見出し画像

「PoCから先に進まない」を回避するために、スタートアップができること

アイデアや企画の実現可能性を確かめるために実施されるPoC(Proof of Concept)。概念実証とも訳され、具体的に形あるものの試作や、社外のユーザーや施設を巻き込んだ実験などが行われます。パートナー企業と組んでPoCに取り組めば、スタートアップ単体では実現不可能な検証も行えますが、他方で「PoCばかりで先に進まない」という話も耳にします。

企業と組んで何かを実施しただけ、という単発の試みで終わらないためのポイントについて、HAX Tokyoディレクターの市村慶信さんと岡島康憲さんに伺います。


PoCを目的にしてはいけない

岡島:前提として、今回は企業との共同研究のようなかたちで企業からお金をもらうことでPoCを行い収益を得る業態は除きます。自分達の技術やアイディアをもとに自社プロダクトを市場に提供し事業成長を目指すスタートアップに絞って話をします。

アクセラレーションプログラムなどが盛んになっていることもあり、スタートアップが企業と組んでPoCを始めることのハードル自体は下がっています。一方、PoCの目的が「検証」にあるにもかかわらずPoCを「やること」が目的になってしまい、何を検証したいかが不明確になるケースも出てきています。

私の元には「PoCを実施したが、この後はどうすれば良いのか?」という相談がスタートアップから寄せられることもあります。

市村:PoCをひたすら回し続けているだけでは、事業の成長に対して疑問符がつきます。「PoCの獲得=売上機会の増加」ではありませんし、いくらPoCの実績を並べても、投資家はそれが次のビジネスにどう繋がるかを気にするはず。PoCは資金調達や事業拡大のダイレクトな要因でないことに注意が必要です。

―― PoC止まりになってしまうことにはリスクがあるのですね。それでは、なぜそのような事態が起きてしまうのでしょうか。

岡島:オープンイノベーションブームに乗って、KPI達成のために「とりあえず」PoCに取り組んでいる企業もあるようです。そういった相手とのコミュニケーションでは、「何を作るか」という手段の議論が優先されて「何を検証するのか、なぜ作るのか」といった目的に関する議論が出てこないため、PoCを通じた取れ高についてスタートアップとの認識がすれ違ってしまうケースがよくあります。

市村:スタートアップとパートナー企業の間やりたいことや目的となる全体像を共有し、双方の事業におけるPoCの位置付けを明確にすることで、終わった後の具体的な「次の一歩」を見つけやすくなります。そうした進め方まで認識を擦り合わせできていなければ、PoCの次にはなかなか進めないでしょう。PoCを実施する以上、何のための概念(Concept)を検証(Proof)するかを明確にしておかなければいけません。

意味のあるPoCにするために、スタートアップができること

―― PoCの目標を明確にするために、スタートアップがすべきことはありますか?

岡島:スタートアップは自分達がプロダクトをローンチし、事業成長を目指す上で何がわかっていて、何がわかっていないかを常に整理しておく必要があります。わからないことを1個ずつ潰し、その上で気づいた「さらなる検証が必要なこと」を明らかにするため、目的を持ってPoCを提案できると良いですね。

たとえば小売店の現場での利用を想定したソリューションを開発する場合、技術検証を目的とするPoCであれば、製品が想定通りに動作するかを確かめるために、実店舗を持つ企業と協業し、現場での実地テストを行うべきでしょう。

一方で、そのソリューションが実際の小売店を抱える企業に導入してもらえるかを検証するPoCであれば、実地テストに加えてそれがビジネス面でどのような影響が出るのかを協業先となる企業からの情報をもとに検証する必要があります。

その上で、さらに具体的な進め方をイメージするためには、協業先から見ても魅力的なPoCにするための情報集めが必要です。協業の打診を行う前段階からIR情報や中長期の計画を調べたり、場合によっては担当者に直接ヒアリングしたりしながら、相手方が達成したいと考えている目標を探っていく。そうすることで、協業先とスタートアップ側とでそのPoCを通じて目指す取れ高について認識を合わせやすくなります。その結果、スタートアップからの一方的な提案にもならず、また協業先に振り回されるリスクも減っていくでしょう。

