講師の力が十分に発揮され、その本質がきちんと子どもたちの真芯に届くためには、法務教官の力が絶対に必要だ。

外部講師を招く時こそ、法務教官が働かなければならない。招いて終わりではないのだ。黒子になるな。塀の中の教育活動の主力はどこまで行っても法務教官なんだ。戦場を安易に人に委ねるな。

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13)とはいえ…

散々困難さを並べ立てたが、できないわけではない。

繰り返しになるが僕は、僕から企画してそれまでお呼びしたことのないゲストを招いたし、それまでなかった行事も成功させた。

また…

以前からあったものだが、大学生を講師にしたライフセービング教室や協力雇用主を招いてのタグラグビー交流マッチなどもある。

いずれも先輩と外部協力者の尽力によって少しずつ発展・定着したもので、本当に涙が出る思いだ。

僕が心から尊敬する現・茨城県笠間市教育長の小沼先生は、平成19年、自ら企業を回ってスポンサーを集め、一部市民からの強烈な批判の中で少年院に講座を提供してくださった。

そういう先人たちのまさに血の滲むような努力の上に、僕のような若輩が暴れまわる舞台が整えられているのが今の少年院だ。誰よりも現場の法務教官がその事実を真摯に受け止めて努力しなければならない。

何を言うかよりも誰が言うか…

少年院との連携においてはこの言葉が本当に力を持つ。

まず顔の見える関係を作る。
そして小さな実績を作る。

少年院の中のことをきちんとわかっている民間人(団体)

というポジションにつくことを最初の通過点とされたい。

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14)最後に…

本稿のもととなった対談は、育て上げネット・工藤さんからの質問に僕が答える形で行われた。

まがりなりにも9年法務教官をやって、最後2年は外部との連携を推進する役回りだった僕だけど「そうか確かにそこがわからないよな」とハッとさせられる質問も多く、改めて少年院の内と外を隔てる塀の高さを感じた。

僕の経験はすでに過去のもの。でも、現職・元職を問わず法務教官の立場から発信をしている人間はまだまだ少ない。特に教育という視点で語るものは皆無だ。

様々な事情によって法務教官を辞めた僕ではあるが、そこに「民間人の立場から少年院や非行少年の支援をしたい」という想いがあることも事実。

僕に今できることは、工藤さんをはじめ、心ある方々の活動に協力することだと思っている。

少年院と連携したい。
でもやり方がわからない。

少年院と連携したい。
本当に効果的なものにしたい。

そんな方々に僕の経験と知識、技術を使ってもらいたい。本稿が、その架け橋になったら本望です。

工藤さん、いつも本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。