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VCはプロトタイプをどこまで重視する? 「テック系スタートアップ資金調達のリアル」

ベンチャーキャピタル(VC)から資金を調達すべく、プロトタイプのデモを披露することはよくあることです。しかし、動作はしっかりしているはずなのに、なんとなく反応が悪かったり、コミュニケーションがうまくいかないといった状況に陥るケースも同様に珍しくありません。
 
プロトタイプを作るにあたって、スタートアップは何を重視すべきなのでしょうか? あるいは、ものづくりの手を止めてでも、他に優先すべきことがあるのでしょうか? ハードウェアに特化したアクセラレータであるHAX Tokyoが、創業期の投資・育成に特化した国内最大級のVCであるIncubateFundの和田圭祐氏をゲストに迎え、VCから見たプロトタイプの価値について議論しました。
 
※ この記事は、2022年7月26日に開催されたオンラインイベントの内容を抜粋・編集したものです。

出資したくなるプロトタイプの条件とは

和田氏:IncubateFundの和田です。独立系のVCとして、シード期のテック系スタートアップを中心に投資を行ってきました。「まごチャンネル」を開発・販売する「チカク」を皮切りに、スマートベッドや枕を手掛ける「Ax Robotix」や、物流システムと搬送ロボットを展開する「LexxPluss」などを支援しています。

 
岡島:スタートアップの皆さんと話していると、「プロトタイプを見せたが、VCからの反応が悪い」と相談いただくことがよくあります。たいていの場合、動作自体はきちんとしているので、技術的に大きな課題があるわけではありません。そこで欠けているのは、むしろ「どんな仮説を検証するためのプロトタイプなのか」というビジネス的な観点だと感じています。和田さんから見て、出資したくなるプロトタイプの条件はありますか?
 
和田氏:おっしゃる通り、ものづくりとしての合格点と、ビジネスとして資金を調達するための基準にはギャップがあると思います。私が投資家目線でプロトタイプを見る場合、三つの点を気にしています。
 
一つ目は実際の利用イメージが湧くレベルで、便利さや性能の良さを証明できる原理試作であること。二つ目は、経済合理性がしっかり検討されていること。量産化に至ればスケールメリットを得られますが、少量生産の段階であっても、製造原価や販売価格が導き出されているかは知っておきたいポイントです。三つ目にあげるとすれば、そのプロダクトにしかないユニークな特徴。類似品や競合品ではなく、あえてその製品を買いたくなる理由がシンプルに伝わるものであれば、事業として成長していくイメージが持ちやすいです。

プロダクトだけに着目しない。BizDevと合わせてプロトタイプを考える

岡島:エンジニアはプロトタイプの見た目を良くしたり、速さや正確性を改善したりと、プロダクトとしての品質を上げる方向に進みがちです。それも一つの解ですが、必要最小限のプロダクトを世に出し、顧客の反応をもとに改善を重ねるリーンスタートアップのように、製品の周りにある情報の見せ方やコミュニケーションも含めて作り込むアプローチもあります。プロダクトだけではなく、パッケージやマーケティングなど、周囲の情報も含めて「プロトタイプ」と考えられるのかもしれません。
 
和田氏:コンシューマー向け製品の場合、プロダクトを開発する過程で、製品の存在意義や顧客への提供価値の定義はある程度終わっているはずです。そのため、簡単なランディングページを立ててマーケティングを行ったり、場合によってはクラウドファンディングを実施したりと、プロダクトの開発と周囲への訴求を同時並行で進めることもできるでしょう。
 
エンタープライズ向け製品の場合には現場で課題を聞きながら進めていかないと、「何を検証するためのプロトタイプなのか」という位置付けや検証項目がずれてしまうかもしれません。ものづくりの外側にある事業開発領域も含めた広義のプロトタイプとして、提供価値をクリアにしていけると良いのではないでしょうか。
 
