Sakiya ARAKAWA

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Sakiya ARAKAWA

在野研究者 Researcher at the Margins https://researchmap.jp/sakiya1989

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『葬送のフリーレン』における〈尊さ〉

 『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人・アベツカサ、小学館)が人気を博している。  なぜ人は『葬送のフリーレン』に心惹かれるのか。『葬送のフリーレン』の核心は何であるか。この点について筆者は陳腐な言葉で語ることしかできない。『葬送のフリーレン』を通じて読者・視聴者が体験するであろう心揺さぶられる〈尊い〉感情は、容易く文字にすることを許さないほどに儚く脆いからである。  それでも誤解を恐れずに言うと、『葬送のフリーレン』とは、いわば未来への配慮が描かれた追憶の物語である。主

    • マルクス『資本論』試論⑥

      第一部 資本の生産過程(承前) 労働生産力の様々な複合的諸要因 (1)ドイツ語初版 (2)ドイツ語第二版 (3)フランス語版 (4)ドイツ語第三版 ここでマルクスは「労働時間」という量に影響を与える〈労働生産力〉という質の諸要因について言及している.「ある商品の生産に要する労働時間」は,例えば8時間や9時間のような一定の量として計測される.だが,同じ8時間や9時間の労働であっても,労働の質によって生産性は変化する.この労働の質のことを〈労働生産力 Produktiv

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      • マルクス『資本論』試論⑤

        第一部 資本の生産過程(承前) 労働の測度単位としての単純平均労働  次の箇所もドイツ語初版とドイツ語第二版以降とでは明らかに文章が異なるので,それぞれ個別に考察していこう. (1)ドイツ語初版 マルクスによれば,商品を価値として考察した場合,商品は「単純平均労働」という「労働の測度単位」に還元されるという.この「単純平均労働」を適切に扱うためには,第一に,その「平均」の母数がどの範囲にまで及ぶものなのか,そして第二に,「単純」というからにはそれに対する「複雑」なものは

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        • マルクス『資本論』試論④

          第一部 資本の生産過程(承前) 商品のあいだに共通する「第三のもの」 (1)ドイツ語初版 (2)ドイツ語第二版 (3)フランス語版 (4)ドイツ語第三版 「クォーター」とか「ツェントナー」といった聞き慣れない単位が登場するが,これらは一定量の小麦や鉄を示すための単位であるということが分かっていれば問題ない.  ここでマルクスはある商品と別の商品との間に共通する「第三のもの」の存在を示唆している.これは以前のパラグラフで「内実 Gehalt」と呼ばれていたものである.

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        『葬送のフリーレン』における〈尊さ〉

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        • アニメ・漫画批評
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        • マルクス
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          10本
        • 研究ノート
          21本

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          マルクス『資本論』試論③

          “worth”と“value”の語源学:ゲルマン語派とロマンス語派  「使用価値 Gebrauchswerth」の後に付された原注4で,マルクスは次のように述べている. (1)ドイツ語初版 (2)ドイツ語第二版 (3)フランス語版 (4)ドイツ語第三版 ここでマルクスが注目するのは,ジョン・ロック(John Locke, 1632–1704)による「自然的価値 natural worth」の用語法である.ロックのいう「自然的価値 natural worth」は「

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          マルクス『資本論』試論③

          マルクス『資本論』試論②

          本稿のPDFは下記リンク先からDLできます. 【資料公開】荒川幸也「マルクス『資本論』試論②」(researchmap) 「商品」の定義 以下のパラグラフでは,分析の出発点となる「商品」の定義が端的に示されている. (1)ドイツ語初版 (2)ドイツ語第二版 (3)フランス語版 (4)ドイツ語第三版 「人間的欲求」と一口に言っても,「胃袋から生じる欲求」や「空想から生じる欲求」など様々なものが存在する.もし仮に「商品」が「人間的欲求」のあり方に従って異なったあり方を

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          マルクス『資本論』試論②

          『源氏物語』試論

          はじめに 『源氏物語』といえば、知らない者はいないといっても過言ではないほど有名な古典文学作品である。にもかかわらず、恥を忍んでいうと、筆者はこれまで中学や高校で『源氏物語』を読んだのか否かさえも覚えていない。そもそも『源氏物語』が54帖という膨大な巻数を有しているということさえ今回この覚書を書くまで知らなかった。そのような私がこれから『源氏物語』を読んでみようというのだから「気が触れた」と思われても仕方がない。ヘーゲルだのマルクスだの西洋かぶれの哲学や思想を研究してきた人

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          令和6年能登半島地震とX=旧Twitter

          令和5年12月31日 2023年12月31日に放送された第74回NHK紅白歌合戦では、YOASOBI「アイドル」のパフォーマンスが話題になった*1。「アイドル」の歌自体が他の追随を許さない魅力を放っていたのだが、そのダンスパフォーマンスにK-POPアイドルグループが参加したことで、故・ジャニー氏が事務所所属メンバーへ生前に行なった性的虐待問題の影響でジャニーズ不在の中で行われたイレギュラーな紅白歌合戦という文脈と併せて受け止められた。世界のある地域では未だに戦争が続いている

