Sakiya ARAKAWA

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Sakiya ARAKAWA

在野研究者 Researcher at the Margins https://researchmap.jp/sakiya1989

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生成AIとヘーゲル

本稿のPDF版は下記リンク先からDLできます。 荒川幸也「生成AIとヘーゲル」(researchmap) はじめに 2024年5月30日に発表された「ヒューマニテクスト」(Humanitext Antiqua)*1は、OpenAIのGPT-4oを活用して、哲学者のテクストに基づいてその哲学者の思想について質問することができるというものだ。「ヒューマニテクスト」は現時点では一般公開にむけて整備中のようであるが、このようないわゆる大規模言語モデル(LLM)を活用した人文情報学は

    • 【書評】三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、2024年)

      はじめに 前回の「「働いていると本が読めない」と思っているあなたへ」は三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、2024年)を読まずに書いたのだが、書名に言及した以上はさすがに読まずにおくのは良くないだろうと思い、二、三時間前に書店で購入してさらっと読んだ。前回も書いた通り、この本について私は『なんだかモヤモヤする』気分になるのだが、奥底のネガティヴな感情が沸き起こってくるのは、この本の内容の良し悪しとは別に、私自身の経験がそうさせるのだと思う。私は大学

      • 「働いていると本が読めない」と思っているあなたへ

        はじめに 書店に行くと三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が平積みになっていて、X(旧Twitter)でもそれに関するポスト(旧Tweet)がちらほら目に入ってくる。けれども、私にとっては人々の感想を読みながら『なんだかモヤモヤする』気持ちになる。というのは、「働いていると本が読めなくなる」現象には私自身も若い時から心当たりがあるものの、その苦しみをずっと抱えながら、私自身は働いているにもかかわらず本を必死で読んできた経験があるわけで、「働いていると

        • ヴィーコ『新しい学』試論③

          新しい批判術ヴィーコは『学問の方法』でクリティカとトピカという二つの方法について言及している.キケロの『トピカ』以来,クリティカは真偽についての判断の術(ars iudicandi)とされ,トピカは論拠についての発見の術(ars inveniendi)とされてきた*13.時代的には若者はポール=ロワイヤル論理学を優先的に学んでいたが,このような論理学やデカルトの方法をヴィーコは当時のクリティカとして位置付けている.こうしたクリティカ中心の時代にあって,ヴィーコはキケロに倣い

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        生成AIとヘーゲル

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        • ヘーゲル
          11本
        • エッセイ
          47本
        • 哲学・社会思想史研究
          24本
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        • アニメ・漫画批評
          17本
        • マルクス
          10本
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        • 研究ノート
          21本

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          ヴィーコ『新しい学』試論②

          農耕神サトゥルヌスここで「黄金の時代」という言葉が登場するが,これはギリシア神話のいわゆる「黄金時代」(χρύσεον γένος)を指している.  ヘシオドス『仕事の日々』には五時代説話が叙述されており,彼は黄金時代、白銀時代、青銅時代、英雄の時代、鉄の時代という五つの時代区分を示している. この歴史観においては,人類は神々とともに平和に暮らしていたが,徐々に争うようになり,人類は堕落へと進んでいったとみなされる.  ここで登場するサトゥルヌス(Saturnus)とはロ

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          ヴィーコ『新しい学』試論②

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          『葬送のフリーレン』における〈尊さ〉

           『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人・アベツカサ、小学館)が人気を博している。  なぜ人は『葬送のフリーレン』に心惹かれるのか。『葬送のフリーレン』の核心は何であるか。この点について筆者は陳腐な言葉で語ることしかできない。『葬送のフリーレン』を通じて読者・視聴者が体験するであろう心揺さぶられる〈尊い〉感情は、容易く文字にすることを許さないほどに儚く脆いからである。  それでも誤解を恐れずに言うと、『葬送のフリーレン』とは、いわば未来への配慮が描かれた追憶の物語である。主

          『葬送のフリーレン』における〈尊さ〉

          マルクス『資本論』試論⑥

          第一部 資本の生産過程(承前) 労働生産力の様々な複合的諸要因 (1)ドイツ語初版 (2)ドイツ語第二版 (3)フランス語版 (4)ドイツ語第三版 ここでマルクスは「労働時間」という量に影響を与える〈労働生産力〉という質の諸要因について言及している.「ある商品の生産に要する労働時間」は,例えば8時間や9時間のような一定の量として計測される.だが,同じ8時間や9時間の労働であっても,労働の質によって生産性は変化する.この労働の質のことを〈労働生産力 Produktiv

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          マルクス『資本論』試論⑥

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          マルクス『資本論』試論⑤

          第一部 資本の生産過程(承前) 労働の測度単位としての単純平均労働  次の箇所もドイツ語初版とドイツ語第二版以降とでは明らかに文章が異なるので,それぞれ個別に考察していこう. (1)ドイツ語初版 マルクスによれば,商品を価値として考察した場合,商品は「単純平均労働」という「労働の測度単位」に還元されるという.この「単純平均労働」を適切に扱うためには,第一に,その「平均」の母数がどの範囲にまで及ぶものなのか,そして第二に,「単純」というからにはそれに対する「複雑」なものは

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          マルクス『資本論』試論⑤

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          マルクス『資本論』試論④

          第一部 資本の生産過程(承前) 商品のあいだに共通する「第三のもの」 (1)ドイツ語初版 (2)ドイツ語第二版 (3)フランス語版 (4)ドイツ語第三版 「クォーター」とか「ツェントナー」といった聞き慣れない単位が登場するが,これらは一定量の小麦や鉄を示すための単位であるということが分かっていれば問題ない.  ここでマルクスはある商品と別の商品との間に共通する「第三のもの」の存在を示唆している.これは以前のパラグラフで「内実 Gehalt」と呼ばれていたものである.

