職業生活設計指導
・小学生レベルの国語と算数
・危険予知トレーニング
・ビジネスマナー
・自己分析とPR etc…
これらをまとめて取り扱うプログラム。
職業人としての一般的な知識及び態度
並びに職業選択能力及び職場適応能力の習得
が目的だ。
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残念ながらその画像等は一般に出ていないが,内容は極めて初歩的なもの。
例えば危険予知トレーニングの単元では,工場のイラストをもとにどこに事故のリスクが潜んでいるかを探したり,その改善策を検討する。イメージとしてはこんな↓感じ。
(こちらは労働新聞社のWebサイトのものだが,少年院で使用しているワークブックも雰囲気は非常に似ている。)
国語は小学生の教科書のような内容で,「オツベルと象」や「蜘蛛の糸」などの名作も登場する。算数は四則計算のルールや分数や少数あたりがメインだ。
ワークブック形式になっており,法務教官が指導して実施する。基本的には集団で行うことを想定したものだが,施設によっては個別指導になっているかもしれない。
全国の少年院で同じテキストを用いて指導しており,原則として出院までに必ず履修する。大半が出院後に就労する少年院の現場では,これらの指導の必要性はなくはない。
僕が務めていた施設では,一般の見学者に対して職業生活設計指導のワークブックを展示していたが,引きこもり支援を行っている団体の方は「これ私達も使いたいわね」と感激しながらおっしゃっていた。
確かに,扱っている内容は一般常識レベルで身につけておいた方がいいものばかりだし,極めてコンパクトにまとまっているので使いやすい。
が
当然,課題もいくつかある。
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1)全国統一
少年院は全国に約50。
知的障害や精神障害の子が頻繁に入ってくる施設もあれば,そうでない施設もある。当然,男子の施設も女子の施設もある。
「初少年院」の子ばかりの施設もあれば,「2回目,3回目」がたくさん入ってくる少年院もある。
そんな中で全国統一のワークブックを使うとなれば…基本的には能力の低い子に合わせて作成することになる。要するにカンタンだということ。
ただでさえ小学生でも分かるように作られている上,2回目,3回目の少年院生活を迎えている子は,もはや最初から答えのわかりきっているワークに取り組むことになる。
国の施設だから国として教育内容を指定することはまぁ当然かもしれないが,全国統一でテキストを用意することの是非は問い直すべきだろうと思う。
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2)男性向け
特に危険予知トレーニングに顕著だが,職業生活設計指導は基本的に男子向けに作られている。工場や工事現場での危険予知が中心で,女子から見れば縁遠い話になっている。
それでもやる意味がないとは思わないが,明らかに男性メインの職場しか想定されていないワークブックでは,女子のモチベーションは上がりにくいだろうと思う。女子施設の法務教官はきっと,この辺の指導にも苦労されているだろうと思う。
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3)集団指導
学校での学習体験が少ないと,他者との意見交換の経験も少なくなる。そもそも人間関係も狭く価値観が偏りがちな非行少年たちにとって,他者の意見を聞くことは大切な体験だ。
しかし,少年院で集団指導を行うのには難しさもある。全員が同時に入って同時に出ていくわけではないからだ。
職業生活設計指導は,国語や計算,ビジネスマナーなどの各領域が8個ずつの単元に分かれている。
例えば今日,国語ワークの単元5を指導しようと思っても,単元1から順番に進めてきた者と,今日初めて参加する者が同じ集団の中にいる。習熟度どころか在籍期間すらマチマチな状況で,1つの単元を集団指導するとなれば,そこには様々な配慮が必要。少年院の集団指導の難しさの1つはここにある。
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実物を見せられないために,中途半端な記事になってしまったが,要するに「出院後の就労生活」のための超々基礎的な知識を得るためのプログラムだということ。
塀の外に出られない子どもたちに対して,出てからの就労に必要な知識と態度を身につけてもらうためのプログラム。それが職業生活設計指導。