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「行政(政策)×デザイン」の試みは、なぜ成功して失敗したのか (2/4)

2017年7月から2019年夏頃までオーガナイザーとして動いていた「Policy Lab. Shiga」という滋賀県職員若手有志の取組みと顛末を、あくまで個人的な動機や思いに基づいて言語化する試みの、その第2回目(本記事中の写真はすべて http://policylab.shiga.jp/ から)。

前回の記事については下記参照されたい。

Policy Lab. Shiga は業務外非公式という形態で活動をしていた。なのでよく庁内では「遊び」の活動と誤解する人が多かったのだけど、むしろ逆で、個人的には Policy Lab. Shiga を公的な組織に位置づけさせていくことを夢見ていた。

そもそも業務外非公式という形態をとった理由は、県組織で然るべき部署に提案をして事業にあげてもらって人事課を巻き込んで、、、等という大仰で回りくどいプロセスを経るよりも、まずは自分たちのルールで勝手に実績・実証した方が「行政×デザイン」の価値をより十分に見出せると考えたからだ。業務をしていると何やら発生してしまう行政ならではの意思決定スピードの遅さや制約を最大限取っ払ったらどうなるのか、その姿を庁内外の人たちに見てもらうことで、組織や政策形成の在り方について何かしらの問題提起ができるのではと思った。

ただ特に教科書があるわけでもなかったので、とにかく動機となった UX SHIGA や Startup Weekend Shiga の経験を通じてベターだと思ったプロセスを自然に積んでいけば、何か見えるものがあるだろうと、失敗すればすぐ撤退すればいいしと、それくらいの薄っぺらい勝算で動いていた。

Policy Lab. Shiga は具体的に「トレーニング」「ロールプレイ」「提言」「行政への反映」という4つのフェーズを経た。結論的には4つめで盛大に転けたのだけど、この記事では3つめまでのアクションをオーガナイザーとしての視点で振り返ってみる。

1. トレーニング(2017年7月)

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2017年7月、そもそも庁内で「デザイン思考」を理解してくれる人もいないなかで無理やり人が集まって実践するのは不可能だと思ったので、まずは1ヶ月のトレーニングを実施し、デザイン思考の活用を面白いと感じてくれるコアなコミュニティを形成することを試みた。

まずトレーニングは毎週末の定時後、本庁内の多目的室で開催した。UX デザインやサービスデザインの経験のある庁外の知り合いにコーチになってもらい、ある程度のエッセンス的なものを簡単なワークショップ&宿題を通じて掴んでもらえるような場にした。当時の記録は Policy Lab. Shiga のウェブサイトに掲載している。

日々の仕事で忙しいなか4週連続でがっつり来てくれる人なんてそうそういないと思っていたので、前半1回、後半1回参加すればある程度趣旨が理解できるような内容にした。正直5人も集まればいいだろうと思っていたのだけど、Facebook の投稿が県職員の間で口コミとして広がったのか、結果的に21人もの参加者が集まった。まずここで作られたコミュニティが全ての土台になっていた。

2. ロールプレイ(2017年9月–2018年7月)

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トレーニング終了後、この1ヶ月で学んだことをどう実践するのかを話し合った結果、ちょうど並行して県庁で進んでいた次期「滋賀県基本構想」をもしデザイン思考を活用して一部補完してみたらどうなるかを、ロールプレイ的にやってみることになった。

滋賀県基本構想が「2030年の滋賀県の姿」を描きバックキャスティングするというマクロな政策アプローチだったので、当方では「滋賀に暮らす○○さんの2030年」を描く、いわばミクロな政策アプローチを模索した。また、滋賀県基本構想と同じタイミングで新しい滋賀県行政経営方針が策定されることも知っていたので、その行政経営方針にデザイン思考というかミクロな政策形成の必要性を訴えられるようアクションしようと考えた

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この「滋賀に暮らす○○さん」というのは、あくまでメンバーが個人的に幸せにしたいと思う人に絞ってよいことにした。時間や人数も限られているなかで滋賀県全体を無理に網羅しようとするよりは、参加者自身の動機だけに寄り添ったほうが正しいと考えたからだ。Startup Weekend の1日目と同様「この指とまれ」方式でチームを形成し、複数のチームで自由にリサーチを試みた。

リサーチの過程では各チームの運営に自分はタッチせず、下記の「Do Not」だけを伝え、それ以外はトレーニングで学んだことを踏まえていれば基本的に何をしてもいいことにした。中には自分たちで活動資金を得るチームもあったし、NPO等とタイアップを組んでリサーチを試みるチームもあった。

