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D2Cブランドは破壊者か創造者か

D2Cの一時的な過熱感も落ち着きつつあり、"あれ、これD2Cと言っているけどただのECじゃない?"みたいな冷静な声も聞くようになった。
将来的にD2Cを展開、というキーワードもよく聞くけれど、やはり在庫を持つとなるとwebサービスとは全く違う変数が出てくるので、面白さとともに難しさも生じる。盛り上がることは良いことだけど、ブーム化すると廃れるのも早くなる。
そんなD2Cについての考察はこちら↓
D2Cという幻想

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さて、Disrupt(破壊)という言葉はスタートアップ業界にいるとよく聞く。
UBERはタクシー業界を、airbnbはホテル業界をDisruptした、など。
ユニコーン企業は何かしらの業界をDisruptしていると言っても良いかもしれない。D2Cブランドの破壊性について考えてみようと思う。

これまで何回か言及してきたけれど、D2Cブランドの雄、WarbyParkerは業界のDisruptor(破壊者)といって良いだろう。一社により寡占されていて、価格をコントロールされていた米国メガネ業界において、低価格を武器に直販モデルで業界をDisruptした。ここで、単にメーカーとしてメガネを作り、小売店で販売していた場合、マージンによって低価格を実現できていなかったし、そもそも小売チャネルのメガネ専門店が寡占企業によって保有されていたので価格コントロールが難しく、結果として"直販"することがマストだった。

同様に、Dollar Shave ClubはGilletteによって独占されていたカミソリ業界を、低価格×サブスクモデルでDisruptした。小売の棚をほぼ独占していたGilletteが"不当に"高い価格でカミソリを販売していたため、そこに機会を見出した。

もちろん、ただ低価格なだけだったらそれほど破壊的ではなかった。WarbyParkerはGQへのPRや図書館を活用したゲリラ的なマーケティングなどで、DSCはファウンダーのYoutube動画によってブランディングに成功し、既存業界にインパクトを与えるレベルになった。D2Cはプロダクトはもちろんだけど、ブランディングやマーケティング要素がかなり重要になる。
海外の誰かが言っていたのだけど、

Dollar Shave ClubのファウンダーのMichaelの顔はみんな知っているけど、Gilletteの社長の顔を知っている人はいないよね。

というのが本質的で、ただ単に、質が高くて安いカミソリをサブスクモデルで販売していても成功していなかっただろう。D2Cならではの創業ストーリーやファウンダーの想いがブランディングのためにも必要だ。

他には、コンタクトレンズのHubbleも破壊的。1 dayのコンタクトレンズは高いものが多いが、いかにも原価は低そうで、破壊のしがいがあるカテゴリと言える。必要なものなので買うけれど、買うときに毎回”高いよなー”と思いながら買ってるものなんかはDisruptのチャンスがあるカテゴリかもしれない。長年高くて当然と思われてきたカテゴリなので、単に安価なものを出すと、安かろう悪かろう、というイメージになってしまうので、マーケもセットで考える必要がある。

また、プロダクトそのものだけではなく、別のアプローチでDisruptiveなポジションを取っているプレーヤーとしてはEverlaneが思い浮かぶ。正直品質的には日本のSPAブランドの方が勝っている気がするが、D2Cならではの直販であることを活用し、商品の原価をすべて公表してしまっている。単に、原価を公表しました、というだけではなく、Radical Transparency(徹底的な透明性)をブランドの軸として、それを体現する一つの方法として、本来ブラックボックスであった原価をすべて公表するというアプローチを取った。業界の他のプレーヤーからしたら”やめてくれ”という感じだ。単に「中間流通を中抜きするので安くできます」、ではなく、「それによっていくらで提供できます、なぜなら原価これくらいで中間マージンかからないので」、まで言っていることで破壊的だ。

Brandlessも日用品という幅広い分野でDisruptを試みている。きっかけは、ファウンダーがWholeFoodsでトマトソースを買ったときに12ドルくらいして、高い!と感じたことらしい。(Brandlessは高品質な商品をだいたい3ドルで買えるが、なぜか、トマトソースは1ドル。)

ファウンダーのTina Sharkeyが講演で何度も”disrupt”と言っていたのが印象的だった。Brandlessは"Better stuff, fewer dollars. It's that simple."と言っているように、高品質な商品を中間事業者を排除して直販をすることで安価に提供することを試みている。Brandlessと言いつつ、すでに強力なブランドを築きつつある。

