レポの基本⑫:レポと有担保コールの違い

今回も短期金融市場について記載しますが、本稿は下記を前提としますが、今後必要に応じて加筆・修正します(これまで記載した内容については既に大きく加筆・修正しているので注意してください)。

レポの基本:現先取引と現担レポ取引|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本②:「国債決済期間短縮(T+1)化」と現先の普及|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本③:ターム物のレポ取引|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本④:レポとフェイル|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑤:東京レポレート|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑥:補完供給オペにおけるレポ取引の事例|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑦:フェイル慣行の歴史と現状|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑧:円債における社債におけるレポ市場と共通担保オペ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑨:後決めGCレポとバスケット|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑩:ワンタッチスルー・ブラインド方式|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑪:短資会社とは|服部孝洋(東京大学) (note.com)

コール市場を勉強した時に、初学者が一つ混乱する点は、有担保コールとレポの違いです。日銀の資料やデータなどをみると、コール市場には無担保コールと有担保コールがあり、それとは別にレポ(現金担保と現先)があります。レポは、これまで説明してきたとおり、(厳密には現金を担保とした貸借ですが)経済的には、国債を担保とした貸借であり、その多くがオーバーナイトの取引であることに鑑みれば、有担保コールとも解釈できます。実際に、有担保コールについては現在、国債が担保であることがほとんどであり(昔は手形などもあったようですが)、経済的にはレポも有担保コールもほとんど同じと、実務家も整理しています。

歴史的にみれば、有担保コールは非常に長い歴史を有しています。東京マネーマーケットによれば、「昭和初期の金融恐慌以来、一貫して有担保主義がとられてきたため、コール取引といえば有担保コール市場であった。しかし、昭和50年代に入り短期金融市場の自由化・国際化が進展した(p.89)」としています。その後、国際化が進展する中で、無担保コール取引が生まれ、無担保コール市場が拡大します。東京マネーマーケットでは、「無担保コール市場が創設されて以来、緩やかな現象傾向となっている」(p.82)としています。2000年代の重要な改革としてRTGSへの移行がありますが、これも有担保コールから無担保コールへのシフトを加速させました(詳細は「RTGS-半年間の経験と評価」を参照してください)。

2016年にマイナス金利政策が導入されて、有担保コール市場は一気に縮小することになり(下記の図のとおり)、現在では短期金融市場でのプレゼンスは小さいといえます。一方、これは別の機会に記載しますが、レポ市場はマイナス金利以降も拡大傾向にあり、T+1決済などを契機に、現先の普及も進んでいるといえます。したがって、現在での有担保貸借の主軸はレポと整理することができるでしょう。

market2110.pdf (boj.or.jp)

有担保コールとレポは何が違うか
上記の文脈から、日本の短期市場の歴史という観点でいえば、有担保コールからレポ(特に現先)へ、という流れで整理できます。その一方、前述のとおり、有担保コールもレポも、経済性は両方とも、国債という担保を用いた貸借なので、どちらも同じですから、初学者は混乱するところです。

実務家に聞いた私の整理は、有担保コールは、単に担保付の短期ローンであり、非常に緩やかな制度になります。下記が有担保コールの担保の掛け目ですが、こういうルールで簡易的に有担保の貸借ができる、というのが有担保コールの特徴だとおもいます。一方、現先というと、時価をどう評価するかやマージの取り扱い、フェイル慣行も含め、様々な厳格なルールがあります。

有担保コール取引の担保|セントラル短資株式会社 (central-tanshi.com)

それではなぜ有担保コールが完全に消滅して、レポへ移行しないかというと、以前から使っていた制度を使いたい人も少なくないということです。これはレポ市場においても、長年、現担レポと現先が併用されており、なかなか国際的に用いられている現先が普及しないことと同じ問題だとおもいます。つまり、いわゆる新現先を使うためには様々なシステムの投資や社内のルール変更などが必要になるため、依然として現担レポが使いたい人が存在しており、有担保コールを使いたい人がいる理由も、ほぼ同じということです(この点は下記で説明しました)。ルール上の厳密さという観点でいえば、「有担保コール<現担レポ<新現先」と整理できると思います。
レポの基本②:「国債決済期間短縮(T+1)化」と現先の普及|服部孝洋(東京大学) (note.com)


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