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秋の夜の匂いとタバコはあの恋の匂い#2

眠っている間に見る夢って起きてその時はまだ覚えてることもあるだろうし、すぐに忘れてしまうこともあるだろう。
なんだかインスタのストーリーみたいだなって思うことがある。
もう見たくない夢や、まだまだ続きが見たくなる夢。
夢の中でしか会えない人、夢の中でしか成り立たない人間関係。夢の中の世界観。
夢を保存してもう一度見たり、続きを楽しんで編集出来たり出来たらいいなと思う。ちょっとずつ増やして1本の映画にしても良し、短編集みたいなのものをいくつも作るもよし。誰かと夢の作品共有が出来ると面白いのにな。


あぁ、今日ももうちょっと寝てたいな。
秋の朝はまだまだ寝てたい。そんな気持ちにさせる。
でも今日は起きないといけない。そんな使命感に駆られるのは、もしかしたらまた友梨ちゃんに会えるかもしれない。
そう思ったから。今日は二限からだが、先日の喫煙所あの時間帯に大学に行けば、地元の駅、大学の最寄り駅、喫煙所この3箇所のどこかでは会えるかもしれない。
ただ、会って話がしたい。もっと彼女のことを知りたい。こんなに興味があるのは恋というときめきのせい。

駅前のコンビニで麦茶を買い、電車に乗る。また2時間の小旅行の始まりだ。
今日は早く家を出たこともあり、罪悪感は一切ない。
むしろワクワクが止まらなかった。
イヤホンを耳にはめて、銀杏BOYZの君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命を聴く。
いつもの通学がこんなにキラキラしたものになるだろうか。
気持ちが変わると普段の現実世界も悪くない。

大学に着き、いつもの喫煙所へ。
誰もいないはずの喫煙所のベンチに人がいた。

「おはよ。ケータくん」

友梨ちゃんだった。

「おはよう」

と平然としながら僕もベンチに座る。ポケットからタバコを取り出し、タバコに火をつける。
 タバコが美味しいと感じる日は調子がいい日だ。
 
 「今日も遅刻?」
 
 笑いながら彼女は言った。
 
 「今日は二限から、早く来てゆっくりしようかなって」
 「全部一限からにしてるのかと思った」
 「そんなことないよ。友梨ちゃんが居ると思わなかった。」
 「ここの風景いい感じだったから誰もいないうちに写真撮ろうと思って早く来たの」
 
と彼女は撮った写真を見せてくれた。
この時間の喫煙所はちょうど太陽の光が入ってきて木々がキラキラしている。彼女は色んな角度からその風景を写真に収めていた。

「ケータくん、カメラには絞り値ってあってレンズの穴の大きさを決めれるの大きいと光がいっぱい入ってきて、明るくなって小さいいと暗くなるの。」
「へー!人の目みたいやな」

と言って僕は目を細めたり大きくしたりした。彼女はそれを見ながら笑って

「そうそう!写真って英語でフォトグラフって言うでしょ?」
「ピクチャーやと思ってた」
「フォトは光でグラフは記録。写真は光の記録ってことなの。光って写真をとるのに凄い大事」
「光も世界も切り取れるんやカメラって。そこまで考えたこと無かったわ」
「それを考えながら何気ない道とか歩いてると楽しいよ」

自分の知らない誰かの好きなことを聞くのは凄く楽しい。テレビやラジオで紹介されるのも良いが、それが自分が好きな人なら尚更だ。完全にカメラの魅力、友梨ちゃんの魅力に惹き込まている。

「ケータくん銀杏BOYZ以外に他は何を聴くの?」
「言っても理解されないジャンルか、メジャーなやつかな。だいたい幅広く聴いてる。銀杏BOYZは高校の時にGOING STEADYを知ってそこからずっと聴いてる。」

と言ってiPodを見せる。

「ゴイステいいよね」

と彼女はiPodをいじりながら言った。

「私も幅広く聴いてる。バンドはお兄ちゃんの趣味で元々は別にこだわりとかはないの。なんかケータくんのオススメとかないの?」
「最近はBON JOVIかな。洋楽の。名前くらいは知ってるんちゃう?」
「名前だけは知ってるかも」
「こないだライブのバイト行ったらめっちゃくちゃカッコよかったんよ」
「ライブのバイト楽しそう。いいなぁ」
「めっちゃくちゃしんどいよ。スーツ着てずっと立ってるだけやったし、ステージの反対向いとかないといけないから」
「ふうん、BON JOVIって大御所じゃない?」
「そそそ、俺らが生まれる前からバンドやってるよ。洋楽って邦ロックにはない音の厚みみたいなのはある気がする、バイトでライブ行かなかったら有名な曲だけ知ってる止まりやったわ」
「へー、CD持ってるん?」
「持ってるよ。新しいアルバムのWho Says You Can't go homeって曲がめっちゃくちゃ良いねん。懐かしい気持ちになる。」
「今度そのアルバム貸してくれない?」
「いいよ。今度持ってくるわ」
「やった!ありがとう!」

そう言って、彼女は次のタバコに火をつける。
今度がいつになるんだろう。連絡先を聞いてもいいものなのだろうか。すごくモヤモヤする。
そして一限終わりのチャイムが鳴った。
「ケータくん明日も授業ある?私はあるからまた明日ここの喫煙所で」
「オッケ、じゃあ明日アルバム持ってくる」
「ありがとう。楽しみにしてる。」
友梨ちゃんはバックパックにカメラをしまって立ち上がる。

「じゃあ、また明日ね。」

と手を振って彼女は外国語学部の建物に向かう。ちょうど太陽の光が顔に当たって眩しく映る。これがシャッターチャンスかと思いながら僕も手を振った。


つづく



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