破壊的なD2Cブランドの例
・WP
・DSC
・Hubble
・everlane
・Blandless 等


すべてのD2Cブランドが業界をDisruptしているかというとそうでもなさそうと考えている。
例えば、Bonobosなんかは非常に新しい取り組みではあるけど、メンズアパレル業界を破壊したかというとそういうわけではなさそうだ。(そもそもアパレル業界は分散しているので、業界DisruptはEverlaneのようなアプローチでないと難しいとも言える。)
そんなにイケてるチノパンがなかったところに、サイズ感やカラーのバラエティが豊富で自分に合ったものが見つかる、というところから人気を集めた。SKUも多いため、ネットのみで販売していたが、ユーザーがオフィスに"試着したい"と勝手に来て、試着してネットで購入する、みたいなことが何度かあって、試着専用のリアル店舗を出店することになったらしい。
試着専門なので在庫を店舗にストックする必要ななく、それによって多くのSKUを店舗で持つことができ、試着スペースも多く取ることができている。
潜在的であったニーズ(チノパンのバラエティ、試着はしたいが購入はネットでOK)、を捉えて成長した。

WPやDSCのような破壊的なD2Cブランドは、どちらかというと、既存プレーヤーが自身のシェアやポジションを利用して高価に商品を販売していたところに、既存プレーヤーの枠にはまらないやり方で業界に切り込んだ。いわゆるクリステンセンの言うところのローエンド型の破壊的イノベーションに近い。(必ずしも質はローエンドではないけど、複雑化した既存プレーヤーのプロダクトに対し、シンプルに1つのバリューを追求しているという点でローエンドとも言えるんじゃないか。)

Gilletteからすると、DSCが出てきたときには、気にもならなかったのではないか。スーパーの棚はすべて抑えているし、ユーザーは高くてもうちの商品を買い続けるだろう、と。
一方で、DSCの存在感が増してきたときに、Gilletteがネットで安価なサブスクモデルで反撃するか、というとそれはかなりハードルが高い。そもそも高マージンの商品を捨てることになるし、最大の強みである小売とのコネクションが今回は最大の障壁となる。

これに対して、BonobosやサプリメントのRitualなんかは新市場型の破壊的イノベーションとも言えるかもしれない。潜在的なニーズで無消費だったところに、ニッチなニーズに答えるような形で参入している。
インスタ映えするサプリとして人気を集めているRitualの多くの顧客はサプリメントを利用していなかった顧客らしい。つまり競争激しいサプリメント市場においてゼロサムゲームをするのではなく、無消費からニーズを作り出して、従来サプリを買っていなかった人たち=新しい市場を創造している。Bonobosも豊富なバラエティがあることによって、従来よりも多種のパンツを買うことになり、市場を創造している可能性もある。
化粧品業界も分散しているため、破壊的というよりは新しい市場を創るプレーヤーが多そうだ。(当然、破壊的でさらに市場を創造するプレーヤーもいるし、市場を創造しつつ、既存プレーヤーのシェアを食っていくプレーヤーもいるが、ざっくり上記のように分類できそうだ。)

市場創造的なD2Cブランドの例
・Bonobos
・Ritual
・Glossier
・Peloton 等

つまり、D2Cブランドが既存業界をDisruptしているかというともちろんそういった破壊型のプレーヤーもいるが、どちらかというと市場創造型のプレーヤーもいる。どちらを目指すべきかで必要条件も変わってきそうだ。

破壊型を行う場合、
・既存プレーヤーと比較して安価に商品を提供できる理由があるか?
・既存プレーヤーが同じ方法で安価に商品を提供しようと思った場合にトレードオフが発生し、踏み込めない状況に陥るか?
・既存プレーヤーのような多くの資金がなくても、ソーシャルを活用してブランディングをできる要素があるか?
など

創造型を行う場合、
・現在は無消費だが潜在的なニーズを持つユーザーがいるか?
・既存プレーヤーと異なるポジショニングでのブランディングが可能か?
・潜在的ニーズを掘り起こすための強力な(ただしそれほどお金のかからない)マーケティングができるか?
など

日本のD2Cの場合、破壊型というよりは創造型の方が多そうな印象がある。
創造型の場合、難しいのが現在の無消費のユーザーの規模が読めないところで、結局やってみるしか無い。方法論を持てばある程度の規模までは成長させることができそうだが、最終的な事業規模は運に近いものがあり、ファウンダーがどれだけその市場を信じられるか、そして、信じてくれる仲間を見つけられるか、にかかっている。
当然、魅力的と思われる市場には多くのプレーヤーが参入してくる。そのときに、プロダクトが重要なのは間違いないが、基本的に生産はOEMであることが多く、そうなると最終的にはブランディング勝負になる。
そのときに、単にマーケに長けたプレーヤーが勝つか、創業者の想いの強いプレーヤーが勝つか、興味深い。海外のD2Cブランドでは、創業者の想いとプロダクト、マーケが一貫しているプレーヤーが勝ちきっている印象がある。D2Cはビジネスモデルの話とも言えるが、結局のところは、ファウンダーの想いや思想なのではないかと考えている。日本でも数年後に答え合わせができるんじゃないか。

 


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