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【短編小説 ルチアーノ -白い尾のオナガ- 10】Reunion 再会(最終話)

10 Reunion 再会

東の空が明るみ始め、ルチアーノは目を覚ました。
体は軽く、まばらな尾羽がすっかり元に戻っていた。
「まだ夢を見ているのかな」
うろを出て、尾羽を日にかざすと向こうの空が透けて見えた。
「やったぞ! 僕は青い尾羽を手に入れたんだ」
急ぎ仲間のいる森に向かった。
少し翼を動かしただけで、どんどん前に進んだ。両翼の向こう側の景色も透け始め、胴も足もどんどん透き通っていったが、ルチアーノは気づかなかった。
 
「僕の尾羽を見て!」
森に着いたルチアーノは、オナガ達の周りを飛びまわった。
「あいつの甲高い声がする。どういうことだ? 喉は潰したはずだぞ」
ティランノは取り巻き達を呼びつけ、今度はどうしてくれようかと相談し始めた。
「しぶとい奴だ。忌々いまいましい。一体どこにいる?」
辺りを見回したが一向に姿は見えなかった。
「空耳に違いない。あいつのことなど放っておいて、さっさと朝食をろうじゃないか」
さっぱりと取り巻き達を促すティランノ片目は赤黒く淀み、せわしなくあたりを見回していた。
「僕のことが見えないのかな?」
ルチアーノを通り抜けた日の光が、木々の葉の上でちらちらと踊った。
ルチアーノは空の青になっていた。海を渡ると海の青にもなった。あらゆる赤にも、黄色にもなった。
「もういいや」
ルチアーノは空高く舞い上がった。
「僕と同じような鳥もどこかにいるさ」
新しい仲間にはなぜかすぐに出会える気がしていた。
どんどん昇っていくと、遥か先できらりきらりと何かが光った。
「星が出るには早過ぎるし、月にしてはすばしっこいし、太陽はまだ登り始めたばっかりだ。ひらひらしているし、蝶々かな?」
ルチアーノは小さくまたたく光を目指して飛んだ。
「鳥だ!」
形も大きさも様々の透明な鳥が飛びまわっていた。
更に昇ると、数がどんどん増えていった。
ふとその中に見覚えのある長い尾の鳥を見つけた。チェードロだった。
「チェードロ! 僕だよ。僕が見える?」
振り向いたチェードロはぱっと目を輝かせ、ルチアーノに向かって急降下した。
「ルチアーノ! 君がここに来ることは分かっていたんだ。なぜってここに来たら君の様な鳥が沢山いたからね」
「僕を待っていてくれたの?」
「そうさ。また会おうって約束したじゃないか。だけど思ったより早かったな」
チェードロはすっとルチアーノに並んだ。
「ここは永遠なんだ」
そう言ったチェードロの片目は潰れていた。
「チェードロ、片目どうしたの?」
「ティランノにやられたんだ。だけど、僕もあいつの片目、潰してやった」
「あれチェードロがやったの?」
「それがあいつの為にもなるって思ったんだ。目が見えるからあんな風になっていたんだから。だけど、もう片方も潰してやる前に喉に噛みつかれて、息ができなくなって、そのあとの事は覚えていないんだ。でも、もう痛くないし、ここでは目が見えなくても見えるからね」
「あいつ、仕返しにくるんじゃない?」
「ティランノはここに来ることなんてできないよ。だってここにはあいつみたいな奴は一羽もいないからさ」
ここにいる鳥はみんな透明で、何色にだってなれるし、何色だっていいんだ。そう言ってチェードロは潰れていないほうの目でルチアーノにウインクした。
「もう尾羽のことは気にしなくていいんだね」
「そんなことは最初から問題じゃなかったんだよ」
チェードロにうなずいて、ルチアーノは真っ直ぐ前を向いた。
「さあ、もっと高く昇ろう。この先で誰が待っていると思う?」
チェードロの言葉にルチアーノの目も輝いた。

終わりかけの朝焼けがルチアーノを染めた。二つ並んだ長い尾からやがて金色が流れ出した。金色は長い筋を引いてどこまでも昇っていった。

潜っても 潜っても 青い海(種田山頭火風)