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          マルクス『資本論』試論④

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          マルクス『資本論』試論③

          本稿のPDF版は下記リンク先からDLできます. 荒川幸也「マルクス『資本論』試論③」(researchmap) ジョン・ロックにおける「自然的価値」 マルクスは『資本論』の註で,社会契約論者の一人で『統治二論』の著者として有名な哲学者ジョン・ロック(John Locke, 1632–1704)の『利子引き下げと貨幣価値引き上げの諸結果に関する若干の諸考察』(Some Considerations of the Consequences of the Lowering of

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          マルクス『資本論』試論③

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          マルクス『資本論』試論②

          本稿のPDFは下記リンク先からDLできます. 荒川幸也「マルクス『資本論』試論②」(researchmap) 「商品」の定義 以下のパラグラフでは,分析の出発点となる「商品」の定義が端的に示されている. (1)ドイツ語初版 (2)ドイツ語第二版 (3)フランス語版 (4)ドイツ語第三版 「人間的欲求」と一口に言っても,「胃袋から生じる欲求」や「空想から生じる欲求」など様々なものが存在する.もし仮に「商品」が「人間的欲求」のあり方に従って異なったあり方をとるならば,

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          マルクス『資本論』試論②

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          『源氏物語』試論

          はじめに 『源氏物語』といえば、知らない者はいないといっても過言ではないほど有名な古典文学作品である。にもかかわらず、恥を忍んでいうと、筆者はこれまで中学や高校で『源氏物語』を読んだのか否かさえも覚えていない。そもそも『源氏物語』が54帖という膨大な巻数を有しているということさえ今回この覚書を書くまで知らなかった。そのような私がこれから『源氏物語』を読んでみようというのだから「気が触れた」と思われても仕方がない。ヘーゲルだのマルクスだの西洋かぶれの哲学や思想を研究してきた人

          『源氏物語』試論

          令和6年能登半島地震とX=旧Twitter

          令和5年12月31日 2023年12月31日に放送された第74回NHK紅白歌合戦では、YOASOBI「アイドル」のパフォーマンスが話題になった*1。「アイドル」の歌自体が他の追随を許さない魅力を放っていたのだが、そのダンスパフォーマンスにK-POPアイドルグループが参加したことで、故・ジャニー氏が事務所所属メンバーへ生前に行なった性的虐待問題の影響でジャニーズ不在の中で行われたイレギュラーな紅白歌合戦という文脈と併せて受け止められた。世界のある地域では未だに戦争が続いている

          令和6年能登半島地震とX=旧Twitter

          読書前ノート(5)

          カルロ・ギンズブルグ『それでも。マキァヴェッリ、パスカル』(上村忠男訳、みすず書房、2020年) 従来のマキァヴェッリ研究では「ヴィルトゥ virtù」や「フォルトゥーナ fortuna」という概念が鍵句として参照されてきた。本書の著者であるカルロ・ギンズブルグ(Carlo Ginzburg, 1939-)によれば、たしかにそれらの概念も大事だが、それだけではマキァヴェッリ研究としては不十分であるという。  本書でギンズブルグは、マキァヴェッリがしばしば用いる「それでも」に

          読書前ノート(5)

          アリストテレス『政治学』試論

          はじめに 今日、我々にとって、アリストテレス『政治学』(Ἀριστοτέλης, Τα Πολιτικά)は何を残すか。  本書は政治哲学および国家学の古典と言われる。従来、そのような読み方が為されてきたが、政治学を専門としないごく普通の人々は、本書からどんな示唆を得ることができるであろうか。  ごく普通の人々は、ほとんどの場合、政治学に関心を持たない。実際、選挙に参加しない人々が国民の約半数を占めている。近年の国政選挙での投票率は50%台であり、投票率は年々下落傾向にある

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          アリストテレス『政治学』試論

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          悪用の人文学——パノプティコン型マネジメントの罪とその贖い

          はじめに 私は自身の罪を告白しなければならない。それは、人文学の知見を業務に応用していることである。この点に関しては、「人文学を悪用している」と捉えられてもおかしくない。  私は大学時代から今日に至るまで、ずっと西欧の古典に慣れ親しんできたし、このブログでも総じてそうしたテーマを取り扱ってきた。きっかけを与えたのはサブプライムローンの破綻に端を発するリーマンショックであり、その問題と向き合う中で懸案となったテーマの一つは「新自由主義とどう対峙するか」であった。 非正規雇用

          悪用の人文学——パノプティコン型マネジメントの罪とその贖い