・一人だけでリサーチしたり整理しない
・リサーチ対象に迷惑をかけない
・リーダーだけは無責任にやめない

しかしトレーニングを積んだとはいえたった1ヶ月のしかも業務時間外の片手間だったので、メンバーもデザイン思考うんぬんについて確固たるノウハウがあるわけではない。チームがリサーチの過程で迷子になることも十分ありうる。そんな状態で誰か声の大きい部外者や役職者が入り込んでデザイン思考自体を否定しにかかってくれば、ロールプレイ自体全部吹き飛んでしまう恐れもあった。

そこで、各チームがある程度デザイン思考に対して理解のある外部の人たちから定期的なフィードバックを得られる機会を作れたらと考えた。そこで Policy Lab. Shiga のアクションに共感をしてもらえていた周囲の知り合いをお誘いし、コーチングではなくメンター的に会話ができる場を「定例会」として開くことにした。

この定例会はセミクローズ(招待制)だったのだけど、その内容はできるだけ数日以内に書き起こしをしてサイトにアップし、リアルタイムで公に状況を晒しておくことで、自分たちのやっていることが的を外していないか、必要に応じていつでも軌道修正できるよう、誰でも活動の様子をウォッチできるようにしておいた

この定例会でのフィードバックが、都度チームの活動に対する軌道修正を担ってくれていた。自分もマネージャーというよりファシリテーター的な役割でいられたので、困ったときの相談役でいられたのかなと思う。

こうして半年のリサーチを経て、「滋賀に暮らす○○さん」のペルソナを各チーム描き、インサイトを立てた。ただここで得られたインサイトはあくまで仮説に過ぎないので、この仮説を検証し、必要であればピボットするなりして、アイデアを創発し続けるための「アイデアソン」を、残りの期間で設けた。

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これまでの定例会はセミクローズにしていたのだけど、ペルソナ(仮説)さえ立てれば全体のロールプレイが崩壊することもないだろうと判断し、アイデアソンの参加についてはフルオープンとし、新聞告知(前パブ)までして広く募ることにした。

フルオープンにしたことで却って迷子になってしまったチームもあったのだけど、「そもそも行政だけでソリューションをつくる必要はないよね」とか「こういう人たちが関わればもっと⚪︎⚪︎さんを幸せにできるよね」という、いわば共創に対する共通理解みたいなものが形成されていった

アイデアソン自体は面白かったのだけど、肝心のアイデアを形(ビジネスであったり政策であったり)に落とし込むところが弱く、宙ぶらりんのままタイムオーバーとなってしまった。最終的に各チームで導いた「私たちが幸せにしたい○○さんの2030年」は9コマシナリオで描いたものの、正直しりすぼみになってしまったなと悔やんでいる。

3. 提言(2018年8月)

とはいいつつ、我々がこの1年のロールプレイで学んだことは大きく、当初描こうとしていたデザイン思考というかミクロな政策形成の必要性について、2018年8月末、知事への提言としてまとめることができた。

提言書は、内容以上にとにかく県職員有志の思いの強さを形にして勢いをつけることが重要と思ったので、メンバー全員が納得できるものにする必要があった。メンバーの間でも提言の方向性については考えの違いがあり(特にどこまで批判的に書くかという視点)、そのすり合わせに難航したのだけど、数名のメンバーが中心になってイラストレーターやライターの人と一緒に毎日深夜まであーでもないこーでもないと構成やイメージを直しあったり、LINEグループやメッセンジャー等を通じてメンバー全員が納得できる表現にすり合わせてくれたおかげで、すごくきれいにまとまった。

提言の過程で知ったのだけど、いつの間にか提言メンバーらはプライベートでも関係が深まっていたようで、知らないうちに Policy Lab. Shiga 以外のいろんな活動にみんなで関わっていたらしい。そういうアクティブでフラットな関係が最終的にここまでの提言にたどり着かせてくれたのだろうと思う。

提言はウェブや報道機関に公表はしたものの肝心の知事に直接届けることができず、発表時当初は秘書課に手渡しただけだったのだけど、2ヶ月あまりが過ぎたタイミングで「知事と話そう!職員座談会」という枠が設けられたことを受けて、その第1弾という形でなんとか知事と直接話をすることができた。その結果を踏まえて提言メンバーらが各部署へ何か一緒にできないか話を持ちかけに行き、その調整の結果、なんとか「行政への反映」というフェーズへ持ち込むことができた。

こうして振り返ると、提言までのアクションはいわば「実験行政」的なものだったのだと思う。そこで次の記事では、ここまでの話から、通常の行政の組織や働き方と何がどう違ったのかを整理する。