見出し画像

意志を形にする背中 -筑波大学のサッカー部にあるもの-

すぐに書こうと思ってたのに、書き始めるのに1年もかかってしまいました。かっこいい後輩たちの自慢です。

昨年、2022年の最初に観たサッカーの試合は、天皇杯でもJリーグでも、高校選手権でもなく、西が丘で行われた女子サッカーの大学選手権(インカレ、全国大会)の準決勝、筑波大学と早稲田大学のゲームだった。

筑波大学女子サッカー部にとって、自分が大学1年生の頃以来、数年ぶりになる全国ベスト4、インカレでの大学サッカーの聖地『西が丘』。1月4日、帰省を早々に切り上げて新幹線に乗った。

僕が学生時代に選手・コーチとして所属していた蹴球部(男子サッカー部)と女サカ(女子サッカー部)は別の体育会組織ではあるが、同じスポーツを同じグランドでやるので、当時から交流も関心もあったし、「先輩・後輩」という感覚もあった。

何よりこの年の4年生の代には、勝手に思い入れを抱いていた。


・・・


僕が大学院生として蹴球部のコーチをしているときに、1年生として入学してきた彼女たち。指導者として直接的に関わることはなかったけれど、当時僕が回していた地域と子どもたちへのサッカー普及活動で、彼女たちと関わることが多かった。

女サカのミーティングに呼ばれて1年生へ普及活動の説明をするところから始まり、イベントを一緒に作ったり、「なでしこクラス」という小学生の女の子たちでの定期練習会ではコーチを担ってもらったりした。そういう時、僕はグランドで活動全体のマネジメントをしたり、彼女たちの指導の様子を見ていて、振り返りを一緒にしたりする日々だった。

ある時、当時大学1年生だった子が「隼さん、ちょっと見てほしいんですけど」といってパソコンを持ってきた。たしか、子どもたちの合宿の空き時間だった。

「私、女サカがもっとこうなればいいなって思っていて」

と見せてくれたプレゼン資料には「魅力向上」の文字。

1年生でありながら、部に所属しての違和感や、自分なりの「こういうチームの一員でいたい」という思いがこもったスライド。自分たちをどう見られたいか、どう見せたいかということから、そのためのアクションまで、かなり粗削りだけど本気が伝わるものだった覚えがある。

上級生にプレゼンすることになるから、ということで相談してくれたらしい。今思うと、隣の部のOBでよく一緒に活動する先輩という僕のポジションは、ちょうどいい斜めの位置だったのかもしれない。

おぼろげに憶えているのは、「価値の向上」という言葉と「応援される存在」というような言葉だったと思う。そのために広報や、サッカーをプレーする以外のことも、やれることをもっとやりたいと。

気持ちのこもった資料だったと思うのだけど、その後「上手く話せませんでした…」と結果を教えてくれた気がする。

だけど、この時から芯の強い意志があったから、彼女たちは時間はかかってもひたむきに「こうありたい」を前に進めてきたのだと思う。

プレゼンを見せてくれた彼女は、4年生時には女サカの主務となってチームをまとめる存在になり、西が丘の舞台で選手としてもしっかりと出場する。


・・・

彼女たちが大学生活最後のシーズンで数年ぶりのインカレ(全国)ベスト4、西が丘への切符を手にしたと知って、彼女たちが1年生の頃のその記憶がふいに戻ってきた。

それ以降も僕がしたことなんて、たまに相談に乗ったことがあったかもというくらいで本当に何もないし、ゲームだってそんなに多くは観れていない。ただ、彼女たちは子どもたちとサッカーをするとき、いつも一生懸命だったことはよく覚えている。

普及の取り組みに「みんなで」という雰囲気が女サカ内でまだなかった(と僕は感じていた)頃に、1年生の頃から彼女たちの代がとても積極的に子どもたちと過ごしてくれたことは、確実に応援する人を増やしたと思う。なでしこクラスの人数はどんどん増えていたし、伝統的に運営しているつくばGKスクールのリーダーも、2021年は女サカの正GKが務めていたという。

彼女たちは自分たちの価値を高めようと取り組みを続け、応援してくれる人やサポートしてくれる人が増え、大会前には新しいユニフォームのサプライヤーまで得ていた。1年生の時に開設したInstagramの投稿は日に日に格好よくなり、それでいて身近さを保っていて、ファンの方やまだ見ぬ後輩が喜ぶであろう企画もある。

