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グリーン車の価値が分かった話

「どんなところでも集中できます」

かつての私はそんな風に思っていた。

本を読むにしても勉強をするにしても
どんな環境でもできる自信があったからである。

社員旅行のワイワイガヤガヤうるさいバスの中で
ちょうど読んでいた小説がいいところだったので
小一時間ほど読み切ったこともあるし、
20冊以上書いたKindleは90%ほどが
電車の中で書かれたほどである。

自分には集中する力があると
勝手に思い込んでいたのだが、
どうもここ最近それが急激に苦手になってきた。

妙に余計な音が気になるようになったのである。

少し前に耳を患ったことがあり、
音が極めて聞こえにくい環境となった。

そのときから妙に音に意識が向くようになったのか
うるさい環境で集中しようとすると
音に意識を奪われるようになったのである。

本を読んでいても7割ぐらいの
集中力で読んでいる感じになり、
難しい内容の本は読み返すことが増えた。

せっかくどこでも集中できることが
自分の取り柄だったのに
非常に惜しい気はするが、
こればかりはどうしようもない。

そんな中、昨日東京に出張した。

私が住む街から東京までは3時間ちょっとの
道のりである。

新幹線に乗っている間は席に座りっぱなしなので
私はまとまった時間を使うことができる。

この時間を何に使おうかと考えながら
準備をしていたのだが、
よく考えてみると音が気になるようになってから
初めての新幹線での出張だったので
何ができて何ができないかわからないことに
気が付いた。

そこで、今勉強している英語の本と
読みかけの本3冊をカバンに入れ
新幹線に乗り込んだ。

往路の新幹線はほぼ満席だったのと
乗り込んだ時点から疲労感が残っていたので
私は1時間半ほど眠り、それ以外は本を読むことにした。

いざ本を読んでみると思ったよりも
集中できる感じである。

やはり新幹線の中は会話をする人も少なく、
余計なノイズが少ないためか集中することが
できるらしい。

これはとても時間を有意義に使えそうである。

だが、そこから英語学習に切り替えてみると
周りの人がパソコンをタイピングする
カタカタという音と、
駅に停まる度に人が乗降する音が
何となく気になり始めた。

名古屋→新横浜の区間は全く停車しなかったので
集中することができたのだが、
その区間を超えると乗降する人が増え、
間もなく駅に到着するというアナウンスが流れると
通路に多くの人がずらっと並び始める。

そして、ドアが開くとぞろぞろと人が降りて
新たな人が入ってくる。

案外この音が気になってしまうのである。

結局新幹線の中では通過区間以外は軽い読書が限界、
そんな風に私の中で結論付け往路を終えた。

そこから都内で2件の商談を行い、
午後17時過ぎに帰路につくことになった。

2件目の案件がいつ終わるか予想しにくかったため、
終了してから慌てて新幹線を予約したのだが、
新幹線を選ぼうとすると
今残っているポイントでグリーン車に無料アップデートが
できると表示されていた。

このポイントも期限があり、近いうちに失効してしまうものが
一部あったので、
私はこの機会にグリーン車で移動することにした。

例の感染症が広がる前にはしばしば東京に
出張に行く機会があったので、
その頃には時々グリーン車にアップデートして
移動していた。

なので数年ぶりのグリーン車移動になったわけである。

だが、当時の私はグリーン車に対して
あまり特別な印象を持っていなかった。

座席が広くて、席に着くと濡れたおしぼりを
もらえる以外には、特にメリットがないような
気がしていたからである。

そんな気持ちを抱えながら、
私はグリーン車に乗り込んだ。

久々に乗り込んでみて驚いたのは
床がカーペット敷になっていて
とても踏み心地が快適になっていることであった。

以前からそうだったのだろうが、
過去の私は床など見ていなかったらしい。

座席につくと、ほどなくして乗務員の方が
例のおしぼりを持ってきてくれ、
移動が始まった。

夕方の新幹線なので普通座席の乗車率は
かなり高かったようであるが、
グリーン車の方は最大で7割程度の乗車率。

いざ移動が始まってみて私はあることに
気が付いた。

グリーン車は驚くほど騒音が少ないのである。

この時間の普通車ならば、間違いなくパソコンを
カタカタ鳴らすビジネスマンであふれているはずである。

また、ビールを開ける「プシュ」という音や
それに伴って聞こえてくる会話の声、
そして乗降の度に聞こえる人の足音。

これらがグリーン車では驚くほど少ないのである。

もちろん床がカーペット敷になっているので
その影響で音がしにくいのもあるだろうが、
明らかに乗っている人の動きも普通車とは
異なっている気がした。

それはまるでお互いに騒音に気を付けましょうという
暗黙の結界がはられているような
そんな雰囲気が漂っているのである。

私は往路と同じように当初本を読んでいたのだが、
この環境ならと思い英語学習に切り替えると
驚くほど集中して取り組むことができた。

結局3時間少しの移動のうち2時間半ほどは
この学習に充てることができ、
とても満足のいく移動になった。

数年前はわからなかったグリーン車の魅力が
今になって分かったことに
私は何だか自分が成長したような気がして
嬉しかった。

歳を重ねるとはできないことが増えるとともに、
逆にそれ故に気が付けることも増えるらしい。

歳をとることをネガティブに捉えがちだったが
こう思うと、何だかそれも悪くない気がする。

当然コストがかかるのでいつもグリーン車に
乗ることはできないだろうが、
時には自分への投資として
自腹でアップデートしてみようと思う。

ちなみに東海道新幹線の中のワゴン販売が
今年の10月末を持って終了すると
社内でアナウンスがされていた。

有名なカチコチのアイスクリームは
もう食べることができないのかと思うと
何だか名残惜しい気もする。


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