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独り言多めの読書感想文(朝井リョウさん『スター』)



人の話を聞けない人がいる。そんな風に思ったことが、一度や二度あるはずだ。

人が話しているのに途中で自分の話にすり替えてしまう人、元々いる人達が何を話していようと関係なく、現れるなり自分の話を始める人。この現象はたぶん読書でも起きていて、いつの間にか、ちゃんと聞けてないのに話し始めるようになる。ブログ、というやつだ。読み進める内に引っ掛かりが増えるのは、単純にそれだけの年齢、経験を重ねた為。何も自分自身に劇的な変化があった訳じゃない。

自己啓発本が嫌いだ。散々読み漁ってきたが、結果的に残ったのは『林修の仕事原論』と『他者と働く(宇田川元一)』だけだ。中学の時、担任の先生が「進研ゼ🌑? やめとけ。あのマンガに騙されるな」と実体験を元に話していたが、そのくらいナンセンスだと言っていい。私にとってその類の本は『自分はできている前提の下に展開される理論』であり、他人に厳しく自分に甘い者にとっては『頭でっかちを促進するための栄養剤』でしかない。『足元グズグズなクセに正論を振りかざす人間』はこうして量産されるのだということを、私自身身をもって知った。

つらつら書いてきたが、今回この場で糾弾したいのはそんな「思い上がり」である。自分の目から自分は見えない。無意識の内に自分が他者を評価しているように、自分も他者から評価されている。そんな当たり前を徹底的に突き詰めていったらこの作品になる、というのが今回の前置き。……あ、思い出しました? ここ『独り言多めの読書感想文』会場です。タイトル見直しても間違ってませんよ。

「何者」を始め、「世にも奇妙な君物語(リア充裁判)」「ままならないから私とあなた」に分類される表題作。朝井リョウさんのすごい所は、読者の内側から物語を展開できることだ。

言語化するまで至らなかった、けれども確かに感じたことのある思い。それを丁寧に洗い出していく。イメージはさつまいも。掘り出した状態だとシルエットしか分からない。洗ってみて、半分に割ってみて「それ!」と分かるもの(『この汚ねぇのに身に覚えねぇの? オマエの内臓だよ』と闇の淵からのぞいているのは浅野いにおさん。私にとって似て非なる、どちらも好きな作家だ)だからきちんと共感できて、知らぬ間に主人公に成り代わっている。その上で、鮮やかな太刀筋で斬られる。突然のことに、斬られた側はすぐその事実を受け入れられない。戸惑いながら該当する一行目をもう一度目で追う。そうしてようやく理解する。不意打ち、裏切りはまるで身代わり。あわてておまわりさんを呼んだところで、物語を最後まで読み進めれば分かる。逮捕されるのは完全にこっちなのだ。

深く一つの物事を突き詰めて考え抜いたものを、自ら壊す。壊す為にその題材について考え抜く。そうしてそれをまた壊す。浮かぶのは笑いながら創造と破壊を繰り返す幼児。私も似たようなことをするが、圧倒的に一つ一つの要素が深い。しかもそれは誰もが通れない経路ではなく、ただ掘ったままのいもを放置していただけ。ただの怠惰だとと思い知らされ、そのことがたくやしくてたまらない。

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【参考:ドッグイヤーの数=自分語りをこらえた回数】


プロとアマの境界線。増えるサロンと潰れていく映画館。その「考え方が古い」として飲み込んできたやるせなさをキレイに洗い出し、割ってみせてから、目の前で投げ捨ててみせる。カッとなって振り上げたこぶしの行き場はない。投げ捨てた先で芽吹く命。振り上げたこぶしの行き場はない。その人が作品を残したのは何日も前のこと。今現在、目の前に実体が伴うはずがない。だから私は

この場において、その芽に水をやることを選んだ。ここに書いていること自体「有名な作家」の威を借りたただの散文に過ぎない。だからスキは最終全て原作者の元に集まるし、スかれなかったらスかれなかったで、スベらせてごめんなさいと潔く頭を下げなければならない。ここまで来ると半沢直樹もしくは小梅太夫顔負けの顔芸を披露する自信がある。何より、

ここにこれだけの時間を割かせる実力に腹が立つ。上手いのだ。上手いとしか言いようがない。全体的にストレスフルでやるせなさに苛まれる展開が続く分、一つの結論に辿り着いた時の爽快感と言ったらない。そう来たか、と。その答え(霧を晴らす方向性の提示)まで本当は自分で辿り着きたかった、と。でも経路こそ辿れても、ここまでは辿り着けなかった。

くやしいから、やるせないから、この思いを共有したくて書き残す。これは、この文章自体、私なりの作品紹介だ。話を戻そう。


人の話を聞けない人がいる。そんな風に思ったことが、一度や二度あるはずだ。

それ、



あなたのことだよ。




知ってるんだよね。noteは冒頭何文字かが紹介に載る。あなたは共感して入ってきた。その瞬間、誰かをそう評価したんだ。





ここまで読んでいただいてありがとうございました😊うれしい。

この作品の読者(ヒガイシャ)がもっともっと増えますように。心より願いを込めて。



……派生するなこれ。関連で何本か書くかも。ちっきしょー。







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