レポの基本④:レポとフェイル

今回も、レポの基礎的な内容について記載します。下記を前提としますが、今後必要に応じて加筆・修正します。不正確な記述や追加したほうが良い点等があればご指摘ください(随時アップデイトしていきます)。

レポの基本:現先取引と現担レポ取引|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本②:「国債決済期間短縮(T+1)化」と現先の普及|服部孝洋(東京大学) (note.com)
レポの基本③:ターム物のレポ取引|服部孝洋(東京大学) (note.com)

今回はフェイルについて説明します。フェイルとは、国債の売買をした場合、決済時において対象となる国債の受け渡しができない状況です。フェイルそのものは、このように決済と密接な概念ですが、「東京マネーマーケット」ではレポ取引のセクションで取り扱われています。その背景には、国債の取引において、決済とレポは非常に密接だからです。国債のトレーディングにおいてフェイルに一番かかわりうる主体はレポ・トレーダーといえますが、レポのトレーダーについてはまた別の機会に議論します。

どういうときにフェイルが起こるかというと、例えば、トレーダーがある銘柄(例えば360回債)を持っていないのに、T+1決済で売却したとしましょう。これ自体はよくあることなのですが、この場合、翌営業日に360回債を渡さなければらないため、360回債を調達してくる必要があります。例えば、他の業者から買ってくるとか、レポ市場や補完供給オペを使って借りてくるということがありえますが、その調達ができなかった場合、360回債を受け渡せないということになります。これがフェイルが起こった状況です。

フェイルに対しては、ペナルティが課されています。これをフェイルチャージといいます。具体的な計算式は下記のとおりです。

第3回WGの運営イメージ (jsda.or.jp)

要は、おおよそ3%(年率)/365×受渡金額(取引金額)を、フェイルした期間で、(受け渡せなかった相手に)支払うという罰則規定です(政策金利がマネタリーベースの場合は、上式の参照金利が0%になるので、現在のフェイル・チャージは3%になります。詳細はJSCCの書籍などを参照してください)。そもそもレポレートがSCを含め、0%を周辺とした小さな値であることを考えればこれがいかに大きなチャージであるかわかります(なお、特定の銘柄が非常にショートされた場合、フェイルチャージ以上のレポ・コストが発生しうることもあり、例えば、今年の年初などそういうことが起こったようです)。

歴史的には金融危機を受けて、フェイルが増えたことから、フェイル慣行を作ろうという努力のもと、今の制度が生まれました(この辺りは後日また記載します)。先ほど記載したとおり、読者が予定通り受け取れなかったら、フェイル慣行で3%を貰えるということになります。3%もらえるならいいのでは、という見方もあるかもしれませんが、例えば、読者は受け取る予定だった国債を他に渡さなければならなければフェイルしてしまうという状況かもしれません。

もっとも、フェイル慣行が普及していれば、例えば、私のせいで読者が受け渡せなくなった場合、私が3%を支払い、それを用いて読者が3%が支払うという形が可能です。特に欧米ではフェイル慣行が普及されているとされており、欧米金融機関はフェイルに相対的に寛容であるところ、日本だけフェイル慣行が普及していないと、先ほどのように、自分はフェイルされるのに、相手にはフェイルできないという形になり、市場の不安定性を生みます。これを防ぐということがフェイル慣行が意味することです。

もっとも、日本の場合、フェイルチャージ以前に、そもそも安全な決済を金融機関が求めることがしばしば指摘されています。今でも日本ではフェイル慣行が普及しにくいとされていますが、その背景には、フェイルに対して厳しいという日本の債券市場における独特の商慣行が指摘されることもあります。しかし、この現状について、例えば、下記のような指摘もあります(詳細は下記のリンクを参照)。

例えばフェイルというのは有価証券の引き渡しが遅れた場合には次の日に繰り越されるという市場慣行だが、日本では事務ミスと認識して出禁にするところがある。あまり海外では聞いたことがない。

国際的な契約社会においては、書面で約束することに対して慎重になるため、なかなか具体的な内容に踏み込めないのだが、four eyes check(4つの目、つまり2人でダブルチェックをすること)を徹底するなどと書かれたものが多いようだ。更にミスが起きると6 eyes checkにするなどという冗談みたいな話も聞かれる。内容というよりは書面で詫びるというプロセスが大事という側面もあるのだろう。

それでも日本だけは特殊だからと必死で対応してきたが、そろそろ日本切り捨て論が強くなっているのをひしひしと感じる。同じことは金融だけでなくあらゆるところで起きているようだ。

やはりミスや失敗を許さない文化というのがあるのだろうか。日本に経済力があった時は問題なかったが、ここまで国際的なプレゼンスが落ちてくると、いつまで過剰サービス対応を貫けるのだろうか。

日本のビジネス慣行 | 金融の未来を考えるブログ (saferich.biz)

なお、前述のとおり、東京マネーマーケットではレポ取引の中で、フェイルを取り扱っているため、「スタート・フェイル」と「エンド・フェイル」を整理しています。レポ取引は、買って売り戻す(あるいはその逆)という取引なので、最初に買う時点でフェイルする可能性と、売り戻す時点でフェイルする可能性がありえ、前者をスタート・フェイル、後者をエンド・フェイルと整理しています(現物は売買であるところ、レポ取引では反対売買まで当初から約束するため、こういう概念が生まれるわけです)。例えば、「スタート・フェイル」については、玉を出す側が最初に物をもっていなくてレポしてしまい、渡せなくてフェイルしてしまうということです(在庫の管理上、こういうことも起こりえるようです)。

追記
下記もご参照ください。
レポの基本⑦:フェイル慣行の歴史と現状|服部孝洋(東京大学) (note.com)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?