見出し画像

walk extremely slowly

東京に出てきた田舎の人間は歩く歩く歩くことになる。田舎では自動車、自転車なので、歩行量は圧倒的に少ない。だから東京での田舎人の歩き方を編み出さなければならない。大阪人、東京人特に東京人は高速歩行筋力が発達しており、田舎人はおいそれとついていけない。どうするか。場所を目指し意識してはならない。その階段を上がってとか、エスカレーター無いのかとか、また階段かとか、なんて速く歩くのかとか、意識してはならない。地下鉄通路のタイルを見よう。人々の表情を感じよう。人々の群れを感じよう。赤ちゃんや幼児たちのつぶらな目に浮かぶ問いかけを見よう。小学生たちの重いランドセルに空ろな表情に表情で頑張ってねと言おう。幼児と赤ちゃんを連れて疲れている若い母親にうなずき子どもたちに微笑んであげよう。田舎ではもうあまり出歩かない八十代のおばあさんの前でため息ついて、東京は疲れますねとテレパシーしよう。田舎では野山や雲や風や山々からエネルギーをいただくが、東京では、人々の、人間の大歩行運動からエネルギーをいただく。人間であり生きてゆく生き様を共有することが、東京人海発電なんだ。疲労、諦め、絶望の先にある無感覚、恐れ、不安そしてほんの少量の希望こそが、東京人力発電所だ。その発電に身をゆだねて、ことさらにゆっくり見渡しながら歩こう。あああれは田舎びとだな、とわかるように、空を見上げ、風を感じ、人間の人間たる所以を意識しながらことさらにwalk slowly、東京人たちに本当の歩き方を、いいなあの歩き方と、気づかせる。海士、山人、里人をもう一度、始めよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?