認知機能低下と代表的な栄養素および認知症発症との関係のレビュー 〜日本人の食事摂取基準2020年版〜

認知症は要介護状態に至る原因のみならず、医療、介護、福祉、その他多くの分野に関わ る超高齢社会が抱える大きな課題である。最近の調査によると認知症の有病率は、65 歳以上の高齢者では 15% にも及び、日本には平成 24 年時点で 450 万人以上の認知症患者が存在すると推定されている 3)。高齢者の更なる増加が予測されている日本にとって、認知症予防の重要性は言うまでもない。昨今、認知機能並びに認知症発症と種々の栄養素との関連が報告されてきている。
認知機能低下及び認知症と栄養との関連
昨今の調査からは脳血管性の認知症のみならず、アルツハイマー病においても、生活習慣並びに 生活習慣病と強い関連があることが指摘され始めている 107)。今回は代表的な栄養素と認知機能低下、認知症発症との関係を検討したが、以下に示すように各栄養素との関係は予防を目的とした目標量を示すほど十分な証拠は今のところなく、今回は文献的考察をするに留めた。

もくじ
1ホモシステイン(神経毒性)とそれに関連するビタミン(葉酸、ビタミンB6、B12)
2n-3系脂肪酸
3ビタミンD
4抗酸化と関連するビタミン(ACE)
まとめ


1.ホモシステインとホモシステインに関連するビタミン
ホモシステインは必須アミノ酸メチオニンの代謝過程で生成され、その代謝には、葉酸、ビタミ ン B6、ビタミン B12 が関与している。いずれのビタミンが欠乏しても血中のホモシステイン濃度 は上昇する。

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ホモシステインは、血管さらには神経毒性が指摘されており、長らく脳血管性認知症さらにはアルツハイマー病との関連が指摘されてきた。実際、複数の横断調査で認知症患者の高いホモシステイン血中濃度が指摘されている 108)。また、動脈硬化の引き金ともなる。

108概要

目的:[修正済み]高ホモシステイン(Hct)は、老年期のアルツハイマー病(AD)と血管性認知症(VaD)に因果関係があるとされていますが、研究方法と結果の測定値は不均一です。 調査結果を研究全体に一般化できるかどうかは依然として不明です。

方法:Hctレベルと比較グループ間で認知症/認知機能低下のリスクとの関係を調べる研究で、変量効果メタ分析を実施しました。 メタ回帰により、異質性の原因となる可能性のある患者および試験関連の要因が特定されました。

結果:17の関連研究(6,122参加者; 13の横断的研究と4つの前向き研究)が含まれていた。 コントロールと比較して、HctはAD(プール標準化平均差[SMD]:0.59; 95%信頼区間[CI]:0.38-0.80;有意な不均一性:τ= 0.105)およびVaD(プールSMD:1.30; 95%)で有意に上昇しました CI:0.75-1.84;有意な不均一性:τ= 0.378)。 メタ回帰では、平均年齢をAD対コントロールの重要なモデレーターとして識別し、平均年齢と平均葉酸レベルをVaD対コントロールの重要なモデレーターとして識別しました。 HctはADと比較してVaDで有意に高かった(プールされたSMD:0.48; 95%CI:0.23-0.73;中程度に有意な不均一性:τ= 0.076); 男性の割合と平均葉酸レベルは重要なモデレーターでした。 高Hctレベルは、前向き研究で認知症を発症するリスクと関連していませんでした(プールオッズ比:1.34、95%CI:0.94-1.91、有意でない異質性:τ= 0.048)。

結論:ADおよびVaDの個人は、コントロールよりもHctレベルが高くなります。 ただし、高Hctレベルと認知症を発症するリスクとの因果関係はサポートされていません。 Hctレベルを下げることの治療効果をテストするには、より前向きな研究とランダム化比較試験が必要です。

最近のメタ・アナリシスでは脳血管性認知症並びにアルツハイマー病患者では認知症ではない対照者に比較し、有意にホモシステイン濃度が高値であることが 報告されている 108)。また、アルツハイマー病と脳血管性認知症患者との比較も報告されており、 脳血管性認知症でよりホモシステイン値が高かった 108)。
しかしながら、このような横断調査の結果は必ずしもホモシステイン自体が認知症発症または認知機能低下の要因であるとは限らない。前向きコホート研究のメタ・アナリシスの報告は二つあり、一つは 4 研究(n=2,631)を解析したものであるが、2 年間の観察期間中の認知機能の低下と登録時のホモシステイン濃度とは有意な関係を見いだせていない 108)。しかし、もう一つの前向き研究メタ・アナリシスは、8 研究を解析し、延べ 8,669 人(年齢 47~81 歳)を対象としており(観察期間の中間値は 5 年)、ホモシステイン血中濃度が高いと認知症発症のリスクが統計上有意に増加すると報告している 109)。

