クラブに通い始める_入場編

前回の記事で、シーモネーターに出会い、どハマりした事を書いた。高校2年生の春だった。

ハマり方が多少変わっているな、と思うが、私はシーモネーターのCDを毎日のように聴いて、ほぼ全曲暗記する事はもちろんの事、曲をMDにコピーして、歌詞もコピーして友達に配って啓蒙活動をした。

(今冷静に考えれば、著作物の私的使用の複製からは少しはみ出る気がするから、本当はいけなかったのだ。大人になって、更に今そういった著作物を管理する業務として理解はしている。無知ゆえの若気の至り、ごめんなさい。)

「シーモネーターっていうアーティストがいてね、格好は海パンに天狗つけてるんだけど、でもこの歌詞とかが良くてね、、、」という感じで、MDと歌詞を渡す時に説明して回った。

私は私自身が味わった感動を、少しでも多くの人に知って欲しかった。普通とか規格からぶっぱなれたこんな世界もあるんだよ、と。今思えば、幼きプロモーター(宣伝マン)だった。後になるレコード会社のプロモーターの真似ごとのような事を、既にこの時自然としていたのだった。

下ネタしかないリリックのジャパニーズラップアーティストを、同級生に身振り手振り説明しながらオススメしまくる女子高生は、普通に考えてちょっと変だ。友達も笑っていた。ほんの少しでも興味を持ってもらえた時は、とても嬉しかった。

無関心な人に向けて、プロモーションするという事は、ちょっと変なくらいの熱量でちょうどいいと思う。むしろ足りないくらいの時だってある。という事を、レコード会社のプロモーターから離れてだいぶ経つ今も思うので、あの頃の自分に変じゃないよ、プロモーター頑張っているね、と伝えたい。


話は戻って、シーモネーター&DJ TAKI-SHITの活動は、基本的に深夜のクラブだった。

デビューをしたばかりなので、たまに昼のイベントなども出るが、なんせ格好が海パンに天狗の人と、マンキニスタイルの人だけに、昼呼ばれるところは限られる。

今もそうだが、高校生は青少年保護育成条例で深夜22時頃までしか外にいられない。

私は推しへの激アツの熱量を、最初の方は昼イベント全てに行きまくり、ラジオを毎週聴き、ハガキを出し、雑誌のインタビューを読みこみ、何とか解消していたが、深夜のクラブイベントに行きたい気持ちが抑えられなくなってきていた。

シーモネーター&DJ TAKI-SHITの一番のホームは、深夜のクラブでの主催イベント「だんじりまつり」である、という事を知っていた。(「だんじりまつり」のリンクを貼ろうと思ったが、まさかのmixiコミュしかない)

「だんじりまつり」は名古屋の当時最大クラブOZONで開催される1,000人集客のイベントで、深夜としてはかなり大規模イベントだった。

どうしても「だんじりまつり」に行きたい!!!!どうしても!!!!

その気持ちを幾度か母にぶつけても、そこは普通に「高校生なんだから、無理だよ」と一蹴されていた。それでも激アツの思いが揺らぐわけもなく、何度も何度も交渉した結果、母は驚くべきというか、妥協案を出してくれた。

「保護者同伴なら良いよ、私ついてく」と。

娘がどうしても行きたいクラブイベントに、最悪青少年保護育成条例を違反しない為についてきてくれる母がどこにいましょうか。この件において、クレイジーな母にとても感謝した。

私は二つ返事で「よろしくお願いします!!!!!」と頭を下げ、近々のだんじりまつりのチケットの入手した。

それからの日々は、全て「だんじりまつり」に参加する事だけを目標とした日々になった。「だんじりまつり」があるから期末テストも頑張るし、「だんじりまつり」があるからバイトも頑張った。