当然ピッチの外の話ばかりじゃなくて、必要だからとゲーム分析や映像編集の勉強もして、毎日必死にトレーニングして、プレーすることは当たり前に大事にしていたはず。そんなのを全部ひっくるめて、とにかく、とにかく「価値を高める」「魅力ある存在」を目指して、アグレッシブに行動に移していたんじゃないだろうか。


西が丘でプレーする姿を観ていると、あの時から持っていた意志の強さが行動を生んで、ちゃんとここまで繋がったんだということを感じさせてくれるようだった。意志を持ってひたむきに積み重ねていったものが道を開いて、ここに形となって表れている、そんな気になる。意志を形にする力を彼女たちに見た。

試合後に選手たちを囲む人たちの様子が、ひとつの証明だった。彼女たちが懸命に進んだ時間の中で、ぼくもちゃんとファンの一人になっている。

試合はこの大会を制することになる早稲田大学に敗れ、これが4年生にとって最後のゲームになった。ロッカーから外に出てくる頃には、泣いている後輩たちもいるなかで、4年生は笑顔だったのが印象的だった。プレーも、その後の振る舞いも、ひたむきで明るい強さがあった。

▲最後にプレーする姿をちゃんと観られてよかった。いまさらだけど、本当にお疲れ様でした。かっこよかったよ。ありがとう。

・・・

ここまでを書くのに(書き始めるのに)1年かかっているうちに、もう1つシーズンが過ぎ去ってしまった。

その4年生たちが卒業した2022シーズンは、なかなか苦しかったようでインカレ出場に手が届かなかった。同じシーズン、蹴球部もインカレは初戦で敗れている。

後輩たちにとって、思い描いた結果を得られなかったシーズンかもしれないが、大事な成果を残した1年でもあると思う。

僕らを育ててくれたサッカー場の芝を張り替える一大プロジェクトを蹴球部・女サカ共同で進め、1800万円を超える大きな寄付を得た。社会人である先輩たちの関わりは多くあったと思うけれど、現役生たちの頑張りが一番だと思っている。本当にありがとう。


自分の母校のことを書くとひどく手前味噌になるけれど、ここ筑波は「意志を形にできる場所」だと思う。

蹴球部の話になるが、自分が4年生の時に日本一になった。ただ、当時の4年生はほとんど試合に出てなくて、それでも自分たちにできることを自分たちの手でやろうと行動した。

その後、メディアにも取り上げられたゲーム分析をはじめとする取り組みも、後輩たちが頑張ったスポンサーを増やす取り組みも、ファン感謝祭をやろうとか、大学のサッカー場を満員にしたいという気持ちも、誰かが言い出し、それに仲間が呼応して形になった。


新しいトライが後押しされる土壌があるのだと思う。少なくとも僕らが卒業した頃よりずっと。


それでいて、結果が出ないシーズンだったと書いたけれど、

それでも女サカは皇后杯でなでしこリーグのチームを劇的に破り、蹴球部は終盤に追い上げてリーグ戦は3位に着地、新人戦では日本一を獲った。


意志の力は間違いなくある。
筑波の大先輩で現U-17サッカー日本代表監督の森山佳郎さんの有名な言葉にも「気持ちには引力がある」というものがある。

強く、芯のある意思を持ち続ければ道は開ける。あるいは、振り返った時にそこに道がある。意思が形になる瞬間がきっとやって来る。

現役時代の僕らがはっきり見せれたかどうかはわからないけど、きっとここで受け継がれているであろう「意志を形にする力」を、後輩たちが、そのまた後輩に背中で見せてくれているのだと思う。


今日は、自慢の後輩たちの話をしてみた。




▼サッカーやスポーツ関連のnoteをまとめているマガジンです。筑波大学のこともいくつか書いてます。


いつもサポートありがとうございます…! いつかお会いしてお礼を伝えたい! いただいたお金でジュースで乾杯したり、一緒にコーヒーを飲んだり、お酒と一緒に熱く語り合うことを思い浮かべてます。ぜひお付き合いください(笑) そして、コメント付のシェアも最高です!なんと無料です!