109
背景:前向きコホート研究は、血清ホモシステインと認知症の関連を示すことに一貫性がありません。

目的:血清ホモシステインと認知症の関係を調べたコホート研究のメタ分析を実施し、血清ホモシステインの単位変化に対する認知症のリスクの変化を推定すること。

方法:認知症の発生率に関する血清ホモシステインの8つのコホート研究(8,669人の参加者、平均年齢の範囲、47-81歳、研究期間の中央値、5年)のデータを組み合わせ、5μmolあたりの認知症のオッズ比 / L血清ホモシステインの増加を測定した。

結果:血清ホモシステインと認知症の発生率との間に統計的に有意な関連がありました:血清ホモシステインの5μmol/ L増加のオッズ比は1.35(95%信頼区間、1.02-1.79)または1.50(1.13-2.00)に調整されました 回帰希釈バイアス。 血清ホモシステインの3μmol/ L減少のオッズ比(葉酸とB12を使用して予測される平均減少)は0.78(0.66-0.93)でした。

結論:疫学的コホート研究のメタ分析は、血清ホモシステインと認知症の間に正の関連があることを示しています。 結果は原因と結果の証拠を提供しませんが、関係が因果関係であった場合の予想される影響の推定を提供します。 葉酸とB12による治療により、認知症のリスクが約20%減少します。

以上のように、ホモシステイン濃度と認知機能低下並びに認知症発症 に関連する前向き研究は、必ずしも一致した見解には至っておらず、更なるデータの蓄積が求められる。

一方、ビタミン B12 や葉酸と認知機能との関連は、これらのビタミン欠乏により上昇するホモシステイン濃度との関連で調査・研究が進められてきた。横断研究、症例対照研究では認知症とこれらのビタミン濃度との関連が種々報告されてきたが、一定の関連性を見いだすには至っていない。 さらに、これらのビタミンによる介入研究も幾つか実施され、メタ・アナリシスも幾つか報告されている。葉酸介入の八つのランダム化比較試験(RCT)のメタ・アナリシスが報告され、そのうち4 試験は健康な高齢者への介入、残りの 4 試験は軽度から中等度の認知機能障害または認知症患 者への介入試験である 110)。健康な高齢者への葉酸投与(ビタミン B12 の同時添加の有無にかかわ らず)は認知機能への影響はなかった。しかし、一つの RCT でホモシステインが高値の高齢者へ 800μg/日の葉酸を 3 年間投与したところ、投与しなかった対照に比較し有意に良好な認知機能で あったとの報告がある 111)。

また、認知機能障害を抱える対象者への介入 4 試験の中で、アルツハイマー病への cholinesterase inhibitor 投与中に葉酸(1 mg/日)投与により手段的 ADL が著しく 改善したとの報告が一つ存在する 112)。しかし、認知機能自体はプラセボと差を認めていない。それ以外では葉酸投与の(ビタミン B12 の同時添加の有無にかかわらず)認知機能改善を証明できた 報告はない。
したがって、今の段階では健康な高齢者においても認知機能障害を持つ高齢者におい ても、葉酸投与の認知機能改善への効果は否定的である。
一方、ビタミン B12 投与による認知機能への効果を検証した RCT も複数存在し、メタ・アナリ シスも報告されている 113)。これによると、ビタミン B12 欠乏を認める認知症または認知機能障害 に対してのビタミン B12 投与の三つの報告が解析されたが、その認知機能に対する効果は有意なも のではなかったと結論づけている。同様にビタミン B6 に関する介入研究でも、認知機能への関与 を認める報告は乏しい 114)。
軽度認知機能障害(MCI)を対象とし、ビタミン(葉酸、ビタミン B12、ビタミン B6)投与によ る 2 年間の観察による大脳萎縮への効果を見た RCT 研究が一つ存在し、これらのビタミン投与に より投与されていないコントロール群と比較し大脳萎縮(特に灰白質)の進行を有意に抑制するとの報告が存在する 115)。

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