市村:私はHAX Tokyo のディレクターとして、スタートアップのチームに入り、量産化の支援や事業開発まで幅広く伴走しています。そのなかで感じるのは、顧客が持つ課題やその解決手段がクリアになっていない状態でプロトタイプを作ったとしても、うまく噛み合わないということです。
 
ハードウェアを開発できるチームはプロダクトの開発ロードマップもしっかりと作られていることがよくありますが、プロトタイプを最大限に活用するためには、それだけでは足りません。事業開発、顧客開拓、資金調達、メンバー募集などのタイミングが盛り込まれた事業計画とプロダクト開発のロードマップがリンクしている必要があります。
 
例えば、マーケティングに力を入れるタイミングなのに、見た目が悪いプロトタイプしかなければ問題ですよね。逆に、もしかしたらCGだけでも充分な効果があるかもしれません。会社のフェーズにきちんと合わせた、いわゆるMVP(Minimum Viable Product)をタイミング良く準備することが重要です
 
岡島:フェーズに応じてプロトタイプの要件を見極めることが大切なのですね。ユースケースや経済合理性など、その時点で何を検証すべきかをしっかり考え、項目に応じたプロトタイプを作って活用すると効果がありそうです。

検証自体にコストがかかる領域での進め方

岡島:医療や宇宙開発などのディープテック領域では、プロトタイプを準備しようとしても、検証コスト自体が膨大になるケースがあります。実地検証が行えず、シミュレーションで済ませざるを得ない状況も出てくるでしょう。IncubateFundは惑星探査用の小型ローバーを開発する「ispace」にも投資していますが、すぐには実現が難しい開発領域に取り組むスタートアップを、どのように評価しているのでしょうか。
 
和田:多くの宇宙系スタートアップは、ゼロからいきなり会社を立ち上げるのではなく、前身となるプロジェクトや所属先での成果をもとに事業化しています。そうした助走期間の積み上げや検証済みの要素技術と、会社として新たに検証すべきことを切り分けて考え、長期にわたる開発ロードマップをしっかりと整理していただくことが必要です。
 
岡島:単純にシミュレーションだから良い/悪いという話ではなく、長いロードマップの中でどんな役割を果たすものなのか、その意義や成果が事業にどう貢献するかというロジックで評価が変わるのですね。
 
市村:PoCに必要なコストも領域によって異なるため、検証したい項目や規模次第でVCへのアピール方法も変わりそうです。
 
和田氏:パートナー企業の協力だけで検証できるものから、治験を実施して初めて価値が出る医療のような領域もあります。社会的なインパクトは大きくても、長期にわたるR&Dが必要なものであれば、VCからの調達以外に、公的機関や財団が扱う助成金や補助金を獲得することも戦略の一つです。

アイデアだけでなく、まずは自力で開発と仲間作りを

岡島:最初のプロトタイプを作るための資金が欲しい、つまりはアイデアだけがある状態で相談に来られた場合は、どのように考えますか?
 
和田氏:例えば、空飛ぶ車を作るのであれば、初期段階から資金調達が必要になるでしょう。しかし、家庭用のハードウェアのようなものであれば、プロトタイプをつくるためのコストは限定的なはずです。最初から全体を作る必要はありませんが、競争力になりうる重要な箇所を作れるチームであれば、投資対象として魅力的に見えますから、そこまでは自走してほしいと考えるVCが多いでしょう。
 
小規模なクラウドファンディングや、創業者向けの融資などを活用すれば、初期のコストは自分たちで回収できるかもしれません。アイデアだけで留まるのではなく、自分の構想を形にするための工夫をしてほしいフェーズだと思います。
 
岡島:HAX Tokyo としても、アイデアだけを持ち込まれた方には、まずは自力での試作と仲間探しを提案しています。ピンポイントなプロトタイプであればコツコツと資金を貯めて作れるはずですし、その過程で支えてくれる仲間を見つけることは、企業として顧客を説得していくことにもつながっていくでしょう。

 (取材・文:淺野義弘)

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