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          読書前ノート(5)

          カルロ・ギンズブルグ『それでも。マキァヴェッリ、パスカル』(上村忠男訳、みすず書房、2020年) 従来のマキァヴェッリ研究では「ヴィルトゥ virtù」や「フォルトゥーナ fortuna」という概念が鍵句として参照されてきた。本書の著者であるカルロ・ギンズブルグ(Carlo Ginzburg, 1939-)によれば、たしかにそれらの概念も大事だが、それだけではマキァヴェッリ研究としては不十分であるという。  本書でギンズブルグは、マキァヴェッリがしばしば用いる「それでも」に

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          アリストテレス『政治学』試論

          はじめに 今日、我々にとって、アリストテレス『政治学』(Ἀριστοτέλης, Τα Πολιτικά)は何を残すか。  本書は政治哲学および国家学の古典と言われる。従来、そのような読み方が為されてきたが、政治学を専門としないごく普通の人々は、本書からどんな示唆を得ることができるであろうか。  ごく普通の人々は、ほとんどの場合、政治学に関心を持たない。実際、選挙に参加しない人々が国民の約半数を占めている。近年の国政選挙での投票率は50%台であり、投票率は年々下落傾向にある

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          アリストテレス『政治学』試論

          悪用の人文学——パノプティコン型マネジメントの罪とその贖い

          はじめに 私は自身の罪を告白しなければならない。それは、人文学の知見を業務に応用していることである。この点に関しては、「人文学を悪用している」と捉えられてもおかしくない。  私は大学時代から今日に至るまで、ずっと西欧の古典に慣れ親しんできたし、このブログでも総じてそうしたテーマを取り扱ってきた。きっかけを与えたのはサブプライムローンの破綻に端を発するリーマンショックであり、その問題と向き合う中で懸案となったテーマの一つは「新自由主義とどう対峙するか」であった。 非正規雇用

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          TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」所感

           TVアニメ『呪術廻戦』(原作: 芥見下々)第2期「懐玉・玉折」を見た。五条悟はいかにして「最強の呪術師」五条悟になっていくのか、そして敵キャラとして登場する夏油傑はいかにして「最悪の呪詛師」夏油傑になっていくのか、というエピソードを描き出したのが過去編「懐玉・玉折」である。  『呪術廻戦』第一期を見た時は筆者はこの作品にそれほど面白みを感じなかった(一応、映画もIMAXで観に行った)。しかし、今シーズン他に観たいと思わせるコンテンツが無い中では、第二期は最も面白く素晴らしい

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          総括資料をつくる

          はじめに 会社で一週間後に総括発表をやるように言われている。部署編成が変わりたった一ヶ月で何を総括するのかという声もある。私の場合は逆に毎週アクション内容を課内で発信し続けているので、資料じたいは作成可能だと思うが、休日に資料作成に取り掛かるのはやはり面倒だし、疲れている。ちなみに「総括」という言葉の響きには、以前からどこか「赤い」匂いがする。そういう匂いを感じとっているのは私だけかもしれない。 発表資料作成時の注意点 構想も練らずにいきなり発表資料を作るのは野暮である。そ

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          読書前ノート(4)

          佐藤貴史『ドイツ・ユダヤ思想の光芒』(岩波書店、2015年)本書では、主に20世紀のドイツ・ユダヤ人思想家たち——ヘルマン・コーエン(Hermann Cohen, 1842-1918)、マルティン・ブーバー(Martin Buber, 1878-1965)、ゲルショム・ショーレム(Gershom Gerhard Scholem, 1897-1982)、レオ・シュトラウス(Leo Strauss, 1899-1973)——が、ニーチェとスピノザという偉大な思想家を参照軸としつつ

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          読書前ノート(3)

          藤原辰史『植物考』(生きのびるブックス、2022年)先日仕事でトラックを待っていたら、予定の時刻になってもトラックが到着せず、ドライバーから遅延の連絡もなかったので、ただひたすらボーッと景色を眺めていた。その際に、一つの植物が目に入ってきた。そういえば植物はわれわれ動物のように移動することができない。これは大変なことだ、とふと考えた。われわれ動物は自力で移動が可能だが、植物は誰かに根っこごと移植してもらうか、種子として飛ばされて別の地面に根をはやすことで世代間の移動を行うこと

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          弊社の販売契約社員5年満期雇い止めに妥当性はあるか

          元部下の退職 元部下から連絡がきた。「お世話になりました。」 当然知ってはいたが、今月で弊社を辞めるのだという。 ちょうど一年前まで自分が担当していた。働きぶりも良く、雇い止めになるという事実は受け入れ難い。 自分が販売契約社員だったときには5年経ったら無期転換ルールがあったのだが、ある時期以降に入社したメンバーからは無期転換ルールは廃止されたようだ。入社時の雇用契約書から明文化されているとはいえ、それはさすがにやりすぎというか、おかしいんじゃないの?と思っている。 会社批

          弊社の販売契約社員5年満期雇い止めに妥当性はあるか