そして、遂に念願のその日がやってきた。一学期の最終日だったので、私は学校に私服一式と化粧道具を持っていき、学校が終わると同時にダッシュで名古屋へ向かった。

母は車で既に名古屋に来てくれていて、母の車の中で、一緒に来てくれた友人と一緒に化粧をして着替えた。

クラブOZONはその頃、伏見と矢場町の間の白川公園のそばにあった。その後移転をするが、この時のOZONが一番キャパは大きかった。

建物の入り口を入ると右手に階段があって、階段を登りきったところにエントランスがあった。階段には既に人が並んでいて、私達も並んだ。初めて「だんじりまつり」を体験できるドキドキや、初めてのクラブでのドキドキとは全く別のドキドキがあった。

母という保護者がついてきてくれているとはいえ、ここで大きな第一関門がある。

クラブには入場に年齢制限があるのだ。

そりゃ、あったりまえだ。高校生がクラブに入れるわけがないのだ。いかに18歳以上であるか、を身分証無しでエントランスで見せねばならなかった。第一関門であり、本日最大の難関だった。

母は最悪の場合、保護者同伴ですと言ってくれようとしていたものの、保護者同伴だからって高校生が入れる可能性は低い。

私と友人は階段で待つ間「18です、身分証忘れましたぁ〜」の練習をとにかくしていた。メイクの練習もできるだけ毎日して、なるべく大人っぽく見えるメイクにしたつもりだし、格好だって大人に見える格好をしてきたつもりだ。あとは、なるべく自然に「18です、身分証忘れましたぁ〜」を言えるかどうか、だ。

今思うと、アホカワすぎる。多分全然大人っぽいメイクじゃなかったし、イモみたいな格好だっただろう。現在は身分証がなくて入れるクラブなどほぼないが、その当時はまだ緩かったのだ。

あと少しで、エントランスの順番が来る。

ああ、神様。ここでもし弾かれたら私のこれまでの想いは、、、、と、今にも爆発しかねんレベルで心臓は高鳴っていた。落ち着け、動揺したらバレる。そう自分に言い聞かせながら、なるべく冷静を保つようにしていた。

見えてきたエントランスでは、どうやら持ち物検査がされているらしかった。かばんの中身やポケットの中身をある程度見せて、身分証のチェックの流れのようだ。

とりあえず冷静に、冷静に。

と思っていたけど、エントランスが近づくにつれ、更に緊張が高まる出来事が起きた。

エントランスにいたセキュリティの顔がとんでもなく怖い。やばい、でかい、怖い。実写版・北斗の拳みたいなセキュリティだった。年齢ごまかしたのバレたら海にでも沈められるんじゃないか、とさえ思う怖さだった。あのサイズの人間を見た事ない。

緊張と怖さで冷静さを失いそうになった中、最終的に正気に戻してくれたのは、推しへの熱い想いだった。この日をどれだけ楽しみにしていたか。この瞬間だけ、自分の中で精一杯の女優にならんかい!と。

自分の番が来た。

目の前に鎮座したセキュリティは、少し手前から見ていたよりも遥かにでかい。圧倒的に怖い。自分の中の精一杯の女優と動揺が交錯しまくって、ちょっとクラクラした。目の前に鎮座したセキュリティに、

「身分証は?」と聞かれ、私達は練習通り

「18です、身分証忘れましたぁ〜」に、「ごめんなさい」を付け加えて、巨大セキュリティから目を逸らさなかった。そして、何の問題もないようにチケットも手にして入り口の方面に体を向けた。


「どうぞ」

セキュリティからそう言われた瞬間飛び上がって喜びそうな気持ちを抑えて、当たり前とばかりにドリンク代を払い、冷静を装って入場した。ロビーで極めて静かに友と讃えあった。母は笑っていた。

クラブに入る前の最大難関をクリアした事で、初クラブがどんな箱なのか、これからどんなイベントが待っているのか、の本日の一大イベントにまだ意識を戻せないくらい興奮していた。


クラブ入るまでで長くなってしまったので、続きは次回書きます。


ハタノ



















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?