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移動手段の役割って何ですか?【連載交通②】

奈良公園に行く方法はいくつかあります。

 例えば、大阪方面からなら近鉄奈良線に乗って近鉄奈良駅へ。そしてバスに乗って奈良公園、または歩いて奈良公園に向かうのも良いでしょう。はたまた自宅から自家用車で来る手段もあります。

「奈良公園を含む奈良市内には、鉄道では近鉄、JRが。バスでは奈良交通バスが。そして自家用車や団体バスという手段もあります。」

 こう書くと、あらゆる手段があるように見えますが、実はいくつかの分類が「ぐちゃぐちゃ」に混じっている表現となっています。

 今回の記事では奈良へのアクセスや、奈良市内の周遊に関する交通機関の種類とそれぞれの役目について解説したいと思います。

 尚、この記事では奈良公園、ならまち、平城宮跡、西の京がある観光地地域を「奈良市街観光地域」とします。


一次交通と二次交通

 観光に関する「乗り物」の事を一言に「交通」と言いますが、それはいくつかに分類することができます。ここでは、奈良にアクセスするための交通「観光アクセス交通」=一次交通。奈良市内を周遊するための交通「観光周遊交通」=二次交通とします。

一次交通

 一次交通(観光アクセス交通)は、観光の拠点となる空港や駅までの交通の事を指します。奈良市の場合、空港や港はありませんので鉄道駅が拠点となります。また、都市間を移動する高速バスも鉄道駅前のターミナルを起終点としていますので、やはり鉄道駅が拠点となります。

二次交通

 二次交通(観光周遊交通)は、拠点となる鉄道駅から観光地までの交通の事を指します。奈良市街観光地域の場合、駅を降りれば地域としての意味の「観光地」ですので、駅から「観光スポット」までの交通と読み替える事が望ましいでしょう。

エリア内・園内の移動手段

 一次交通、二次交通の分類は観光交通の分野にて一般的な分類ではありますが、この記事ではもう一つの交通を付け加えたいと思います。

 それは、エリア内、園内の移動手段です。以前の記事で「奈良市の観光にはエリアが存在する」と記載しましたが、このエリア内の極めて限られた範囲を周遊する為の交通です。二次交通として分類しても良い場合もありますが、類似例ではいわゆる「ロードトレイン」のような「遊具」として分類される場合もあるような距離も、奈良市の場合は「交通」として話題となる場合があります。


それぞれの移動手段・交通機関

鉄道

 奈良市内の鉄道は、主に一次交通として使用される場面が多くあります。下の画像は奈良市内の鉄道路線図です。

奈良市鉄道路線図
奈良市内の鉄道路線図(筆者作成)

 東部の山間部には鉄道は一切存在せず、西部の平野部に鉄道が存在していることが良く分かります。奈良公園などがある奈良市街観光地域もこの鉄道が存在している西部にあります。

 鉄道を運行するのは近畿日本鉄道(近鉄)と、西日本旅客鉄道(JR西日本)の2社です。

 奈良市街観光地域への玄関口は特に近鉄においてはそのエリアごとに異なり、「近鉄奈良駅」、「大和西大寺駅」、「西の京駅」がそれにあたります。JRの場合は基本的には「奈良駅」が玄関口となり、そこから徒歩または路線バスでの移動となります。

 奈良市内には地下鉄や路面電車のような都市内で完結する鉄道、軌道は存在せず、その役割は路線バスに譲ることとなりますが、玄関口となる駅が複数あったように、近鉄の路線は奈良市街観光地域内の移動、つまり二次交通にも利用できることがわかります。ただし、鉄道駅の間隔は密ではなく、観光スポットの目の前まで乗り入れてない場合もあり二次交通での役割は限定的でしょう。

鉄道の奈良市内の役割=JRは一次交通。近鉄は一次、二次どちらも。


高速バス

 都市間を移動する高速バスは、奈良交通株式会社とその路線を共同運行をするバス事業者が運行し、奈良市と首都圏、名古屋、大阪(伊丹)空港、関西国際空港を結ぶ路線があります。

 奈良市の観光地エリアでは近鉄奈良駅、JR奈良駅、大和西大寺駅、奈良県コンベンションセンターなどがその乗り場として指定されています。

高速バスの奈良市内の役割=一次交通


路線バス

 奈良市を含む奈良県内の路線バスは一部を除き、基本的には奈良交通株式会社が運行します。他の都市にあるような「バス会社を選ぶ」ということは奈良市街観光地域での観光ではまずありえません。(厳密には子会社の路線がありますが見分けはつきません。)

 奈良市街観光地エリアでは縦横無尽に路線があり様々な運行系統が設定されています。下の図は奈良市街観光地域における奈良交通の路線図です(筆者作成)。

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奈良交通の路線図(筆者作成)

 奈良市の玄関口となる各鉄道駅と観光スポットを結んでいたり、観光エリア同士を結んでいたりする様子がわかります。

 また、近年になり登場してきた奈良交通ではない運行系統があります。それは「ぐるっとバス」です。「ぐるっとバス」は奈良県庁や奈良市役所、地域の交通事業者らでつくられる「奈良中心市街地公共交通活性化協議会」が実施する取り組みのうちの一つです。

