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【もくじ】法務教官の仕事を列挙してみる。

「法務教官」って知っていますか?

法務省矯正局所属の専門職員。平たく言うと,少年院や少年鑑別所の職員です。僕は男子長期少年院で日々,様々な背景を持つ非行少年たちと向き合ってきました。

法務教官の仕事を一言で言うと「非行少年の健全育成」ですが…塀の中は陸の孤島。ネットからも隔絶されており,非行少年の実態はもとより…法務教官の仕事内容も,そのほとんどが世に知られていません。

実際,現職法務教官の多くも,具体的な仕事内容を知らないまま試験を受け,就職し,身体で覚えて現場に立ち続けています。

これは,そうした現状に小さな突破口をあけるための,現場経験者が書く法務教官のお仕事図鑑。

法務教官を目指す学生
非行少年の支援者や支援団体
非行少年の保護者の皆様
若手法務教官の方々

の参考になると思います。

極めて個人的な経験に基づく記事たちですので,下記留意事項をご参照の上,気になった項目からご覧になってください。教育者としての法務教官像が,少しリアルに想像できると思います。

留意事項
①項目は後から足される可能性があります。
②施設によってある仕事とない仕事があります。
③法務省公式見解ではなく,あくまでも個人的な経験談です。

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1)日常的なお仕事

【日常的な業務】
 ・面接
 ・日記
 ・作文
 ・面会
 ・体育
 ・運動
 ・職業指導
 ・職業生活設計指導
 ・生活指導(講義等)
 ・学習指導(講義等)
 ・資格取得(講義等)
 ・入浴立会
 ・行動観察
 ・成績評価
 ・環境整備

【時々行うもの】
 ・移送
 ・就労支援
 ・就学支援
 ・環境調整
 ・施設見学
 ・医務診察
 ・クラブ活動

【行事】
 ・運動会的なもの
 ・競技会的なもの
 ・文化祭的なもの
 ・演奏会的なもの
 ・施設外教育活動
 ・ゲストスピーカーによる講話

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2)単発のお仕事

 ・映像表現コンクール
 ・文芸作品コンクール
 ・刑務所への出張 
 ・矯正科学研究会
 ・矯正教育学会
 ・視聴覚教材

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3)自分で作ったお仕事

 ・地域のプロジェクトへの参画
 ・少年たちへの参考書づくり
 ・若手教官への参考書づくり
 ・ダンス指導

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4)保安的なお仕事

 ・制圧
 ・護身術訓練
 ・手錠の訓練
 ・消火訓練
 ・救命講習(自殺未遂等対応含む)
 ・夜間巡回

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5)業務改善関係

 ・事務様式の整備
 ・行事等の削減
 ・マメな記録
 ・内線電話の出方
 ・情報共有の方式

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6)その他

 ・現場以外のお仕事(庶務課等)
 ・組織内でのポストの話
 ・基礎科研修
 ・応用科研修
 ・その他研修
 ・恋愛相談
 ・コメント
 ・食育

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7)特定生活指導について(補足)

少年院は…

非行少年を保護し,
健全育成のための教育を授ける施設。

当然…

再犯防止のため,犯罪傾向や本人の問題性等を踏まえた様々なプログラムが用意されています。

それらは「特定生活指導」と呼ばれ,原則として以下の6領域の中から指定されたいずれか1つを受講します。

①被害者の視点を取り入れた教育
②薬物非行防止指導
③性非行防止指導
④暴力防止指導
⑤交友関係指導
⑥家族関係指導

認知行動療法やアンガーマネジメント,アサーションなどの要素を取り入れたものが多く,職員(法務教官)自身も勉強しながらグループワークや講義を行っています。

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8)まとめ

少年院は全国に約50。

それぞれの施設に特色や特長があり,
収容されている少年の傾向も様々。

2018年4月からの3年間の発信の中で,僕が最も気をつけていたのは…身バレしないこと。でもそれは,匿名アカウントによくある身バレ防止とは少し趣が違います。

僕がバレたくなかったのは,元非行少年(つまり教え子)と法務省の人たち…つまりどちらかというと身内側の人たちです。

法務省はこれまで,ほとんど発信活動を行ってきませんでした,Twitterを見ると教員のアカウントはたくさんあるのに,法務教官のアカウントはない。

それはなぜかというと…

法務教官が公安職で,警察や自衛隊と同じように,機密情報を持っているからです。施設の保安設備などの情報は絶対に漏れてはいけないし,何より非行少年の個人情報の漏洩は法務省全体の問題になる。

だから,情報発信だけでなく「個人のSNSの活用」についても,法務省はほんとに口うるさく「気をつけなさい」と年中言っている。

それはつまり,実質的には「やるな」ということ。

だから僕は,僕の個人情報がどうこうという話ではなく,身バレして「消せ」と言われることを避けなきゃいけなかった。どこの誰かが発覚したら,確実に「消せ」言われてしまうことがわかっていたから。

もちろん,個人情報や機密情報の漏洩は避けたし,これからもそんなことをするつもりは絶対にない。退職後も守秘義務はあるし,守る。

だけど

発信したほうがいい情報はあるし,それはできる限り現場の人間がやったほうがいいと僕は思ってる。社会が知りたいのは制度じゃなくて実態なんだから。

僕の #塀の中の教室 は,個人情報と機密情報に触れずに現場の空気感を伝えるために考えついた切り口だった。

僕個人が現場で彼らと交わした言葉なら,機密情報ではないし,誰かの著作権を侵害するものでもない。

これまではそうやって,身バレしないために,行事の名前や勤務のタイミングまでも調整しながら発信してきた。

でも今はフリーランス。僕がどんな仕事をしてきた人間なのかを知ってもらうことも,大事な立場だ。

だから…

法務教官の現場の仕事を知ってもらうため,そして僕自身のことをもっと深く知ってもらうため,より具体的な仕事の経験を書いていこうと思います。

ひとつひとつの仕事と,それに対する僕の向き合い方を共有していく中で,「元法務教官」を社会に還元するための道が見えてきたらいいなと思います。

少しずつ更新していきます。

どうぞ,塀の中の見えない世界を,覗いてやってください。

へいなか

放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。