自分の感情を可視化する怖さ
最近本を読むペースが落ちた。
他にもやりたいことがたくさんあるので
本を読むのに割く時間が減ったのが
一番の要因である。
だが、本を読むのを辞めるつもりはない。
なぜなら読みたい本が溢れているからである。
もちろん読みたい本には本屋でも出会う。
しかし、最近はここnoteで読みたい本に
出会うことが多い。
本のレビュー記事を読んで、
興味を持った本がとても多く
ここ最近では面白そうと思った瞬間に
記事に貼られたリンクからポチっている。
そんな中、先日ようこさんが書かれた記事で
紹介されていたこの本を読んだ。
一時辻村美月さんの作品にハマって
一通り読んでいたのだが、
最近の本は完全にノーマークであった。
この物語は主人公西澤架の婚約者である坂庭真実が
ある日忽然と行方不明になることから始まり
そこから彼女の行方を探す架は真実の過去と
秘密を知っていくという話である。
行方不明の人を探していくような小説は
過去にも何冊か読んだことがあるので、
私は彼女の過去に何か重大な秘密が
あるのではないかと考えながら読み進めていた。
確かに後半には大きな秘密が一つ
隠れてはいたのだが、
それを除けば架が見つけた真実の過去は
一見すると大したことのないエピソードばかりであった。
にもかかわらず、読みながら私は
何度も鳥肌が立った。
それはなぜか。
人が人を選ぶというプロセスが
恐ろしいぐらい言語化されていたからである。
この本のタイトルである「傲慢と善良」は
比較的前半のほうに出てくる言葉であり、
真実が婚活をし始めた頃に関わった人から
発せられたものである。
真実は結婚相手を探す色んな出会いの中で
上手くいかない経験をする。
そして、その上手くいかない理由を
考えていくと、そこにはいつも「傲慢と善良」という
言葉が根を張っていたのである。
私は意図して婚活をした経験はない。
何となく結婚してもいいかな?というタイミングで
妻に出会い付き合って結婚したが、
相手を選ぶプロセスについて深く考えたことはなかった。
恐らくこの話の主人公である架も
これまで色んな人と付き合っていく中で
その人を選んだ理由について考えたことなど
一度もなかったであろう。
だが、架は婚活をすることになり
とあることに苦しめられることになる。
それはようこさんが記事でも取り上げられていた
「ピンとこない」ということである。
決して条件的に悪いわけではないのに
なぜだかピンとこない。
それは自分が悪いのか、一体誰ならばピンとくるのか。
そう考えた時に心の中に
傲慢と善良が居座っていることに気が付く。
そして、それゆえにさらに苦しくなってしまう。
架は真実の過去を調べる中で
真実が経験してきた婚活の苦しみ、
そしてその根底に眠る傲慢と善良の存在に気づき、
同時に自分が婚活を通してピンとこなかった理由に
気が付いた。
先ほども書いたように私は意図して婚活は
してこなかったが、
相手を選ぶプロセスの中を思い返してみると
間違いなく架や真実と同じように
傲慢と善良が渦巻いていたと思う。
映画などでは恋愛をして結婚するまでの過程を
明るい背景で描かれることが多いが、
自分が結婚するまでの過程を思い返したとき、
単に明るいだけの色ではなかったと思う。
色んな色が混ざり不安のような妙な気持ちが
あったような気がするのだ。
このようなことを書くと妙に思われるかもしれないが、
これは私だけに限ったことではないと思う。
よほど「ビビビ」ときて即時に
結婚を決意したケースでない限り
多くの人が結婚するまでのプロセスの中で
何かしら不安などの暗い感情を抱いたはずである。
私はこの本を読むまで
その感情が一体何だったのかを考えたことがなかった。
だが、この本に書かれていた内容は
驚くほど渦巻く色んな感情が言語化されていた。
この本を読んで何度も鳥肌が立ったと書いたが、
それは自分がかつて感じていた複雑な感情を
直視してしまったからではないだろうか。
これまで言語化できていなかった感情が
この本により言語化されて、
自分の中に眠る傲慢と善良をまざまざと見せつけられる。
その恐ろしさに私は鳥肌が立ってしまったのだ。
読んで鳥肌が立つ小説に時々出会うことがあるが、
それはこの作品と同じように
これまで言語化できていなかった自分の感情が
可視化されたことに対する恐ろしさだったのではないか。
そう考えると、もう一度それらの作品を
読み返してみたくなった。
今年の9月にこの作品が映画化されるようであるが、
自分の感情に向き合いながら読み進められる本のほうを
私はオススメしたい。
よく周りから読むのが早いと言われる私も
この作品は読むのにとても時間がかかってしまった。
それはまさに自分の感情と照らし合わせていたからであろう。
映画という限られた時間ではなく
一度じっくりと本書を読んでみてはいかがだろうか。
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