レポの基本⑩:ワンタッチスルー・ブラインド方式

今回も、レポの基礎的な内容について記載します。下記を前提としますが、今後必要に応じて加筆・修正します(これまで記載した内容については既に大きく加筆・修正しているので注意してください)。不正確な記述や追加したほうが良い点等があればご指摘ください(随時アップデイトしていきます)。

レポの基本:現先取引と現担レポ取引|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本②:「国債決済期間短縮(T+1)化」と現先の普及|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本③:ターム物のレポ取引|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本④:レポとフェイル|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑤:東京レポレート|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑥:補完供給オペにおけるレポ取引の事例|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本⑦:フェイル慣行の歴史と現状|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基礎⑧:円債における社債におけるレポ市場と共通担保オペ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基礎⑨:後決めGCレポとバスケット|服部孝洋(東京大学) (note.com)

レポ市場の取引はワンタッチスルー・ブラインド方式と呼ばれる方法で取引されています。東京マネーマーケットでは、

当事者の間に入り、直接の取引相手として仲介を行うワンタッチスルー・ブラインドと呼ばれる形で取引を行っている(p.196)

と説明しています。また、セントラル短資のウェブサイトでは下記のように説明されています。

この方式では、当社がオファーサイド・ビッドサイドのカウンターパーティとして間に入り、仲介を行う。貸借契約の締結および受渡決済は当社と当該取引先との間で行うため、ネーム開示を行わない取引となる。

債券レポ市場の慣行など|セントラル短資株式会社 (central-tanshi.com)


これは短資会社がレポ取引を仲介する際、いったん相手側に立つという取引方法です。例えば、証券会社Aがレポ取引を行いたいとします。具体的には板で取引する場合と、ボイスで取引する方法があるのですが(この詳細は後日記載します)、短資会社がその相手方を見つけてきます。そのうえで、その反対方として、信託銀行Bをみつけてきたとしましょう。この場合、証券会社Aと信託銀行Bで有担保貸借を行うわけですが、ワンタッチスルー・ブラインド方式とは、いったん短資会社がその相手方になるという取引です。すなわち、証券会社Aと短資会社でレポ取引をした後で、短資会社と信託銀行Bでその反対側の取引をするわけです。

ワンタッチスルー・ブラインド方式の良さは、その名の通り、その取引相手がブラインドになるということです。コール市場であると、クレジットリスクがあることから、短資会社は短期的な貸借を行う場合、短期的に借りたい人と貸したい人を探してきてマッチさせた後、その取引相手のネームを明らかにして、貸借するということになります。無担保コール市場の場合、理屈上は1営業日のクレジットリスクがあるため、クレジットラインの確認などで、取引の相手側のネームを知る必要があります。ネームを明かして、お互い合意できなければナッシングになります(ナッシングにならないような取引を促す点が短資会社の役割ともいえるのですが)。

その一方、このワンタッチスルー・ブラインドと呼ばれる方法であると、短資会社との取引という形にすることで、取引の相手がみえないブラインドという取引になります。短資会社としては、短資会社がワンタッチすることでブラインド取引になるものの、事実上、仲介取引となるため、ワンタッチスルー・ブラインド方式と呼ばれるわけです。

東京マネーマーケットでは、「現先市場においても、自己勘定で取引の仲介を行うほか、自らもTビルのディーリングを行っている」(p.196)など一定の自己勘定取引もあるとしていますが、基本的には取引の仲介をしています。したがって、先ほどの例をあげれば、証券会社Aがあるレポ取引を行いたい場合、その相手方を見つけることができなければ、ノー・プライスということになります(実際にそういうことはよくあります)。

その一方、このワンタッチスルー・ブラインド方式においては短資会社があくまでその相手側となって取引をするため、相手方が何らかの形で取引が履行できなくなった場合、短資会社がそのリスクを負っているという側面もあります。もっとも、レポ取引が短期間の取引であることからそのリスク量そのものは限定的であること、また、このリスクがあることが短資会社のレポ取引を行う際の手数料の源泉になっている、とみることができます。

なお、最後にJSCCのクリアリングですが、この取引においてはクリアリングすることも、しないこともできます。JSCCでのクリアリングをする場合、先ほどの例をあげれば、証券会社Aと短資会社の取引でJSCCでクリアリングし、短資会社と信託銀行Bの間でJSCCのクリアリング、という形でクリアリングを行います。もちろん、JSCCでクリアリングをしない方法もあります(日銀のデータによればクリアリングしていないレポ取引も多くあります)。


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