シゴトトシゴ

昨日は昼前から出張に出ていたので
食事をどこで取ろうかを考えていた。

午後からの出張先は駅から歩いて20分ほど。

その道のりに何か飲食店があればいいのだが
前回行った時に何かあったような記憶もない。

とは言え、事前に調べて飲食店があったとしても
食事をするために遠回りするのも
時間はもったいない。

こうなれば最悪食べれなくても
ダイエットになったと思えばいいので
とりあえず向かうことにした。

最寄り駅に到着し、目的地に向かって歩く。

すると、目的地の近くの幹線道路に
チェーンではあるが私の好きなラーメン屋が
あるのを発見した。

まさかここで出会えるとは思っていなかったので
なんだか得した気分で暖簾をくぐった。

幹線道路沿いの店なので店舗はかなり広く
オシャレな内装である。

お一人様にとってはそれだけでも少し気後れしてしまう。

だが、このチェーンのラーメンは独身時代に
あまりにもよく食べたので、
勝手はよくわかっている。

店内中央に設置された一人客用のカウンター席に座り、
私は店員さんに注文を伝えた。

私が店に入ったのは13:00頃だったので
店はピークを過ぎた後だったのかもしれないが
店の中は空いており、
半分ぐらいの席が空いている状態であった。

久々にこの店に入ったので
私はメニューを見ながら待っていたのだが
どうも私の後ろ側から女性会話が聞こえるのが
少し気になっていた。

ラーメン屋なので他の客の声なのかと
意識せずにいようと思ったのだが、
ふとあることに気が付いた。

店に入ったときに見た限り、
店内に女性の客はいなかったのだ。

ということは、この話声の正体は誰かと
そっと振り返ってみると
店員同士が話をしているところであった。

その姿を見ていると私の中で
ふとある思い出が浮かんできた。

私は学生時代に2年半ほど焼き鳥屋で
アルバイトをしていた。

その店は小さな店だったので、
キッチンもホールも両方していたのだが
その際に、店員同士の私語については
色んな議論があった。

私はお客様が店内にいるときには
私語は慎むべきだと考えていたので、
そのような状況では自ら話すことはしなかったし、
話しかけられても小声で短く終えるように
心掛けていた。

ところが、同じアルバイトの先輩である
Fさんはそうは考えないタイプらしく、
店がヒマになるとよく他のバイトと
話をしていた。

ある日のこと、その日は悪天候のせいか
驚くほどお客さんが来ず、暇な日であった。

とは言え全く0というわけではなく、
常連さんが常に1人か2人いる状態である。

先ほども書いたように私は
お客様がいる限り私語はすべきでないと
考えていたので、
このシチュエーションでも私は黙って
黙々と作業をしていた。

ところが、ホール担当だったFさんは
暇で仕方がないらしく、
キッチンで作業をする私にしきりに
話しかけてきたのだ。

小声でサッと応答する私のことは
お構いなしに話しかけるFさん。

しばらくそんな状況が続いていた時、
店長がおもむろに出てきて、
Fさんに私語をやめるよう言った。

すると、Fさんはあろうことか逆ギレして
「じゃあ、何したらいいんっすか?」
と強い口調で店長に聞いたのだ。

確かにFさんは私語はしていたものの、
自分がホールスタッフとしてすべきことは
ちゃんとこなしていた。

翌日の仕事に向けた補充もぬかりなくしていたし
客席の清掃なども済ませていた。

店長に対してそのような言い方をするのは
いかがなものかと思う反面、
私はこの時妙にFさんの反論が間違っていない気がした。

もちろんFさんも暇なので何かすべきことはないかと
事前に店長に問いかけるぐらいのことは
できたはずであるが、
正直私はこの時Fさんの気持ちがとても分かる気がしたのだ。

反論が来ると思っていなかった店長は
「じゃあ、〇〇と〇〇をしておいて」と
具体的な指示を出してその場は収まったのだが
私の中で業務中の私語に対する疑問が
この時生まれた。

ところが、それからほどなくして私は
大学で研究をするためにそのアルバイトをやめて
飲食店で仕事をする機会がなくなった。

そして社会人になり、数年したあと
私はマレーシアに赴任をすることになる。

私にとって初めての海外であったが
当初は本当にカルチャーショックだらけであった。

平気で時間に遅れたり、工場で仕事中に寝たり
スーパーのレジで長蛇の列ができても
他の店員は見て見ぬふりをしていたり、
日本では考えられないことを沢山目にして、
当初はイライラしていたのだが、
徐々にそれも一つの考え方であることに気が付いた。

そんなマレーシアでは飲食店に入っても
店員が私語をしていることは当たり前であった。

何なら接客をしながらも、ホールで堂々と携帯をイジり
画面を凝視しているなんてことも当たり前である。

そんな国で3年間を過ごして私は
自分の中にある価値観がとても偏っていることに
気が付いた。

そして、それから10年以上経って
私は飲食店で従業員が私語を交わす現場に
遭遇したのだ。

最初、それに気が付いたとき
何となく学生時代の感覚が先行して
嫌な気持ちが出てきていた。

「お客さんの前で私語はやめろよ」という
気持ちが心の中に出てきたのだ。

ところが、それはあくまで私の価値観である。

店の店長や店員の価値観ではない。

あくまで私はこの店に偶然立ち寄り、
対価としてお金は払うものの
食事をさせて頂く立場なのである。

郷に入っては郷に従え。

というわけではないのだろうが

彼らの価値観に私が違和感を持つ必要はない。

このエピソードに出会うことで
結果として私はFさんとの思い出や
マレーシアでの思い出を思い出すことができた。

私たちは日々色んな経験をして、
価値観を少しずつ変化させる生き物だが、
過去を振り返りその変化を感じることができるのは
とても面白いことである。

ラーメンの味もさることながら
とても貴重な昼休みの時間を頂いた昨日であった。


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