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ぐるっとバスの路線図(筆者作成)

 運賃が100円であり奈良交通の路線バスの同じ区間より半額以下の運賃となり、また観光スポットをダイレクトに結ぶことから「観光地周遊100円バス」との様相です。

 尚、この「ぐるっとバス」は場面によっては「奈良公園内の移動手段」として機能する場合もあります。

路線バスの奈良市内の役割=二次交通、エリア内・園内移動手段


団体バス(観光バス)

 個人での観光ではまず乗車する機会の無い手段ではありますが、その数を甘く見てはいけません。かつて、奈良公園では団体バスが公園内の道路を数珠繋ぎとなり渋滞を発生し問題となった過去もあるほどです。

 奈良市街観光地域では各スポットなどが広い面積の駐車場を用意し、その受け入れを行っているほか、奈良県により奈良公園バスターミナルを中心とした奈良公園と平城宮跡を目指す団体バス誘導システムを組み立てています。

奈良公園バスターミナル

 また、季節による需要の変動もある為、バスの受け入れ先にはその処理能力が求められることとなります。

 その団体の旅程によりますが、団体バスは奈良市へのアクセスの為の手段や、奈良市内のスポットからスポットへの移動にも用いられます。

団体バスの奈良市内の役割=一次交通、二次交通と呼べるかはわからないがそのような役目も。


タクシー

 タクシーは、他の公共交通機関とは決定的に異なる点として、その車を利用する乗客と運転手のみの空間で、路線の設定もなく基本的には好きな所から好きな所に移動できるという交通システムです。団体バス(貸切バス)を除き、基本的には「乗合」である他の公共交通機関とは決定的に異なる点がそれです。

 奈良市内では鉄道を降りて市内各地に向かう旅客の為に鉄道駅を中心に待機をしている様子や、一部奈良公園内の道路沿いにあるタクシー乗り場に待機をしている様子を見かけます。

 希望すれば他都市から奈良市への移動にも利用することはできますが、それは極めて少ない出来事であると推察されます。

タクシーの奈良市内の役割=鉄道駅からの二次交通


自家用車(レンタカー含)

 いわゆるマイカーの事とします。またレンタカーやカーシェアリングを含むこととします。一次交通を考えた場合「鉄道」か「車」なのかで選択する場面も多い事でしょう。

 自家用車は専らその交通の利用者のみの空間で好きな所から好きな所へと移動することができる特徴がありますが、公共交通とは異なり「乗ってきた車を駐車する」という行為が必要であり、また乗り捨てもできません。

 つまり、目的地やその近くに駐車場が無ければこの手段を利用することができず、またその駐車場の収容台数より需要が超えていれば駐車することができません。

 奈良市街観光地域の場合、JR奈良駅西口など複数の場所に拠点となる大容量の駐車場が用意され、そこを拠点にバスなどで周遊ができる他、観光スポットの近くにも駐車場が用意され、他のエリアには車を使って移動する周遊の方法もあります。

奈良市内の自家用車の役割=一次交通、二次交通


レンタサイクル・シェアサイクル

 古くからある「レンタサイクル」に加え、近年では貸し借りができる無人のスポットが各地にある「シェアサイクル」も奈良市内に参入しています。

 この移動手段は利用者の「体力」によってその行動範囲が変化する特性を持っており、これは鉄道やバスには存在しない事であります。複数のエリアを巡る周遊コースで観光する場面も考えられますし、エリア内のみで完結する場合もあるでしょう。

シェアサイクル

 これらには返却を要し、行動できる範囲が定められているので、一次交通として利用することは皆無です。

レンタサイクル・バイクシェアの役割=二次交通、エリア内の周遊


徒歩

 もはや交通機関ではありませんが、観光地周遊の移動手段の選択肢の一つではありますのでその特徴を解説します。

 徒歩は、どこにでも自由に行くことができますが、その人の体力や旅程の時間によって制限を受けることとなります。

 その徒歩の移動を支援するのが上に記載してきた「二次交通」や「エリア内・園内移動手段」の数々ということになります。


そして、負荷がかかる道路

 以上、奈良市街観光地域に対する交通とそれぞれの役割を解説しました。

 鉄道、高速バス、路線バス、タクシー、自家用車、レンタサイクル・シェアサイクル、そして徒歩を紹介してきました。

 それぞれが、得意とする役割を持ち、奈良市内の観光アクセス交通や、観光周遊交通を支えています。

 しかしながら、すべてに満遍なく需要が存在しているわけでは無く、鉄道での周遊は限定的であり、タクシーやレンタサイクル・シェアサイクルの需要は輸送力が異なるバスと比較して、それほど大きいものであるとは言えないでしょう。

 こうやって、整理してみるとある部分に大きな負荷がかかっていることが見えてきます。

 それは「道路」です。

 大きな需要がある路線バスや自家用車、団体バス、そして「徒歩での周遊の支援」つまりバスが「道路」に集中する結果となります。

 次回は、奈良公園付近の道路事情について解説し、その課題を整理します。


参考文献

JTB総合研究所 観光用語集 https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/

奈良交通 高速バスのご案内 https://www.narakotsu.co.jp/kousoku/


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