―― 相手の立場も踏まえた具体的な目的や進め方のイメージを持つことで、はじめて価値あるPoCを実践できるのですね。

岡島:しっかり準備できていたとしても、パートナーに委ねる部分や不確定要素がある以上、想定通りに進まない可能性はあります。仮に一社とのPoCが上手くいかなかったとしても、自分達のダメージが最小限になるような、次善のプランを用意しておくと良いでしょう。必ずしも綺麗な資料を用意する必要はなく、常に頭の片隅で考え続けておくことが重要です。

市村:スタートアップとしてのフットワークの軽さは活かすべきですが、あらかじめプランを立てていなければ、それはただの行き当たりばったりでしかありません。PoCを通じて得られるものを明確にしながら、うまくいかなかった場合の対策も同時に考えておく。こうした準備がとっさの臨機応変な対応につながります。

スタートアップ側でしっかり考えを持っていれば、具体的に欠けるPoCの提案を受けたときにも「次の流れはどうしますか?」「将来の取れ高の話をしましょう」と働きかけて、詳細を詰めていけるはず。慎重になりすぎてPoCにすら辿り着かない、なんてことにならないよう、日頃から大きな目線を持っておくことが大切だと思います。 

おすすめの関連記事


市村慶信(株式会社プロメテウス代表取締役 / 写真左)
法政大学社会学部卒業後、国内電機メーカーの半導体営業・企画部門にて営業として業務を通じて電子機器製造のサプライチェーンの理解を深めた。その後2007年から電子部品商社の経営企画部門に移り会社経営に従事。経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への経営支援や提案を実施。2014年に株式会社プロメテウスを創業。これまでの経験を活かし国内外で複数のベンチャー、広告代理店など、非メーカーのプロジェクトの立ち上げ・経営サポートを行っている。

岡島康憲(ファストセンシング株式会社 / 写真右)
自身が共同創業したハードウェアベンチャーの経営にも関わりつつ、国内ハードウェアスタートアップを中心に製品開発やビズデブを中心としたサポートをしている。
電気通信大学大学院修了後、ビッグローブ株式会社にて動画配信サービスやIoTシステムの企画開発を担当。2011年、岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発やIoTシステムの企画開発に関する支援を行う。2014年、DMM.make AKIBA立ち上げに参加。エヴァンジェリストとして情報発信や企画を行う。2017年、IoTセンサー向けプラットフォームを提供するファストセンシング株式会社を創業。2019年より個人事務所を立ち上げ。
日本国内ハードウェア起業シーンを盛り上げたいという意志のもと、ニュートラルな立場でさまざまな活動をおこなっている。

HAX Tokyoとは

HAX TokyoはSOSV、SCSK、住友商事の共同運営による、ハードウェアに特化したアクセラレータープログラムです。

採用されたチームには、米国シリコンバレー発、世界的に実績のあるハードウェアアクセラレーター「HAX」にて蓄積された知識やノウハウが提供されます。また、ハードウェアに特化したコミュニティが提供され、ビジネスおよび製品開発の分野で世界をリードする専門家や、住友商事をはじめとする日本のパートナー企業とのコラボレーションの機会が得られます。

さらに、3ヶ月後のDemo Day後には、HAX Shenzhen(中国)、HAX San Francisco(米国)に参加し、ベンチャーキャピタル等から資金を得て事業を拡大できる可能性があります。

詳しくはウェブサイトをご覧ください。

HAX Tokyo オフィシャルウェブサイト https://www.hax.tokyo/
Twitter: https://twitter.com/HaxTokyo
Facebook: https://fb.me/haxtokyo

(聞き手:越智岳人 取材・文:淺野義弘)